■多角形と外接円(その4)

 シュタイナーは19才まで農夫であったが,教師を目指してペスタロッチ学校に行き,その後,ベルリン大学教授にまでなった.シュタイナーは1826年,円と円の隙間の円鎖を詰めていってうまく詰まるならば,どこから始めても1周で閉じるという定理を証明なしに発表して,数学者たちを驚かせた.その方法が反転法で,舞台裏を知らない数学者たちは理由を知りたくてヤキモキしたという.

  [参]山本光雄「円の幾何」オーム社

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 正多角形の対称性から,正多角形の重心は外接円の中心に等しい.これまで長さの平方の合計,長さの合計を扱ってきたが,座標そのものを用いるのではなく,ベクトルを用いることで計算を簡単にすることができた.

  p1+p2+・・・+pv=0

 また,この議論は物理的に解釈することもできて,平方和

  Q=(p1−p1)・(p1−p1)+(p2−p1)・(p2−p1)+・・・+(pv−p1)・(pv−p1)

はp1のまわりの慣性モーメントである.それをシュタイナーの平行軸定理(Steiner's parallel-axis theorem)を使って回転点を重心に移すことができる.→コラム「n次元正多面体の辺と対角線(その14)」参照

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【1】シュタイナーの平行軸定理

 多面体の頂点ベクトルをp1,・・・,pv,重心ベクトルを

  c=(p1+・・・+pv)/v

任意の点をzとすると

  Σ|pk−z|^2=Σ|pk−c|^2+v|c−z|^2

が成り立つ.

 もっと一般的には,各頂点に重みwkを設けて,

  W=Σwk,Σwkpk=Wc

とおくと

  Σwk|pk−z|^2=Σwk|pk−c|^2+W|c−z|^2

が成り立つ.

 wk=1のときが

  Σ|pk−z|^2=Σ|pk−c|^2+v|c−z|^2

である.

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【2】応用

 この定理は物理学の問題や確率論の問題に応用されている.たとえば,ベクトルpkを位置ベクトルとみれば慣性モーメントの問題となるし,速度ベクトルとみれば運動エネルギーの問題に転化する.全分散を群間分散と群内分散に分解すると考えれば「分散分析」の問題となるのである.

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  大円(半径R),小円(半径r),中心間距離d

では

  s=(1−sin(π/n))/(1+sin(π/n))

とおくと

  d^2=r^2−rR(s+1/s)+R^2

が成り立つ.これがシュタイナーの定理に対応するオイラー・フース型定理である.

 もし,

  s=(1−cos(π/n))/(1+cos(π/n))

ならば,

  s={sin(π/2n)/cos(π/2n)}^2={tan(π/2n)}^2

となって,簡単な形になるのだが,・・・

 ところで,この定理は余弦定理

  c^2=a^2+b^2−2abcosθ

によく似ている(本質的には同じものと思われる).また,余弦定理から導き出される定理に「パップスの定理」や「スチュアートの定理」がある.→「ピタゴラスの定理の拡張(その3)」参照

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【3】パップスの定理

 △ABCの辺BC(長さa)上に中点D(AD=d)がある.

  BD=a/2,DC=a/2

このとき,

  b^2+c^2=a^2/2+2d^2

となる.

[補]この定理は中線定理,アポロニウスの定理とも呼ばれている.

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【4】スチュアートの定理(1730年代)

 △ABCの辺BC(長さa)上に点D(AD=d)がある.

  BD=m,DC=n,a=m+n

このとき,

  b^2m+c^2n=a(d^2+mn)

となる.

 スチュワートの定理はパップスの定理の拡張(m=n=1の場合)となっている.シュタイナーの平行軸定理は質点系の重心の関する定理であるが,スチュアートの定理そのものでもある.

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