■n次元の立方体と直角三角錐(その336)

 行列式を計算するとき,特定の行に関して展開する公式があり,それに小行列式がでてくる.

  |H|=h11Δ11+h12Δ12+h13Δ13

  Δ11^2+Δ12^2+Δ13^2=?

  Δ21^2+Δ22^2+Δ23^2=?

  Δ31^2+Δ32^2+Δ33^2=?

であるが,HとH’の関係がよくわからない.Hの転置行列をtHとおくと,

  |H・tH|=|H|^2=(h11Δ11+h12Δ12+h13Δ13)^2

となるだけのことである.

 うまく幾何学的な意味付けをすれば,H’の各対角成分は法線ベクトルの大きさを示しているという結論がでてくると思われるが,行列式の計算ではなく,外積を計算するときも小行列式がでてくる・・・これだ!

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【1】ベクトルの外積と平行四辺形

 まず最初に昔なつかしい「ベクトル」を思い出して頂き,「ベクトルの外積」の大きさ,すなわち,2つの2次元ベクトル

  a↑=(x1,y1)

  b↑=(x2,y2)

が作る平行四辺形の面積について考えてみることにします.

  |a↑|=a,|b↑|=b

とすれば,平行四辺形の面積は,

  S=absinθ

ですから,

  S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)

    =|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|a↑・a↑  a↑・b↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑|

で与えられます.内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行四辺形の面積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.これを座標を使って表せば,

  S^2=|x1 x2|^2

     |y1 y2|

のように展開されます.

 3次元ベクトル

  a↑=(x1,y1,z1)

  b↑=(x2,y2,z2)

のときは,

  S^2=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|y1 y2|^2+|z1 z2|^2+|x1 x2|^2

     |z1 z2|  |x1 x2| |y1 y2|

これは3次元ベクトル

  (y1z2−z1y2,z1x2−z2y1,x1y2−y1x2)

の長さの形をしています.

 これは平行六面体の体積

   |a↑・a↑  a↑・b↑  a↑・c↑| |x1 y1 z1|^2

V^2=|b↑・a↑  b↑・b↑  b↑・c↑|=|x2 y2 z2|

   |c↑・a↑  c↑・b↑  c↑・c↑| |x3 y3 z3|

ではなく,平行四辺形の面積であることを注意しておきます.

  a↑=(x1,y1,z1)

  b↑=(x2,y2,z2)

の外積は,3次元ベクトル

  (y1z2−z1y2,z1x2−z2y1,x1y2−y1x2)

で与えられます.すなわち,外積の大きさ=平行四辺形の面積なのです.

 少し見ただけではわかりにくい表示で,憶えるのも大変そうですが,行列式を使うと

           |e1↑ e2↑ e3↑|

  c↑=a↑×b↑=|x1  y1  z1 |

           |x2  y2  z2 |

上の行から,単位ベクトル,a↑の成分,b↑の成分の順に並ぶというわかりやすい形に整理できます.

 同様に,4次元のときは

  a↑=(x1,y1,z1,w1)

  b↑=(x2,y2,z2,w2)

  S^2=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|y1 y2|^2+|z1 z2|^2+|x1 x2|^2

     |z1 z2|  |x1 x2| |y1 y2|

    +|x1 x2|^2+|y1 y2|^2+|z1 z2|^2

     |w1 w2|  |w1 w2| |w1 w2|

これは6次元ベクトルの長さの形をしていることがわかります.

 一般のn次元の空間では

  a↑=(u1,・・・,un)

  b↑=(v1,・・・,vn)

に対し,

  S^2=|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =Σ(ujvk−ukvj)^2

ただし,Σはj<kとなるnC2=n(n−1)/2組に対して和をとるものとします.

 これは,n(n−1)/2次元ベクトルの長さの形をしているのですが,空間の次元が3のときだけ,運よく3次元ベクトルが得られていることがおわかり頂けたしょうか? この事実は,外積が3次元ベクトルでしか定義できないことを示しています.

 ベクトルの外積は3次元特有のもので,2次元でも4次元でもだめなのですが,ほとんどの物理現象は3次元空間で生じますから,これでも汎用性は高いというわけです.

 また,このことは,ベクトルの内積が一般のn次元空間でも

  a↑・b↑=Σukvk

と表されるのと対照的です.もっとも4次元以上では2つのベクトルa↑,b↑の張る平面に直交する方向は一義ではなくなるので,話がおかしくなってしまうのですが・・・.

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【2】グラミアンと平行体の体積

 2つのベクトルa↑,b↑を基底とする平行体(平行四辺形)の面積は,外積は

  a↑×b↑

3つのベクトルa↑,b↑,c↑を基底とする平行体(平行六面体)の体積は,スカラー三重積

  (a↑×b↑)・c↑

すなわち,外積a↑×b↑とベクトルc↑の内積で与えられます.

 |a↑|=a,|b↑|=bとすれば,平行四辺形の面積は,

  S=absinθ

ですから,

  S^2=a^2b^2(1−cos^2θ)

    =|a↑|^2|b↑|^2−(a↑・b↑)^2

    =|a↑・a↑  a↑・b↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑|

 同様に,平行六面体の体積は

  V^2=|a↑・a↑  a↑・b↑  a↑・c↑|

     |b↑・a↑  b↑・b↑  b↑・c↑|

     |c↑・a↑  c↑・b↑  c↑・c↑|

で与えられます.

 これらのように,内積の行列式で定義される行列式をグラムの行列式(グラミアン)といいます.平行体の面積・体積はグラミアンの平方根に等しくなるというわけです.

 また,座標を使って表せば,n+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値になります.

  |S|=|1 x1 y1|   |V|=|1 x1 y1 z1|

      |1 x2 y2|       |1 x2 y2 z2|

      |1 x3 y3|       |1 x3 y3 z3|

                     |1 x4 y4 z4|

 原点が含まれるときは,

  |S|=|x1 y1|   |V|=|x1 y1 z1|

      |x2 y2|       |x2 y2 z2|

                   |x3 y3 z3|

のように展開されます.

 なお,これらはそれぞれn次元単体の体積のn!倍になりますから,三角形面積,四面体の体積は,

  S’=S/2

  V’=V/6

 また,4辺の長さがa,b,cで与えられた三角形,6辺の長さがa,b,c,d,e,fで与えられた四面体の場合は,

  2^2(2!)^2S’^2=|0  a^2 b^2 1|

             |a^2 0  c^2 1|

             |b^2 c^2 0  1|

             |1  1  1  0|

  2^3(3!)^2V’^2=|0  a^2 b^2 c^2 1|

             |a^2 0  d^2 e^2 1|

             |b^2 d^2 0  f^2 1|

             |c^2 e^2 f^2 0  1|

             |1  1  1  1  0|

となります.

 前者はヘロンの公式にほかなりませんが,ヘロンの公式とは,任意の三角形の三辺の長さをa,b,c,面積をΔとして,

Δ^2=(2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4)/16

  =(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)/16

ここで,2s=a+b+cとおくと

  Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)

となり,おなじみの平面三角形のヘロンの公式が得られます.

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[補]ところで,行列の固有値は幾何学的に何に対応しているのだろうか? →単位キューブを線型写像で変換したときの各辺の長さと思えばよい.なぜなら,写像:y=Axによって,単位直方体は平行2n面体に写像されるものとすると,この写像のヤコビアンはJ=|A|となる.

 また,グラミアン

  G=|A|^2

が成立する.したがって,平行2n面体のn次元体積は

  |G|^(1/2)=|A|

で与えられる.すなわち,行列式=体積=固有値の積であって,行列式はn本のベクトルで張られる平行2n面体の体積となることが分かる.

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