■朝鮮サイコロ・中国サイコロの数理(その6)

 ここしばらくサイコロの確率論的な問題を離れて,サイコロを積み木として用いる問題を取り上げているのですが,今回のコラムでも「積み木問題」に焦点をあてたいと存じます.

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【1】切稜立方体の積み木

 (その5)では,中国サイコロは立方体の性質と菱形十二面体の性質を兼ね備えていて,多様な組み上げが可能となる背景には中川宏さんの「切稜立方体」が菱形十二面体の四辺が集まる頂点を切頂したものであって「切頂菱形十二面体」による準空間充填になっているためであることを述べました.

 切稜立方体は正方形6枚と六角形12枚で囲まれた18面体で,組み合わせると小さな立方体の空所を残しつつ空間充填形になります.個々の立体を「分子」と考えていろいろな形に組み上げることができます.菱形十二面体は面心立方格子のボロノイ図形ですから,「切稜立方体」による積木では面心立方格子状の造形が可能ということになります.

 以下に,中川宏さん作の面心立方格子状分子構造模型を掲げます.

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【2】切頂立方体の積み木

 一方,切頂八面体は菱形十二面体と並んでよく知られた空間充填立体ですが,切頂八面体は体心立方格子のボロノイ図形になっていて,実際,切頂八面体による空間充填からいくつかの切頂八面体を間引けば体心立方格子ができあがります.

 以上のことから,分子構造の模型として活用する場合,

  切稜立方体(切頂菱形十二面体) → 面心立方格子

  切頂八面体           → 体心立方格子

という図式が成立することがわかります.

 両者を比較すると,切稜立方体による面心立方格子では切稜面と切稜面の接合になりますが,切頂立方体による体心立方格子では切頂面と切頂面の接合になるため,たとえば,朝鮮サイコロを使った体心立方格子では六角形面(切頂三角形面)と六角形面(切頂三角形面)の接合が逆向きになってしまいます.

 接合面は同形であってもひっくり返っていてうまく重ならない・・・これでは積み木の組み上げ方が難しくなってしまいます.接続する面の形がうまく重なり合うのは正六角形のとき(切頂八面体)だけということになります.そこで実際に切頂八面体で体心立方格子を組み上げてみたのですが,切稜立方体による面心立方格子に較べて隙間が少なく,造形的にはあまり美しくない印象を受けました.

 なお,切稜立方体による面心立方格子と切頂八面体による体心立方格子を同じ枠内に納めたいならば,切稜立方体の切稜前の立方体の大きさに較べて,切頂八面体では切稜前の立方体を幾分大きくする必要があります.D倍大きくとするものとすると,d=2(√2−1)として

  4D=d+4

より,

  D=(1+√2)/2=1.20711

すなわち,切稜前の立方体の1辺の長さを2とすると,切頂前の立方体の1辺の長さは2.41421と計算されます.

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【3】雑感

 これまでこのシリーズでは「積み木では内接球をもつ」という条件が重要である」と書いてきたのですが,体心立方格子の場合は切頂八面体なので外接球をもちますが内接球はもちません.どうも勘違いしていたようで,空間充填図形の一部をなしているという条件の方が重要のようです.

 よく考えてみると確かに一般の切頂立方体系(外接球をもつ)ならば切頂八面体に限らずすべて体心立方格子ができますし,一般の切稜立方体系では面心立方格子を作ることができます.すなわち,

  任意の切稜立方体→(切稜面と切稜面の接合になるので)面心立方格子

  任意の切頂立方体→(切頂面と切頂面の接合になるので)体心立方格子

という図式になっています.

 たとえば,切稜立方体では菱形十二面体格子をつくるためには内接球をもつという条件は不要です.この内接球をもつという条件はは六角形接続と正方形接続とを両立させるために必要な条件つまり18面すべてを有効に活用するための条件です.どのような切稜の度合いでも菱形十二面体格子をつくることができるのです.

 一方,切頂立方体系では立方体の重心に対する八頂点の位置に配置することはできますが,前述したように,接続する面の形が重なり合うのは正六角形のとき(切頂八面体)だけということになります.

 そこで,切頂八面体と菱形十二面体との中間に位置するものが見つけられれば,面心立方格子,体心立方格子の積み木が組み立てられることになるのですが,1種類の多面体で面心立方格子,体心立方格子の両方を作れるものについて考えてみました.

 まず思いついたのは切稜立方体の六角形面が3枚集まる頂点を三角錐状に削り取ることによってできる準正多面体[3,4,4,4]です.この準正多面体は斜立方八面体あるいは小菱形立方八面体と呼ばれているのですが,この立体で体心立方格子を作る場合,三角形面と三角形面の接合は逆向きになります.

 また,体心立方格子を作る場合,面心立方格子よりも小さくなりますから,もし同じ枠内に納めたいならば,d=2(√2−1)として

  D{(d+1)/3+2}=d+4

より

  D=(21+9√2)/31=1.088

倍のサイズのものを用いる必要があることが理解されます.

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