■朝鮮サイコロ・中国サイコロの数理(その5)

 中国サイコロは18面からなる「切稜立方体」を基本にしています.この18面体は内接球をもつ唯一の切稜18面体であるのみならず,S^3/V^2比が最小(すなわち,表面積の割に体積が大きい)という性質をもつ特別な切稜立方体となっています.

 「切稜立方体」はサイコロとしての性質よりは積み木としての性質に極めて特徴があり,切稜立方体単独でいろいろな分子模型を積み木の形で作ることができます.私は切稜立方体単独で非常に多彩な表現が可能であることにびっくりさせられました.この多面体は球に(内接はしないが)外接するというところからこのような組み上げが可能になるのですが,多様な組み上げが可能になる背景にはこの多面体が立方体の性質と菱形十二面体の性質を兼ね備えていることに起因しているためだと考えられました.

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【1】切稜立方体は切頂菱形十二面体である

 切稜立方体は立方体のすべての辺を面取りしてできる多面体ですが,菱形十二面体において(三辺が集まる頂点には手を加えず)四辺が集まる頂点だけを切頂しても同じ多面体が得られます.「切稜立方体は切頂菱形十二面体である」ことは切稜立方体をいくら眺めたとしても気がつきにくいことなのですが,小川泰先生はいち早くそのことを指摘されました→コラム「切稜立方体」.

 したがって,切稜立方体と立方体の2種類の多面体による空間充填が可能であることがわかりますが,このことから中川さんの「切稜立方体」積み木は,立方格子と菱形十二面体格子を基本格子とする準空間充填と考えることができます.すなわち,切稜立方体の正方形面同士でも繋げる場合は立方格子状,六角形面同士を繋げる場合は菱形十二面体格子状であって,両方の性質を併せもっているということになります.

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 以下に,中川宏さんの「切稜立方体」積み木をいくつか掲げます.中川さんの作品には素朴なものから複雑なものまでたくさんの作品があるのですが,ここに掲げるものはいずれも単純な模型ばかりです.これを用いて多面体相互の関係を整理してみることにします.

(1)切稜立方体を菱形十二面体の空間充填のように並べてみます.すると,出来上がった形は立方八面体になります.このことは菱形十二面体が立方八面体の双対図形(頂点と面の関係が逆になっている図形)であることから理解されます.

(2)また,見方を変えると面心立方格子でもあるのですが,このことから菱形十二面体格子は面心立方格子と同じものと理解することもできます.すなわち,菱形十二面体は面心立方格子のボロノイ図形になっているので,同じもの(表裏の関係にあるもの)と考えることができるのです.

(3)切頂立方体は菱形十二面体と立方体の両方の性質をもっているのですが,そうだとすると,菱形十二面体格子と立方格子とはどういう関係になるでしょうか? 切頂立方体による積み木では六角形接続と正方形接続が可能になるのですが,六角形接続は菱形十二面体格子,正方形接続は立方格子とみなすことができます.

 また4次元に目を向けると菱形十二面体は4次元立方体の3次元空間への投影であると考えることもできるのです.

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【2】中川さんからのメール

 中川:ひさしぶりに「切稜立方体」によるさまざまな多面体を組み立ててみて,あらためて「立方体と菱形十二面体の性質を兼ね備えている」ことを実感しました.切稜立方体というネーミングは何をどうしたかという観点からのものなわけですが,出来上がったもののもつ性質を端的に表すという意味では「菱形立方体」なんてどうかなとふと思いました.これではあまりに形容矛盾でしょうか?

 佐藤:なるほど,なるほど.菱形面をもたなくても「菱形・・・」という立体は実際にあるわけですからおかしな名前とは思いません.とはいってもいいアイディアは浮かばないのですが「菱形立方体」でいろいろな分子模型を作れることがわかったわけですから,結晶学あるいは物理のひとであればもっと違ったセンスで命名できるものと思われます.

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