■書ききれなかった数の話(その7)

【1】正定値n元2次形式の最小値の上界

 ガウスは正定値2元2次形式

  P=ax^2+2bxy+cy^2   (x,yは整数)

に座標軸のなす角の余弦がb/√acのとき,ある点Pと原点との距離の2乗であるという幾何学的解釈を与えている.これにより全平面は平行四辺形の格子に分割され,D=|b^2−ac|は基本平行四辺形の面積の2乗に等しくなる.3元2次形式の場合は,平行四辺形は平行六面体に置き換えられる.

  P=Σaijxixj   (aji=aij)

    [a11,a12,・・・,a1n]

  D=[a21,a22,・・・,a2n]

    [・・・・・・・・・・・・]

    [an1,an2,・・・,ann]

 与えられた判別式(行列式)Dをもつ正定値n元2次形式Pにおいて,係数を連続的に変化させると最小値もまた連続的に変化する.どれだけ小さくすることができるか?

 1845年頃,エルミートはラグランジュの簡約理論を一般化し,正定値n元2次形式の最小値の上界が(4/3)^(n-1)/2D^1/nであることを示し,さらに2(D/(n+1))^1/nで置き換えられるであろうと予想した.

 コルキンとゾロタレフはこれよりも最小上界に近い他の上界を得ている.

  n=2 → (4D/3)^1/2

  n=3 → (2D)^1/3

  n=4 → (4D)^1/4

  n=5 → (8D)^1/5

その後,ブリヒフェルトが

  n=6 → (3D/64)^1/6

  n=7 → (64D)^1/7

  n=5 → (2D)^1/8

を証明した.

[補]極大格子

n   ルート   最小距離             球充填密度

1         1                1

2   A2    4√(4/3)  =1.075    0.906

3   A3    6√2      =1.122    0.740

4   D4    8√4      =1.189    0.619

5   D5    10√8     =1.231    0.465

6   E6    12√(64/3)=1.290    0.373

7   E7    14√64    =1.346    0.295

8   E8    √2      =1.414    0.254

[補]最密球充填

n   ルート  球充填密度

2   A2   π/2√3=0.906(ラグランジュ1773,ガウス1831)

3   A3   π/3√2=0.740(ガウス1831)

4   D4   π^2/16=0.617(Korkine,Zolotareff,1872)

5   D5   π^2/15√2=0.465(Korkine,Zolotareff,1877)

6   E6   π^3/48√3=0.373(Blichfeldt,1925)

7   E7   π^3/105=0.295(Blichfeldt,1926)

8   E8   π^4/384=0.254(Blichfeldt,1934)

[補]最疎球被覆

n   ルート  球被覆密度

2   A2~   2π/√27=1.209(Kershner,1939)

3   A3~   5√5π/24=1.464(Bambah,1954)

===================================

【2】数の幾何学とミンコフスキーの格子点定理

 19世紀のその後,当時17才に過ぎなかったミンコフスキーもn元2次形式を考え,与えられた判別式をもつn元2次形式の最小値に対する上界Mが

  M<AnD^1/n   (An=4(Γ(n/2+1))^2/n/π)

で与えられることを証明しました.この結果はエルミートのものより精密です.

[補]n=2のとき,(4/3)^1/2(エルミートの定理)は4/π(ミンコフスキーの定理)より強い境界であるが,n>4に対してはミンコフスキーの定理の方がよい.

 ガンマ関数の漸近表示を用いれば

  M<2n√nπe^1/3n/πe・D^1/n〜0.234n√nπe^1/3n・D^1/n

 このように,2次形式の理論が発展していく段階ではミンコフスキーが非常に大きな貢献をしています.彼は数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.

  「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」

 この定理は非常に単純であるにもかかわらず,他の方法では解決することのできなかった数論における多くの問題を解明したのですが,格子点定理を用いると,初等的な定理,たとえば,

  「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」

  「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」

  「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」

なども証明することができます.格子点の幾何学はミンコフスキーの「数の幾何学」に端を発するのです.

===================================