■双曲平面の作り方

【1】位相幾何から

 位相幾何学(トポロジー)とは形には関係しないで,接触・分離にだけ関係する不変な図形の性質(位相不変量)を研究する学問です.その代表的な例がオイラー・ポアンカレの定理です.まずは,次の問題を解いてみましょう.

[Q]3次元立体では,必ず頂点に結合する辺の個数が3の頂点か3角形の面をもつことを示せ.

(答)n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,

 i)Σnfn=Σnvn

 ii)Σf2n+1は偶数

 iii)v3+f3>0

を順に示していきます.

 (答)各辺は2個の頂点をもつから,Σnvn=2E

    また,各辺では2枚の面が交わるからΣnfn=2E

 (答)i)より,Σ(2n+1)f2n+1=(偶数)

    したがって,Σf2n+1も偶数

 (答)E=Σen,V=Σvn,F=Σfn,Σnfn=Σnvn=2E

    もしv3=0,f3=0ならば,

    2E=4v4+5v5+・・・≧4V 同様に,2E≧4F

    これより,V−E+F≦E/2+E/2−E=0

    これはオイラーの多面体定理:V−E+F=2に矛盾するから,

    v3,f3のうち,少なくとも1つは0でない.

 さらに,オイラーの多面体定理で示される制限から,単一の凸n角形で平面を敷き詰めるものはn≧7では存在しないこと,2次元以上ですべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつこと,また,3次元では14以上の凹面細胞をもつことは許されないことなどが導き出されています.

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【2】ユークリッド・非ユークリッド幾何から

 次に,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.

[Q]Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?

(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,

  α=π/a   ただし,aは2以上の自然数.

 まったく,同様に残り2つの内角に対しても

  β=π/b,γ=π/c

 また,α+β+γ=πより

  1/a+1/b+1/c=1

 この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると

  (3,3,3) → 正三角形

  (4,4,2) → 直角二等辺三角形

  (6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形

の3種類が得られる.

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 以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,リーマン面(楕円的),ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.

  α+β+γ>π,=π,<π

 すなわち

  1/a+1/b+1/c>1,=1,<1

に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.

 1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組みたす(a,b,c)は高々有限個で,(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8(6)面体群,(5,3,2)は正20(12)面体群に対応しています.一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.

 すなわち,楕円的平面では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.

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【3】双曲平面の作り方

 ユークリッド平面では,すべての頂点の次数が7となる敷き詰めは不可能ですが,逆にいうと,正三角形をたくさん用意しておいて,すべての頂点の周りに7枚ずつ三角形が集まるように貼り合わせていけば,おおむね双曲平面のような形ができるということです.

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