■代数方程式と群

 歴史的にみて,群は代数方程式の解の置換の研究として誕生しました.アミダクジのように,元と元を1対1で置換する写像は群をなします.この群を対称群,その部分群を置換群と呼びます.また,偶置換全体も対称群の部分群になっていて,これを交代群と呼びます.

 群の概念を生み出したのがこの置換群なのですが,アーベルの定理(1824年)を一般化して,ガロアは代数方程式の解集合の置換群と代数方程式の可解性の密接な関係を発見しました.単純群とは自分自身と単位群だけからなる自明なものを除いて,正規部分群を含まない群をいうのですが,5次以上の交代群Anは単純群となります.そして,交代群A5は位数最小の非可解群であることが証明されています(ガロアの定理).また,それを部分群として含むSn,An(n≧5)の非可解性も証明されます.

 すなわち,5次以上の代数方程式に代数的解法がない(=方程式の係数間の加減乗除とベキ根ととるという操作によって得られない)のは,この性質の基づくことがアーベル・ガロア理論から明確になったのです.そのとき使われたアイデアが群と呼ばれる概念で,対称変換群の性質により,この難問がこともなげに解けてしまうのです.これは非常に驚くべきことであって,ガロア理論は20世紀以後の代数学の研究対象を変えてしまい,抽象代数学と呼ばれる分野が誕生したのです.

 2001年に掲載したコラム「代数学小史」ではこの部分が尻切れトンボになってしまいましたので,今回のコラムでは

  [参]ペジック「アーベルの証明」日本評論社

の助けを借りて,その部分を補完しておきたいと思います.

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【1】5次方程式への挑戦

 5次方程式:

  ax^5+bx^4+cx^3+dx^2+ex+f=0

の代数的解法,すなわち四則演算+,−,×,÷と根号√,3√,4√,・・・によって解を求めるという問題は,いまからほとんど4世紀も昔の問題です.

 一般に,n次方程式:

  anx^n+an-1x^(n-1)+・・・+ a1x+a0=0

に対してx’=x+an-1 /nan と変換(カルダノ変換)するとx^(n-1)の項が0である方程式に還元できます.3次方程式では2次の項,4次方程式では3次の項を欠いた方程式に変形しましたが,ではもっと低次の項の係数を0にできないか?と考えるのは自然な発想でしょう.

 カルダノ・オイラー・フェラーリ・デカルトの解法は,いずれもカルダノ変換から説明される方法ですが,チルンハウスとその弟子たちは,

  x^5+a1x^4+a2x^3+a3x^2+a4x+a5=0

に対して

  y=x^4+b1x^3+b2x^2+b3x+b4

という変換を行い,うまくb1,・・・,b4を選ぶ方法を考えました(チルンハウス変換:1683年).

 そうすることによって,4次の項と3次の項のない5次方程式が得られたのですが,さらに1843年にジラールは2次の項も消去できることを示しました.つまり,一般の5次方程式を

  x^5+px+q=0

まで還元できることが判ったわけです(実際にこの作業を行うのは容易ではなく,コンピュータなしでは絶望的です).

 この形は根と係数の関係を発見したジラールにちなんでジラールの標準形と呼ばれているのですが,ここでp=0ならば−qの5乗根としてxは求まります(q=0ならば4次方程式に帰着できます).しかし,さらにp=0にしようとすると,6次方程式を解く必要が生じて,問題がかえって難しくなってしまいました.

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【2】ラグランジュと置換

 ラグランジュは,一般のn次方程式のn個の根x1,x2,・・・,xnと1のn乗根ζの式:

  R=Σζ^(k-1)xk

を根とする方程式の性質を詳しく考察し,方程式論に置換群の概念を導入した意義は重要です.

 ラグランジュの基本的なアイディアは,これまで研究されてきた方程式の根の公式を対称性の視点から見つめ直すことにあったのですが,3次方程式の3根x1,x2,x3をとり,

  R=(x1+ωx2+ω^2x3)^3

を考えてみましょう.

 3根x1,x2,x3の置換は3!=6通りあるのですが,それらはRにたった2種類の値をとらせるだけです.このことは非常に驚くべきことなのですが,

  R=(x1+ωx2+ω^2x3)^3=x1^3+x2^3+x3^3+6x1x2x3+3ω(x1^2x2+x2^2x3+x3^2x1)+3ω^2(x1x2^2+x2x3^2+x3x1^2)

となることから理解されます.そして,このことを用いると3次方程式は2次方程式に還元されるのです.

 4次方程式の場合は,4根x1,x2,x3,x4に対して,

  R=(x1+ix2−x3−ix4)^4

ではなく

  R=(x1+x2−x3−x4)^2

を考えます.すると4!=24通りの置換に対して,Rは3個の異なる値

  R1=(x1+x2−x3−x4)^2

  R2=(x1+x3−x2−x4)^2

  R3=(x1+x4−x2−x3)^2

しかとらないことがわかります.

 このように4次方程式は3次方程式に還元されるわけですが,4次以下の方程式については,解の置換によって方程式の次数よりも小さな次数の方程式の解法に還元できることがわかりました.

 以上のことをもっと正確に表現すると,

(1)nが素数ならば,R^nは次数が(n−1)の方程式の解であり,その係数は(n−2)!次の方程式の解から決定される

(2)nが素数でないとき,R^pは次数(p−1)の方程式の解であり,n=pqとするとその係数はn!/(p−1)p(q!)^p次の方程式の解から決定される

となります.

 4次方程式のときは3次方程式に還元できましたが,5次方程式については6次方程式,6次方程式については10(あるいは15次)方程式になってしまうというのです.したがって,4次方程式までと同様の方法を5次方程式に試みると失敗することがわかります.しかし,ラグランジュはまだ5次方程式は可解ではないと確信するところまでは至っていませんでした.古い方法で失敗したところを新しい方法で突破できるという希望を抱いていたのです.

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【3】ガロアと群

 1824年,アーベルは一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことを証明しましたが,まだ核心部分(ガロア理論)には到達しておりませんでした.

 n次方程式の根の置換を考えると,それはn次対称群Snの対称性を有しているのですが,ガロア理論によると,n次方程式を解くということはSnのなかに不変部分群(正規部分群)を見つけることに対応しています.

 正規部分群をもたない群は単純群と呼ばれるわけですから,単純群であるかどうかが方程式が可解か可解でないかを決定することになります.実際にはA5が最小の非可換な単純群であり,S5>A5ですから一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことがわかるのです.

 あらすじはこのとおりですが,この点のガロアの洞察はガロアがアーベルを超えたところといえるわけです.少し詳細に見ていくことにしましょう.

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 3文字1,2,3の置換全体のなす群が3次対称群S3で,その位数は3!=6です.幾何学的にイメージするために1つの正三角形を考えてみましょう.三角形の中心まわりの角度120°の右回り回転をaとすると,aは3回やると元に戻るので

  a^3=1

また,頂点を通る中心線に関して裏返す作用をbとすると

  b^2=1

2種類の作用の相互関係は

  ab=ba^2

と書けます.

 S3は2元{a,b}によって生成される

  {1,a,a^2,b,ba,ba^2}

となるのですが,これは位数6の正2面体群,すなわち,位数3の巡回群{1,a,a^2}とその裏返し{b,ba,ba^2}とからなる(回転∪鏡映)群と同一です.

 6×6の群表(ケイリー表)を書けば,どの元も各行各列にちょうど1回ずつ登場し,魔方陣のようであることが理解されるでしょう.

     1    a    a^2   b    ba   ba^2

1    1    a    a^2   b    ba   ba^2

a    a    a^2   1    ba^2  b    b

a^2   a^2   1    a    ba   ba^2  b

b    b    ba   ba^2  1    a    a^2

ba   ba   ba^2  b    a^2   1    a

ba^2  ba^2  b    ba   a    a^2   1

 「正2面体群」とは,正n角形をそれ自身に移す回転全体のなす群であって,重心を通る垂直軸を中心とした回転と対称軸を中心としたπ回転から生成される位数2nの群と幾何学的に考えることができます.この正2面体という奇妙な名前は,2枚の正多角形を貼り合わせたものをつぶれた多面体と見なすことから由来しているのですが,2つの生成元a,bが

  a^2=b^n=(ab)^2=1

という関係を満たすことを確かめられたい.

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 S2が可換群,巡回群であるのに対して,S3は回転と互換(鏡映)を合成するとき,その順序によって結果が変わるので非可換です.互換は奇置換なのですが,回転は常に偶置換となっているため,回転だけを取り出せば可換群,巡回群となります.

 S3から偶置換だけを抽出したものが3次交代群A3です.すなわち,A3は回転だけからなり互換は含まないので可換群というわけです.幾何学的には正三角形の回転(巡回群C3)と同一です.

     1    a    a^2

1    1    a    a^2

a    a    a^2   1

a^2   a^2   1    a

 このA3はS3の不変部分群(正規部分群)になっていて,S3がA3を不変部分群として含む,また,A3は恒等置換だけを含んでいる,そしてこの相互関係を記号化すると

  S3>A3>Id(恒等置換)

となります.3次方程式を解くということはS3のなかに不変部分群A3を見つけることに対応していて,この関係よりS3は可解群であることがわかるというわけです.

 S3(=D3)は主対角線に関して非対称ですから,交換法則が成り立たない非可換群で,S3は位数が最小の非可換群として重要な存在となっています.

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 4文字1,2,3,4の置換全体のなす群が4次対称群S4で,その位数は4!=24です.S4は2つの生成元a,bによって生成され,基本関係式は

  a^3=b^4=(ab)^2=1

となります.

 S4の場合,正方形ではなく正四面体を幾何学的にイメージすることになるのですが,互換は正四面体の回転として捉えることはできず,鏡映変換を必要とします.

 S3同様,S4は回転と互換の両方を含んでいるのですが,互換を含めて空間的な回転だけでS4を表現するには,立方体の4本の対角線あるいは正八面体の向かい合う面の中心を結ぶ4本の線分を使うことになります.

 S4は立方体あるいは正八面体の回転対称性であり,S4の偶置換からなる部分群A4は正四面体の回転対称性を表すのですが,4次交代群A4のの基本関係式は

  a^3=b^3=(ab)^2=1

となります.しかし,S4の位数は4!=24,群表は24×24,A4の位数は4!/2=12,群表は12×12になるので,大きすぎてここでは紹介できません.

 S4もA4も非可換なのですが,A4のなかに可換な部分群V(位数4)が含まれています.Vは可換群ではあるが巡回群C4ではありません.実はD2=C2×C2なのですが,これについては後述することにします.ともあれ,可解鎖

  S4>A4>{Id,V}>{Id}

よりS4は可解群であることがわかります.このように可換な不変部分群を見つけることで,4次方程式を3次方程式に還元することが可能になるのです.

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 S5の位数は5!=120,群表は120×120,A5の位数は5!/2=60,群表は60×60となります.どの正多面体もS5の回転対称性をもってはいないのですが,A5は正12面体あるいは正20面体の回転対称性を表現しています.5次交代群A5の基本関係式は

  a^3=b^5=(ab)^2=1

となります.

 A5も非可換で,恒等置換以外には不変部分群をもっていません.

  S5>A5>{Id}

不変部分群をもたない群は単純群と呼ばれるのですが,A5は最小の非可換な単純群です(ガロアの定理).ベキ根による可解性を決定づけるものは可換性なのであって,任意の可換群は可解群です(逆は成立しない).

 このことから一般の5次方程式が四則演算とベキ根によっては解けないことがわかるのです.なお,S5の回転対称性をもつ正多面体が存在しないことと5次方程式の非可解性の間には因果関係は存在しないので誤解なさらないように!

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【4】群論・概説

 代数学の教えるところによれば,n元の体(加減乗除の演算が定義された集合)が存在するための必要十分条件は,nが素数(のベキ乗)になっていることで,位数2,3,4=2^2,5の体は存在するが,位数6=2×3の体は存在しない.そして,位数7,8=2^3,9=3^2の体は存在して,位数10=2×5のものは存在しない.位数11,13の集合は体となるが,位数12=2^2×3,14=2×7のなす集合は決して体にはならない.

 そして,任意のnに対してn元の群は存在し,位数2の群は1つ,位数3の群は1つ,位数4の群は2つある.すると,位数5の群は?,位数6の群は?,・・・という疑問が湧いてくるのは自然な成り行きであろう.結論を先にいうと

  n  群の型

  1  単位群{e}

  2  Z2=S2=D1

  3  Z3=A3

  4  Z4,D2=Z2×Z2

  5  Z5

  6  Z6,D3=S3

  7  Z7

  8  Z8,Z4×Z2,Z2×Z2×Z2,D4,Q4

  9  Z9,Z3×Z3

  10  Z10,D5

  11  Z11

  12  Z12,Z6×Z2,D6=D3×Z2,A4,Q6

  13  Z13

  14  Z14,D7

  15  Z15

  16  Z16,Z8×Z2,Z4×Z4,Z4×Z2×Z2,Z2×Z2×Z2×Z2,

     D8,Q8,Z2×D4,Z2×Q4など,合計14個

  n  群の個数  n  群の個数

  2  1     10  2

  3  1     11  1

  4  2     12  5

  5  1     13  1

  6  2     14  2

  7  1     15  1

  8  5     16  14

  9  2

  n  群の個数  n  群の個数

  17  1     27  5

  18  5     28  4

  19  1     29  1

  20  5     30  4

  21  2     31  1

  22  2     32  51

  23  1     64  267

  24  15    128  2328

  25  2     256  56092

  26  2     512  10494213

となる.→コラム「因数分解の算法」(その5),(その6)参照

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 位数4の群は,同型であるものを除いて,巡回群C4と直積C2×C2の2つしかない.それぞれの群表は

  ×  e  a  b  c    ×  e  a  b  c

  e  e  a  b  c   e  e  a  b  c

  a  a  b  c  e   a  a  e  c  b

  b  b  c  e  a   b  b  c  e  a

  c  c  e  a  b   c  c  b  a  e

となる.前述のVはD2=C2×C2と同型である.

 D2(位数4の正2面体群)はクラインの4元群と呼ばれるもので,長方形(菱形)の対称性のなす群であり,クラインの4元群のすべての元は2乗すると単位元になることから,自分自身が逆元という特徴をもっている.クラインの4元群をD2と表すのは,それが仮想的な正2角形の対称変換群と見なされるからである.

 位数6の巡回群C6(正六角形の回転群)は省略して,次に位数6の正2面体群:D3について考察してみよう.実は,素数pに対し位数2pの群は巡回群Z2pか正2面体群Dpと同型であるという定理がある.そこで,証明抜きで結論を述べると,位数6の有限群は

  (1)位数6の巡回群C6(可換群のとき)

  (2)3次対称群S3=D3(非可換群のとき)

のいずれかに同型である.

 位数が5以下の群がすべて可換群であったのに対して,S3は位数最小の非可換群として重要な存在となっている.正2面体群は正n角形を自分自身にうつす写像全体をなすわけであるが,正3角形に対する正2面体群D3(位数6)はS3と同型,正方形に対する正2面体群D4(位数8)は,S4(位数24)の部分群である.

 位数12の群には正4面体群があり,これは4次の交代群:A4と同型であるが,巡回群C12や正2面体群D6とは異なるものである.A4は正4面体,S4は正6(8)面体,A5は正12(20)面体の対称変換群であり,いずれも非可換群群である.交代群A5は位数最小の非可解群であることが証明されている(ガロアの定理).

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【5】SO(3)の回転群

 正多面体の回転を考えると,

  (1)頂点と原点を通る軸を中心とした2πk/q回転

  (2)辺の中心と原点を通る軸を中心としたπ回転

  (3)面の重心と原点を通る軸を中心とした2πk/p回転

の3つが可能な回転軸である.

 これらの回転によって,正4面体(位数12)では4つの頂点の偶置換を引き起こすので4次交代群A4と同型,正8面体(位数24)では対面する面は4組あり,これらの組の置換を引き起こすので4次対称群S4と同型,正20面体(位数60)では30個の辺を5組に分ける偶置換として作用するので5次交代群A5と同型になることがわかる.

 SO(3)の有限部分群A4,S4,A5はR^3の5種類の正多面体と密接な関係があり,S4は正6面体(正8面体:中心に関して点対称)を変えぬ運動の集合,A4は正4面体(点対称性はもたないが,面対称性をもっている)を変えぬ運動の集合,A5は正12面体(正20面体:中心に関して点対称)を変えぬ運動の集合であって,総称して「正多面体群」と呼ばれている.

 正多面体の回転群は3次の特殊直交群SO(3)の有限部分群であるが,SO(3)にはこのほかに2種類の有限部分群がある.一つは巡回群,もうひとつは正2面体群であり,巡回群は正2面体群の部分群となっている.これらでSO(3)の有限部分群をつくすことが知られている.巡回群,正2面体群とA4,S4,A5とを併せて(広義の)正多面体群と呼ぶこともある.

 以上より,SO(3)の有限合同変換群は,

  (1)巡回群(Cn:位数n)

  (2)正2面体群(D2n:位数2n)

  (3)4次交代群(A4:位数12)←→正4面体群と同型

  (4)4次対称群(S4:位数24)←→正6(8)面体群と同型

  (5)5次交代群(A5:位数60)←→正12(20)面体群と同型

のいずれかである.

 なお,O(3)の有限部分群は,SO(3)の有限部分群5系列と原点に対する対称変換(裏返し)を部分群にもつ5系列,どちらにも属さないもの4系列が加わるため,合計14の系列に分類される.

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【6】鏡映群

 3次元回転群の説明のところで,正2面体群は回転群ではなくて鏡映群なのではないかと思われた方がおられるに違いない.

 位数nの巡回群とは,平面上の正n角形の重心を通る垂直軸を中心とした回転軸のまわりの2π/nの倍数だけの回転の集合(回転群)であり,SO(2)の有限部分群はすべて巡回群となる.これをスローガン的に書けば,

  「SO(2)の有限合同変換群は巡回群につきる」

となる.巡回群を「正多角形群」といい換えてもよかろう.一方,O(2)の有限合同変換群には,巡回群を部分群にもつ正2面体群が含まれる.

 平面の回転群をそのまま空間の群と見なしたものが巡回群であるが,SO(3)ではその裏返しも存在し,位数kの巡回群(回転運動)とその鏡映sからなる

  {1,ω,ω^2,・・・,ω^(k-1),s,sω,sω^2,・・・,sω^(k-1)}

が正2面体群(位数2k)である.前述のように,「正2面体群」とは,正n角形をそれ自身に移す回転全体のなす群であって,重心を通る垂直軸を中心とした回転と対称軸を中心としたπ回転から生成される位数2nの群と幾何学的に考えることができる.

 平面の正2面体群は2つの鏡映s,tによって生成される鏡映群であるが,3次元空間では正2面体群は正n角柱と同じ回転対称性をもち,回転群と考えることができるのである.すなわち,3次元空間の有限回転群は

  (1)3種類の正多面体群(正四面体群,正八面体群,正二十面体群)

  (2)正n角柱と同じ回転対称性をもつ正2面体群

  (3)正n角錐と同じ回転対称性をもつ巡回群

と表現したほうがわかりやすいであろう.

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 話の順序が逆になったが,いくつかの鏡映変換により生成される直交変換群を鏡映群という.高次元の場合は超平面に対する鏡映となるが,言葉を換えると互換に対応する変換といってもよいだろう.

 鏡映群は数学の様々に分野で広く現れる重要な研究対象である.無限の鏡映群は基本的には直交群しかないが,有限の鏡映群は

  An(n≧1),Bn(n≧2),Dn(n≧4),E6,E7,E8,F4,H3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)

に分類される.

 ここで,An,Dnは交代群,正2面体群の意ではなく,リー群のおける記号である.下付きの指数はそれが働く空間の次元である.Anはn次元正単体の対称性の群と解釈することができる.Bnはn次元立方体(正8面体)の対称性の群であり,位数は2^nn!である.DnはBnに対応する群の指数2の部分群に対応している.

 平面の正三角形状の格子はA2格子,正方形格子はD2格子である.それぞれG2格子,B2格子と呼んでも格子としては同一である.3次元のA3格子(=D3格子)へ面心立方格子を与える.4次元のD4格子(=F4格子)は4次元の体心立方格子であり,正24細胞体による4次元空間の充填形に相当する.8次元のE8格子は例外型リー環の属する.

 H3は正20面体の対称性の群に対応し,I2(p)は正2面体群Dpに対応している.H4とF4はそれぞれ4次元の正多胞体(正24胞体,正600胞体)に対応している.ここにあげられた群はH3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)を除いて,すべて結晶群である.→コラム「コクセター群のはなし」参照

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