■計算可能な多胞体(その8)
立方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.単純立方格子状配置,すなわち角砂糖の箱の封を切ったときに見えるパターンについて,角砂糖の各頂点まわりを正八面体状に少しずつ切断し,削ってできた空間は常に多面体で充填することを考える.
2種類の多面体による空間充填を常に保ったまま相互遷移させると,中間値の定理(のアナログ)により2種類の多面体が同形となる値が存在する.そのとき,この図形は単一空間充填図形となる.
空間充填2^n+2n胞体に関する定理
[定理]超立方体[0,2]^nの基本単体の最長辺の中点を通る直交超平面
x1+x2+・・・+xn=n/2
は基本単体を合同2分割する.なお,この超平面はnが偶数のときPn/2を通る.
この定理は重要で,この2^n+2n胞体がn次元の体心立方格子に対応する空間充填図形であることを示している.
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「定理」の事実は数式を使ったもので確認することができる.しかし,それは有限のn次元までであって,無限次元で確認することはできない.そこで,以下のように証明する.
超立方体[0,2]^nの基本単体P
P0(0,0,0,・・・,0)
P1(1,0,0,・・・,0)
P2(1,1,0,・・・,0)
・・・・・・・・・・・・・・
Pn(1,1,1,・・・,1)
は同時に超立方体[−1,1]^nの基本単体Qであって,
Qj=Pn-j
となる.
単一空間充填図形であるから,基本単体P(Q)は合同2分割されなければならない.
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【1】2^n+2n胞体の元素の面数
頂点数(および胞数)はわかったが,中間の次元の辺や面の個数の一般式については気になるところである.基本単体の半切体の胞数を数えるだけならば,座標にこだわらず,単体を切った切り口がどうなるかを順次調べた方が早道である.組み合わせ的方法によって求めてみよう.
結論を先にいうと,fjをn次元多面体のj次元面の数とし,
(f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)
を各次元における面数とおくと,n次元立方体の基本単体の半切体は
2次元:(f0,f1)=(3,3)
3次元:(f0,f1,f2)=(6,9,5)
4次元:(f0,f1,f2,f3)=(7,15,14,6)
5次元:(f0,f1,f2,f3,f4)=(12,30,34,21,7)
6次元:(f0,f1,f2,f3,f4,f5)=(13,42,64,55,28,8)
7次元:(f0,f1,f2,f3,f4,f5,f6)=(20,70,120,125,84,36,9)
となる.
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n次元単体(図形としてはすべての頂点が直接結ばれている完全グラフ)を切半したと考えてよい.j次元胞(j=0,1,・・・,n)の中心に相当する点をPjとするが,切半体はこれを半分ずつに分ける.すなわち,nが奇数(n=2k−1)のときは{P0,P1,・・・,Pk-1}と{Pk,Pk+1,・・・,P2k-1}というk個ずつに,nが偶数(n=2k)のときは中央のPkを通り{P0,P1,・・・,Pk-1}と{Pk+1,・・・,P2k-1}のk個ずつの組に分ける.したがって,2k−1次元のときに,中央の頂点Pkに関する補正を加えればよい.
[1]nが奇数(n=2k−1)のとき,
まず切断面上の図形を考える.この切断面はどこの頂点も通らないのでどの辺(一般に胞)と交わるかを見る.切断面上のj次元胞はもとの基本単体のj+1次元胞の切断面である.もとの単体のj+1次元胞は合計(n+1,j+2)=(2k,j+2)個ある.
そのうち,Pk-1以下同士とPk同士は切断面と交わらないので(k,j+2)×2を引く必要がある.切断面上のj次元胞の数をsj(j=0,1,・・・,2k−2)とすると,
sj=(2k,j+2)−(k,j+2)×2
(k<j+2なら後の項は0)
とくに
s0=k^2 (これは左右k個ずつの積として当然)
s1=k^2(k−1)
もとの切半体そのものは切断面と交わらない部分,切断面で切られた部分,切断面上の部分からなる.切断面と交わるj次元胞の数は(2k,j+1)−(k,j+1)×2,交わらない胞のうち片側に含まれる分(k,j+1),切断面上sjであるから,
fj=(2k,j+1)−(k,j+1)×2+(k,j+1)+sj
=(2k+1,j+2)+(k,j+1)−2(k+1,j+2)
(k<j+1なら後の項は0)
f0=k^2+k
f1=k(k+1)(2k−1)/2
n=3のとき(6,9,5)
n=5のとき(12,30,34,21,7)
n=7のとき(20,70,120,125,84,36,9)
となる.
[2]nが偶数(n=2k)のとき,
このときは中央次元のPkを切半面が通るので,その分の別扱いが必要である.しかし,それを除けば切り口のj次元胞数sj,全体のj次元胞数fjは前と同じである.そこで表現の便宜上,切り口および全体のj次元胞数をsj’,fj’と記し,sj,fjは奇数次元のときに使う.
s0’=s0+1 (Pkを追加)
sj’=sj+sj−1 (j≧1のとき,Pkからj−1次元胞を射影した分だけ,j次元胞が加わる)
前と同じ理由で
sj=(2k,j+2)+(2k,j+1)−(k,j+2)×2
=(2k+1,j+2)−(k,j+2)×2
切断面と交わるj次元胞の数は(2k+1,j+1)−(k+1,j+1)×2,交わらない胞のうち片側に含まれる分(k+1,j+1),切断面上sj’であるから,
fj’=(2k+2,j+2)+(k+1,j+1)−2(k+2,j+2)
(k<jなら後の項は0)
f0’=k^2+k+1
f1’=k(k+1)(2k+1)/2
n=2のとき(3,3)
n=4のとき(7,15,14,6)
n=6のとき(13,42,64,55,28,8)
となる.
奇数→偶数次元(3次元→4次元,5次元→6次元)については,2項の和が次の値になるというパスカルの三角形に似た漸化式
fj’=fj+fj-1
が成立する.これは偶数次元のとき切断面がひとつの頂点を通るという特殊性が強くきいているせいである.
偶数→奇数次元の漸化式を作るとなると,kがひとつ大きいときのfj(2k+1次元のもの)は次のようになる.
fj=(2k+3,j+2)+(k+1,j+1)−2(k+2,j+2)
これをfj’で表すことは可能であるが,余り実用的ではないことがわかる.
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【2】まとめ
二項係数(n,r)において,n<rのときは0と約束すると,j次元胞の個数fjは
[1]nが奇数(n=2k−1)のとき,
fj=(2k+1,j+2)+(k,j+1)−2(k+1,j+2)
f0=k^2+k
f1=k(k+1)(2k−1)/2
[2]nが偶数(n=2k)のとき,
fj=(2k+2,j+2)+(k+1,j+1)−2(k+2,j+2)
f0=k^2+k+1
f1=k(k+1)(2k+1)/2
2次元:(f0,f1)=(3,3)
3次元:(f0,f1,f2)=(6,9,5)
4次元:(f0,f1,f2,f3)=(7,15,14,6)
5次元:(f0,f1,f2,f3,f4)=(12,30,34,21,7)
6次元:(f0,f1,f2,f3,f4,f5)=(13,42,64,55,28,8)
7次元:(f0,f1,f2,f3,f4,f5,f6)=(20,70,120,125,84,36,9)
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