デューラーの多面体について小生はつい先日知ったばかりであるが,資料を見るとずいぶん古くから議論に上った問題であることがわかる.デューラーの立体が立方体の2つの対峙する頂点を切ったものではないかと考えられた時期もあったようだが,現在では菱形六面体を球に内接するように切頂したものであると結論されている.
(その1)では菱形面の頂角が72°,すなわち
d^2=(5+2√5)/5
のとき,切頂比が黄金比
t=2(d^2−1)/(d^2+1)=(√5−1)/2=1/τ
になることを示したが,このことから頂角については72°説がもっとも説得力があるように感じられる.
その後,球に内接しかつ無限入れ子構造となるための条件が
d^2=(5+2√5)/5,θ=72°
ではなく,
d^2=13/7,θ=72.5425°
であることがわかったが,このことが72°説を揺るがすものとはならないだろうと思う.→(その3)(その4)参照
ところで,参照した資料によると,デューラーの多面体を正三角形面で立てると4次の魔方陣
[16,03,02,13]
[05,11,10,08]
[09,06,07,12]
[04,15,14,01]
にピッタリあてはまると説明されている.4次の魔方陣にあてはまるという意味は正三角形面で立てたときの投影図が正方形を切頂した八角形になっているということだと思われる.
あてはまるのが当然のごとく書かれてあるのだが,この記述をみた瞬間,小生は本当だろうかという疑問をもった.これを黙って信じるか,自分で確かめてみるかでは大違いである.はたせるかな,正方形にはあてはまらない.小生の直観は正しかったのである.
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【1】切頂八面体の計量(1)
この八面体を切頂によってできる正三角形面で立てると,正三角形面のそれぞれの重心を結んだ線が垂直線になります.
これまで同様,菱形の鋭角が3つ集まって構成される頂点を原点として,この菱面格子の3つの基本ベクトルを
a↑=(d,1,0)
b↑=(d,−1,0)
c↑=(x,0,z),x^2+z^2=d^2+1
とおくと,正三角形面のそれぞれの重心は
((2d+x)t/3,0,zt/3)
((2d+x)(1−t/3),0,z(1−t/3))
と計算されますから,この垂直線の長さは
((2d+x)^2+z^2)^(1/2)(1−2t/3)
=zd√3(1−2t/3)
ただし,
x=d−1/d
z^2=3−1/d^2
t=2(d^2−1)/(d^2+1)
となります.
また,菱形六面体の菱形面の対角線の長さを2dと2としているわけですから,正方形にあてはまるためには
zd√3(1−2t/3)=2
を満たす必要があります.
数値計算でこれを解くと,頂角θが約67°のとき投影図は切頂正方形になることがわかります.そして,θ>67°(たとえばθ=72°)では縦長の切頂長方形となるのです.投影図が正方形にあてはまるというのは特別な場合に限られ,球に内接する切頂八面体の一般的な特徴ではないことになります.
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【2】切頂八面体の計量(2)
次に,球に内接する切頂八面体の一般的な特徴をひとつ取り上げてみることにしましょう.
この切頂八面体を正三角形面で立てると,切頂八面体の12頂点のうち6つは天地面に位置します.残りの6頂点のうち,3つずつが天地面に平行な正三角形をつくります.すなわち,切頂八面体の12頂点は4枚の平行な正三角形上にあることになります.
また,天地面にある2つの正三角形は平面上で同じ大きさの正三角形を180°ずらして重ねたもの(ダビデの星)の関係にあり,天地面にない2つの正三角形も同様にダビデの星の関係にあります.
ダビデの星は2個の正三角形に分かれるので,雪型正多角形とも呼ばれます.ダビデの星がユダヤ人の象徴とされ,イスラエルの国旗にも使われているのに対し,ソロモンの星はピタゴラス派のシンボルマークで黄金比と関係しています.したがって,頂角72°の球に内接する切頂八面体は,ダビデの星のみならずソロモンの星にも関係しているというわけです.
ところで,切頂八面体の12頂点が4枚の平行な正三角形上にあることは,菱形六面体の2つの頂点を等距離で切頂していることより明らかですが,数式的にはどのように表されるのでしょうか?
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菱形の鋭角が3つ集まって構成される菱形六面体の2つの頂点
(0,0,0),
(2d+x,0,z)=a↑+b↑+c↑
を結ぶベクトルとx軸のなす角ψは
tanψ=z/(2d+x)
ここで
x=d−1/d
z^2=3−1/d^2
ですから,
tanψ=1/zd
これより,
cosψ=zd/{(zd)^2+1}^((1/2)=z/√3
sinψ=1/{(zd)^2+1}^((1/2)=1/d√3
と求められます.
この直線が垂直軸ξになるように,(x,y,z)座標系をy軸の周りにψ回転させた(ξ,η,ζ)座標系を考えると(x,y,z)座標系との変換式は
ξ= xcosψ+zsinψ
ζ=−xsinψ+zcosψ
で与えられます(平面の回転).
すると
(d,+1,0) → (dcosψ,+1,−dsinψ)
(d,−1,0) → (dcosψ,−1,−dsinψ)
(x,0,z) → (xcosψ+zsinψ,0,−xsinψ+zcosψ)
に座標変換されますが,このことから
dcosψ=xcosψ+zsinψ
が成立すれば,この3点が平行面上にあることが証明されたことになります.
dcosψ=dz/√3
xcosψ+zsinψ=(d−1/d)z/√3+z/d√3=dz/√3
ですから,はたせるかな切頂八面体の12頂点が4枚の平行面上にあることがわかりました.
球に内接する切頂八面体にはたいした特長はなさそうに見えますが,4枚の平行正三角形がダビデの星構造をとるなどの特長は数学の演習問題として活用できると思います.
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