■ワイソフ計量空間(その2)

 3次元準正多面体については古くから知られていたが,4次元以上の準正多胞体については,19世紀中頃,シュレーフリが一部言及したことに始まる.その後,コクセターが詳しく研究したが,5次元以上の準正多胞体についてはコクセターの研究のごく一部に理論的な記述がみられるものの,具体的な研究はこれまで皆無に近かった.そのため,k次元面数fkが知られている準正多胞体はほとんど存在しない.

 準正多胞体を構成する場合,その頂点となる基準点Qを決めれば,あとは鏡映することによって芋づる式にすべての頂点の位置を決定することができる.また,そのような頂点の決め方をワイソフ構成という.

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【1】ワイソフ計量空間

 3次元の場合,基本単体の4つの面は直角三角形で,中心と結ばれる3つの稜線P0P3,P1P3,P2P3の長さはそれぞれ外接球,中接球,内接球の半径に一致する.たとえば,正軸体の場合,

  P0(1,0,0)

  P1(1/2,1/2,0)

  P2(1/3,1/3,1/3)

  P0P3=1

  P1P3=√2/2

  P2P3=√3/3

と計算される.

 ここでP0,P1,P2はそれぞれ正軸体の0次元面,1次元面,2次元面の中心の座標である.多胞体の中心Oからk次元面の中心Pkに向かうベクトルを組にしたものを

  (v0,v1,・・・,vn-1)

で表すことにする.

 一般にn次元多胞体はファセットを定める不等式で記述されることから,しばしば勘違いされるのであるが,ワイソフ構成(m0,m1,・・・,mn-1)は,このベクトルの組(v0,v1,・・・,vn-1)に対してそのスイッチをオンオフするパラメータ

  (m0v0,m1v1,・・・,mn-1vn-1)

ではない.

 それではなにかというと,たとえば,3次元の場合,基準点Qが三角形の内部P0P1P2にあるのか,3辺の上P0P1,P0P2,P1P2にあるのか,3頂点の上P0,P1,P2にあるのか,7種類のいずれかにあるのかを示すのが形状ベクトルである.3次元の場合,それぞれの形状ベクトルは[1,1,1],[1,1,0],[1,0,1],[0,1,1],[1,0,0],[0,1,0],[0,0,1]と表記される.

 一般に,n次元空間においては基本単体の構成要素の2^n−1種類のいずれかにあるのかを示すような頂点の決め方をワイソフ構成という.ワイソフ構成はn次元ベクトル

  m=(m0,m1,・・・,mn-1)

  miは0または1で,同時に0であってはならない

として表記することができる.

 ワイソフ構成を決めると,n次元準正多胞体がひとつ定まる.したがって,ワイソフ構成を決めることは,n次元準正多胞体を定めることと等価である.そして,このようにして決定されたn次元準正多胞体は格子間距離が1で,2頂点間の距離やその経路数が定まる計量空間になるのである.

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【2】ワイソフ計量空間を使って求められること

[1]n次元準正多胞体にはどれだけの種類があるか?

 3次元正多面体は5種類あり,正四面体は自己双対である.3次元準正多面体は13種類あり,製作法から

  切頂型・・・7種類

  切頂切稜型・・・4種類

  ねじれ型・・・2種類

と分類される.ねじれ型は特殊型であって,これの高次元対応物がいくつあるかはわかっていない.そのため,ここでは切頂型・切頂切稜型準正多胞体のみ扱うことにする.

 4次元正多胞体は6種類あり,正5胞体,正24胞体は自己双対である.5次元以上の正多胞体は3種類あり,正n+1胞体は自己双対である.非自己双対の場合,切頂型・切頂切稜型準正多胞体は

  2^n−1

自己双対の場合,切頂型・切頂切稜型準正多胞体は

  2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−1

種類ある.

 3次元のねじれ立方体とねじれ12面体に相当する特殊型は取り扱わないことにするが,重複するものを除くことによって,下表が得られる.

次元  正多胞体  準正多胞体

3      5     11(重複3を除く:7×2+5−5−3)

4      6     39(重複3を除く:15×2+9×2−6−3)

5      3     47

6      3     95

n(≧5)  3     2^n+2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−5

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[2]n次元切頂型準正多胞体,n次元切頂切稜型準正多胞体にはどれだけの種類があるか? (正多胞体は除く)

次元  正単体切頂型   正単体切頂切稜型

3      2        2

4      3        5

5      4       14

6      5       29

n    n−1   2^(n-1)+2^[(n-1)/2]−n−1

次元  正軸体切頂型   正軸体切頂切稜型

3      3        2

4      5        8

5      7       22

6      9       52

n   2n−3    2^n−2n

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[3]準正多面体の面数公式

 目標はワイソフ構成が与えられた高次元準正多面体の面数公式を求めることである.結論を先にいうと,n次元正単体系とn次元正軸体系のf0とfn-1は計算可能であった.これまで,6次元までのワイソフ構成が与えられた高次元準正多面体の面数fkがコンピュータを使った総当たり的な探索手法によって求められているが,f0とfn-1公式の計算結果とコンピュータを用いた結果は一致することが確認されている.

[a]f0公式

 正多胞体は鏡映(反転)すると合同になる単体群に分割される.それが基本単体である.正単体では(n+1)!個,正軸体・立方体では2^nn!個の基本単体に分割される.準正多胞体では点Qが決まればあとは鏡映することによってすべての頂点の位置を決定することができる.

 ワイソフ構成が(1,1,・・・,1)すなわち同じ位置に複数の頂点がない場合,正単体系では頂点数(n+1)!,正軸体系では頂点数2^nn!になる.また,これらは単純多面体であるがら,辺数はf1=n/2・f0で与えられる.この多面体のk次元面数公式については完成している.

 それ以外の場合は,n次元の正軸体も正単体もファセットは等しく,(n−1)次元正単体であることを用いる.すなわち,ひとつの稜線を構成する点の数をk1(常に2),ひとつの多角形を構成する辺の数をk2,・・・とおくと,n次元正軸体は

  (2,3,4,・・・,n,2^n)

n次元正単体は

  (2,3,4,・・・,n,n+1)

であることを用いて,以下のように経路数を計算する.

[0]k次元胞数をgkとおく.

  n次元正軸体:gk=(n,k+1)2^(k+1)

  n次元正単体:gk=(n+1,k+1)

[1]点QがPkにあるとき

  f0=Gkgk,  Gk=(k+1,k+1)=1

[2]点QがPjPkにあるとき

 PjPk(j<k)はk次元胞の中心Pkからj次元胞の中心に向かう線分の数であるから,その数はk次元胞は何個のj次元胞で構成されているかに一致する.

 当該の数は,

  Gk=(k+1,j+1)

となるから,

  f0=Gkgk

  j=k−1ならばGk=(k+1,k)=(k+1,1)=k+1

  j=k−2ならばGk=(k+1,k−2)=(k+1,2)=k(k+1)/2

となる,

[3]点QがPiPjPkにあるとき

 PiPjPk(i<j<k)はk次元胞の中心Pkからj次元胞の中心に向かう線分の数であるから,その数はk次元胞は何個のj次元胞で構成されているかとj次元胞の中心Pjからi次元胞の中心に向かう線分の数であるから,その数はj次元胞は何個のi次元胞で構成されているかに依存する.

 すると,当該の数は,

  Gk=(k+1,j+1)(j+1,i+1)

となるから,

  f0=Gkgk

  j=k−1ならば(k+1,k)=(k+1,1)=k+1

  i=j−1ならば(j+1,j)=(j+1,1)=j+1

となり,

  Gk=(k+1,j+1)(j+1,i+1)=(k+1)(j+1)=k(k+1)

となる.

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[b]fn-1公式

 胞数fn-1を数えるだけならば,座標にこだわらず,ファセットが縮退しているか否かどうかを順次調べた方が早道である.

 ファセットが縮退しているか否かどうかは,ワイソフ構成から以下のようにして求めることができる.

[1](1,0,・・・,0)→[0,0,・・・,1]

   (0,0,・・・,1)→[1,0,・・・,0]

[2a]ワイソフ構成の最も左にある1と最も右にある1の間の成分をすべて1にする.

[2b]隣の成分が0である1を0に変更する.

[2c]両端の成分を1にする.

 こうして

  (m0,m1,・・・,mn-1)→[b0,b1,・・・,bn-1]

と変換されるが,

  fn-1=Σbkgk

が成り立つ.

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【3】現状と課題

 頂点数f0,ファセット数fn-1はわかったが,任意の次元の辺や面の個数fkの一般式については気になるところである.

 準正多胞体の場合も,正多胞体の場合のように母関数を用いてfk公式が求められればそれに越したことはないのであるが,3次元の場合も知られていない.

 f2以上はmetric structureが必要になると思われるが,f1についてはropological combinatorial structureだけで求められるかもしれない.f0公式がわかっているわけであるから,その頂点の次数がわかればすぐにf1公式は求められるはずである.すなわち,組み合わせ的方法によって求めてみるのがよさそうであるが,意外に難しい.

 現在,4次元正単体系・正軸体系の辺数f1は完成しているが,5次元以上については不完全である.

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