■菱形六面体の切頂(その2)

 前回のコラムでは,頂角72°の菱形からなる菱形六面体を黄金比切頂すると球に内接する八面体が得られることがわかりました.このことは<デューラーの八面体>が頂角72°の切頂菱面体であるという説を強く示唆していると思われました.

 ところで,扁長菱面体の8頂点のうち6つは同心球面上に位置しますが,菱形の鋭角が3つ集まって構成される2つの頂点はこの球には内接しません.すなわち,この菱面体の8つの頂点は2つの同心球面上(6つは内側の球面に,2つは外側の球面に)に位置することになります.

 頂角72°の菱形六面体ではこの2つの球の半径の比も黄金比となっているのでしょうか,それともこの半径比が黄金比となるのは頂角72°の黄金菱面体(頂角63.4°)なのでしょうか? 今回はこの2つの球の半径の比が黄金比,白銀比など神聖な比となるような菱形六面体を求めてみることにします.

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【1】菱形六面体の計量

 前回同様,菱形の鋭角が3つ集まって構成される頂点を原点として,この菱面格子の3つの基本ベクトルを

  a↑=(d,1,0)

  b↑=(d,−1,0)

  c↑=(x,0,z),x^2+z^2=d^2+1

とおきます.

 菱面体の中心の座標は(d+x/2,0,z/2)ですから,8頂点のうち6つ

  (d,1,0),(d,−1,0),(2d,0,0)

  (x,0,z),(d+x,1,z),(d+x,−1,z)

までの距離r1はすべて等しく

  r1^2=(x^2+z^2)/4+1=(d^2+5)/4

と計算されます.すなわち,これらは半径rの同心球面上に位置します.

 一方,菱形の鋭角が3つ集まって構成される2つの頂点

   (0,0,0),(2d+x,0,z)

までの距離は等しく

  R^2=(d+x/2)^2+(z/2)^2=(9d^2−3)/4

 これまででてきた菱面体

  θ=60,63.4350,70.5288,72,76,80,82,90

について

  R/r1={(9d^2−3)/(d^2+5)}^(1/2)

比を求めると

R/r1

  θ=60 1.73205

  θ=63.4350(黄金菱面体) 1.64291

  θ=70.5822(白銀菱面体) 1.46253

  θ=72(デューラーの八面体) 1.42754

  θ=76 1.33011

  θ=80 1.23438

  θ=82 1.18705

  θ=90(立方体) 1

となりました.

 R/r1比が黄金比τとなる菱面体は,黄金菱面体と白銀菱面体の間にあることがわかったわけですが,半径比が黄金比τとなる菱面体の頂角θを

  (R/r1)^2=(9d^2−3)/(d^2+5)=τ^2=τ+1

として求めてみると

  d^2=(5τ+8)/(8−τ)=2.52119

  θ=2arctan(1/d)=64.4048

となりました.

 同様に,白銀比となる場合は

  (R/r1)^2=2 → d^2=1.85174,θ=72.5425

また,

  (R/r1)^2=(5+2√5)/5 → d^2=1.75526,θ=74.0907

と計算されました.

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【2】切頂八面体の計量

 2つの外接球の半径比にさしたる特徴は見あたりませんでしたが,次にもうひとつの球について考えてみることにします.2つの頂点を切頂して球に内接する多面体を作ったわけですが,菱形六面体を球に内接するように切頂すると,新たに正三角形面が2面できます.

 そこで,切頂によってできる正三角形面

  (td,t,0),(td,−t,0),(tx,0,tz)

  (2d+x−td,−t,z),(2d+x−td,t,z),(2d+x−tx,0,z−tz)

のそれぞれの中心(重心)

  ((2d+x)t/3,0,zt/3)

  ((2d+x)(1−t/3),0,z(1−t/3))

を通る球の半径r2を求めてみることにします.

 この球の半径は,前節の6頂点を通る球の半径

  r1^2=(x^2+z^2)/4+1=(d^2+5)/4

より小さく

  r2^2={(d+x/2)^2+(z/2)^2}(1−2t/3)^2

    =R^2(1−2t/3)^2

で与えられます.

 したがって,R/r2比は 

  R/r2=1/(1−2t/3)=3/(1−2t)

となりますが,ここでtは切頂比であって

  t=2(d^2−1)/(d^2+1)

と計算されます.

R/r2

  θ=60 3

  θ=63.4350(黄金菱面体) 2.47699

  θ=70.5822(白銀菱面体) 1.79621

  θ=72(デューラーの八面体) 1.70075

  θ=76 1.47615

  θ=80 1.30129

  θ=82 1.22785

  θ=90(立方体) 1

 半径比が黄金比τとなる菱面体の頂角θは72°と76°の間にあることがわかりましたが,この頂角は

  1−2t/3=1−4(d^2−1)/3(d^2+1)=1/τ

より

  d^2=(10−3τ)/(3τ−2)=1.80298

  θ=2arctan(1/d)=73.3531

 なお,白銀比となる場合は

  d^2=1.56302,θ=77.3104

1:√{(5+2√5)/5}となる場合は

  d^2=1.51602,θ=78.1651

と計算されました.

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【3】まとめ

 菱形三十面体は対角線の比が黄金比(1:(√5+1)/2=1.618)になっている菱形を12枚組み合わせてできる多面体ですが,ゾーン多面体ですから黄金菱面体(六面体)に分割することができます.また,菱形十二面体は対角線の比が白銀比(1:√2)になっている菱形を12枚組み合わせてできる多面体で,白銀菱面体(六面体)に分割することができます.

 菱形三十面体も菱形十二面体も球に内接する(外接球をもつ)のですが,このような関係から黄金菱面体(θ=63.4350)や白銀菱面体(θ=70.5822)では2つの外接球の半径の比も特別な比になるのではないかと期待されました.

 しかし,上で示したように,これらの多面体に特別な意味を見いだすことはできませんでした.デューラーの切頂八面体と菱形六面体の比も黄金比とはならず,面白い特徴は見あたりませんでした.

 参考までにr1/r2比を掲げると

r1/r2

  θ=60 1.73205

  θ=63.4350(黄金菱面体) 1.50768

  θ=70.5822(白銀菱面体) 1.22816

  θ=72(デューラーの八面体) 1.19139

  θ=76 1.10980

  θ=80 1.05021

  θ=82 1.03437

  θ=90(立方体) 1

と残念な結果に終わってしまいましたが,そうそう都合のいいことばかりは起こらないようです.

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