■2次体の単数と類数(その1)

 有理数体Qに,x^2−d=0の根√dを添加して得られる体Q(√d)を考えます.すると0,1以外の平方因数をもたない整数d,すなわち,

  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・

によって,Q(√d)は体になり,2次体Q(√d)の元は一意的に

  Q(√d)={a+b√d|a,bは有理数}

の形で表されます.

 d>0のとき実2次体,d<0のとき虚2次体と呼ばれますが,とくにd=−1のとき

  Q(√−1)=Q(i)

はガウスの数体となります.

 2次体Q(√d)には,各素数pに対して(0,1,−1)を値にもつクロネッカーの指標χ(p)があり,

  χ(p)=0   (分岐)

      =+1  (完全分解)

      =−1  (pは2次体でも素)

と定義されます.

 具体的には,Dを判別式として

  p|D → χ(p)=0

  p≠2 → χ(p)=(D/p)

  p=2 → χ(p)=(−1)^{(D^2-1)/8} 

のように計算されるのですが,

  p=2 → χ(p)=(−1)^{(D^2-1)/8} 

はd=1(mod4)のときのみに起って,右辺は第2補充法則によっています.

 たとえば,Q(√−1)=Q(i)の世界では,

  χ(5)=(−1/5)=1  (第1補充法則)

より,素数5は2つの相異なる素イデアルの積となり

  5=(2+i)(2−i)

と分解されるというわけです.

 今回のコラムでは

  Q(√46)の基本単数は?

の計算手順をみていきますが,そのことを踏まえて次回のコラムでは

  Q(√6)の類数は?

という問題を解いてみることにしたいと思います.

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【1】実2次体の基本単数

 Q(√m)を2次体とするとき,a+b√mの共役をa−b√mで表します(m<0ならば通常の複素共役である).このとき,その標準底は

  ω=√m         m=2,3(mod4)

  ω=(1+√m)/2   m=1(mod4)

で与えられます.

 そして,単位元「1」の約数を単数といいます.m>0のとき,単数群は

  {±1}×C(Cは乗法的巡回群)

によって与えられます.また,εをε>1なる最小の単数とするとき,

  C={±ε^n}

と表すことができ,εをQ(√m)の基本単数といいます.

 このようなεのとり方は4通りあるのですが,その中でε>1なるものは1通りですから,実2次体の基本単数は一意に定まります.Q(√m)を実2次体とすると,

[a]m=2,3(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=a+b√m

とすると

  ε~=a−b√m

εが単数←→εε~=a^2−mb^2=±1

また,

  ε^n=an+bn√m

と書くと

  ε^(n+1)=ε・ε^n=(a+b√m)(an+bn√m)

      =aan+bbnm+(abn+ban)√m

 これより

  an+1=aan+bbnm

  bn+1=abn+ban

 このことから0<a1<a2<・・・,0<b1<b2<・・・となるのですが,より,a,bはペル方程式:

  a^2−mb^2=±1

の解の中で(a,b)が最小なものとして与えられます.ペル方程式の自明な解(a=±1,b=0)には単数±1が,自明でない解のなかで絶対値|a|または|b|が最小なものには基本単数が対応するというわけです.

 Q(√2),Q(√3),Q(√6),Q(√7)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−2y^2=±1,複号は−1で(1,1)が最小→ε=1+√2

  x^2−3y^2=±1,複号は+1で(2,1)が最小→ε=2+√3

  x^2−6y^2=±1,複号は+1で(5,2)が最小→ε=5+2√6

  x^2−7y^2=±1,複号は+1で(8,3)が最小→ε=8+3√7

[b]m=1(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=(a+b√m)/2   a=b(mod2)

と書けば

  a^2−mb^2=±4

となること以外は前と同様です.

 Q(√5),Q(√13)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−5y^2=±4,複号は−4で(1,1)が最小→ε=(1+√5)/2

  x^2−13y^2=±4,複号は−4で(3,1)が最小→ε=(3+√13)/2

 なお,実2次体の基本単数は一意に決まるのに対して,虚2次体では

  a^2+mb^2=±1 → (a,b)=(±1,0)

ですから,単数基準自身が消えてしまいます.→[補]

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 Q(√2)ではε=1+√2が基本単数ですが,その他の解は

  (1+√2)^n=an+bn√2

とおいて

  n=1:1^2−2・1^2=−1

  n=2:3^2−2・2^2=+1

  n=3:7^2−2・5^2=−1

  n=4:17^2−2・12^2=+1

  n=5:41^2−2・29^2=−1

  n=6:99^2−2・70^2=+1

  n=7:239^2−2・169^2=−1

  n=8:577^2−2・408^2=+1

  n=9:1393^2−2・985^2=−1

  n=10:3363^2−2・2378^2=+1

一般に,

  an^2−2bn^2=(−1)^n

となります.

 Q(√3)ではε=2+√3が基本単数で,

  n=1:2^2−3・1^2=+1

  n=2:7^2−3・4^2=+1

  n=3:26^2−3・15^2=+1

  n=4:97^2−3・56^2=+1

  n=5:362^2−3・209^2=+1

  n=6:1351^2−3・780^2=+1

  n=7:5042^2−3・2911^2=+1

  n=8:18817^2−3・10864^2=+1

  n=9:70226^2−3・40545^2=+1

  n=10:262087^2−3・151316^2=+1

一般に,an^2−2bn^2=1でan^2−2bn^2=−1となる解は存在しません.

 この2つの例からわかるように,基本単数εのノルムが−1のときには

  x^2−my^2=+1

  x^2−my^2=−1

はどちらも無数の解をもちますが,εのノルムが+1のときには解はすべて前者の解であって,後者は解をもちません.

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 以下,実2次体Q(√m)の基本単数εを掲げますが

m  ペル方程式の最小解        ε           ノルム

2  1^2−2・1^2=−1       1+√2         −1

3  2^2−3・1^2=+1       2+√3         +1

5  1^2−5・1^2=−4       (1+√5)/2     −1

6  5^2−6・2^2=+1       5+2√6        +1

7  8^2−7・3^2=+1       8+3√7        +1

10  3^2−10・1^2=−1      3+√10        −1

11  10^2−11・3^2=+1     10+3√11      +1

13  3^2−13・1^2=−4      (3+√13)/2    −1

14  15^2−15・4^2=+1     15+4√14      +1

15  4^2−15・1^2=+1      4+√15        +1

17  8^2−17・2^2=−4      4+√17        −1

19  170^2−19・39^2=+1   170+39√19    +1

21  5^2−21・1^2=+4      (5+√17)/2    +1

22  197^2−22・42^2=+1   197+42√22    +1

23  24^2−23・5^2=+1     24+5√23      +1

26  5^2−26・1^2=−1      5+√26        −1

29  5^2−29・1^2=−4      (5+√29)/2    −1

30  11^2−30・2^2=+1     11+2√30      +1

31  1520^2−31・273^2=+1 1520+273√31  +1

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【2】連分数とペル方程式の解法

 mが小さいときは実2次体Q(√m)の基本単数ε比較的簡単に求まりましたが,ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.Q(√199)を考えてみると,199=3(mod4)の素数ですが,

  x^2−199y^2=±1

の最小解は

  (16266196520,1153080099)

にもなってしまいます.

 この解を求めるには√199の連分数展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

を用います.9〜28は循環節(周期20)です.

 標準連分数では,

  α=[q1,・・・,qn]=Pn/Qn

  P0=1,P1=q1,Pn=qnPn-1+Pn-2

  Q0=0,Q1=1 ,Qn=qnQn-1+Qn-2   (n=2,3,・・・)

  PnQn-1−Pn-1Qn=(−1)^n   (n=1,2,・・・)

  PnQn-2−Pn-2Qn=(−1)^n-1qn   (n=2,3,・・・)

が成り立ちます.

 また,

  α=[q1,・・・,qn-1,qn,qn+1,・・・]

の部分列[qn,qn+1,・・・]に対して

  αn=[qn,qn+1,・・・]

なる実数αnを定めると

  α=[q1,・・・,qn-1,αn]

   =(αnPn-1+Pn-2)/(αnQn-1+Qn-2)

が証明されます.

 これに循環連分数になるという性質が加わって,ペル方程式の解が得られるのですが,

  √m=[q1,q2,・・・,qn,2q1]   (周期n)

  αn+1=[2q1,q2,・・・]=√m+q1

より

  √m=((√m+q1)Pn+Pn-1)/((√m+q1)Qn+Qn-1)

 ここで,

  PnQn-1−Pn-1Qn=(−1)^n   (n=1,2,・・・)

より,

  Pn^2−mQn^2=(−1)^n

となり,ペル方程式の解(Pn,Qn)が得られます.

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

では,q1=14,q2=9,q3=2,・・・,n=20ですから

P Q

0 1 0

1 14 1

2 127 9

3 268 19

4 396 28

5 1058 75

6 2511 178

7 13613 965

8 56963 4038

9 70576 5003

10 127593 9041

11 1728583 122536

12 1856122 131577

13 3584705 254113

14 16194942 1148029

15 84559415 5994258

16 185313772 13136545

17 455186959 32267348

18 640500731 45403893

19 1736188421 123075134

20 16266196520 1153080099

となって,

  (16266196520,1153080099)

が得られました.

 ペル方程式は√mの連分数展開を用いると非常に簡単に求められるのですが,最小解がmと較べて非常に大きい例としては

m        ε                       ノルム

46   24335+3588√46                 +1

94   2143295+221064√94             +1

151  1728148040+140634693√151      +1

193  1764132+126985√193            −1

409  111921796968+5534176685√409   −1

526  84056091546952933775+3665019757324295532√526                     +1

などが知られているようです.

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【3】Q(√46)の単数は?

 mを平方数でない自然数とすると,いわゆるペル方程式とは

  x^2−my^2=±1

で表されるものです.

 Q(√46)の基本単数は?という問題では,ペル方程式

  x^2−46y^2=±1

を解くことになるのですが,ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.

 解を求めようと思ってもなかなか見つかないのですが,それもそのはずでこの最小解は

  (24335,3588)

のようにとても大きなものになってしまいます.これではいくら式を眺めたところでわからないのは無理もありません.

 Q(√46)の基本単数は?の答えが

  ε=24335+3588√46

となるという結論を先に述べてしまいましたが,このように大きな値になることで悪名高き問題なのですから・・・.

 この解を合理的に出すには,後述するように√46の連分数展開

  √46=[6;1,3,1,1,2,6,2,1,1,3,1,12,・・・]

を用います.1〜12は循環節(周期12)です.

 ところで,√46の連分数展開では小数部分を1/αとおいて計算を繰り返します.

√46=6+1/α,q1=6

α=1/(√46-6)=(√46+6)/10=1+1/α,q2=1

α=10/(√46-4)=(√46+4)/3=3+1/α,q3=3

α=3/(√46-5)=(√46+5)/7=1+1/α,q4=1

α=7/(√46-2)=(√46+2)/6=3+1/α,q5=1

α=6/(√46-4)=(√46+5)/5=2+1/α,q6=2

α=5/(√46-6)=(√46+6)/2=6+1/α,q7=6

α=2/(√46-6)=(√46+6)/5=2+1/α,q8=2

α=5/(√46-4)=(√46+4)/6=1+1/α,q9=1

α=6/(√46-2)=(√46+2)/7=1+1/α,q10=1

α=7/(√46-5)=(√46+5)/3=3+1/α,q11=3

α=3/(√46-4)=(√46+4)/10=1+1/α,q12=1

α=10/(√46-6)=(√46+6)=12+1/α,q13=12

 これ以降は

α=1/(√46-6)=(√46+6)/10=1+1/α,q14=1=q2

α=10/(√46-4)=(√46+4)/3=3+1/α,q15=3=q3

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

のように循環します.

  √46=[6;1,3,1,1,2,6,2,1,1,3,1,12,・・・]

となることがわかりました,次にq2=1〜q12=1を漸化式

P(i)=qiP(i-1)+P(i-2)

P(0)=1,P(1)=q1=6

に代入してP(12)を求めます.

P(2)=P(1)*1+P(0)=7

P(3)=P(2)*3+P(1)=27

P(4)=P(3)*1+P(2)=34

P(5)=P(4)*1+P(3)=61

P(6)=P(5)*2+P(4)=156

P(7)=P(6)*6+P(5)=997

P(8)=P(7)*2+P(6)=2150

P(9)=P(8)*1+P(7)=3147

P(10)=P(9)*1+P(8)=5297

P(11)=P(10)*3+P(9)=19038

P(12)=P(11)*1+P(10)=24335

 さらに,漸化式

Q(i)=qiQ(i-1)+Q(i-2)

Q(0)=0,Q(1)=1

によりQ(12)を求めると

Q(2)=Q(1)*1+Q(0)=1

Q(3)=Q(2)*3+Q(1)=4

Q(4)=Q(3)*1+Q(2)=5

Q(5)=Q(4)*1+Q(3)=9

Q(6)=Q(5)*2+Q(4)=23

Q(7)=Q(6)*6+Q(5)=147

Q(8)=Q(7)*2+Q(6)=317

Q(9)=Q(8)*1+Q(7)=464

Q(10)=Q(9)*1+Q(8)=781

Q(11)=Q(10)*3+Q(9)=2807

Q(12)=Q(11)*1+Q(10)=3588

 以上の計算によって,基本単数

  ε=24335+3588√46

が求められました.

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【4】おまけ

 連分数展開によって

  (1+√5)/2=[1;1,1,1,1,1,・・・]

  √2=[1;2,2,2,2,2,・・・]

のように,1や2が無限に繰り返されるという規則性を見ることができます.

  √3=[1;1,2,1,2,1,2,・・・]

では交互に1,2が現れる循環連分数となります.以下,

  √5=[2;4,4,4,・・・]

  √6=[2;2,4,2,4,2,・・・]

  √7=[2;1,1,1,4,1,1,1,4,・・・]

一般に,√mの連分数展開は循環連分数となり周期性が証明されます.これは既約分数の小数展開が循環小数になることと対比するとおもしろい事実です.

 その際,

  √m=[q0;q1,q2,・・・,qn-1,2q0,・・・]

という周期nの連分数展開が得られます.

  √2=[1;2,・・・]

  √3=[1;1,2,・・・]

  √5=[2;4,・・・]

  √6=[2;2,4,・・・]

  √7=[2;1,1,1,4,・・・]

すなわち,どの循環節もqn=2q0=[2√m]で終わっています.

 たとえば,√199の展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

をみると,14で始まり28で終わるというのもこの理由によります.

 このように,標準無限連分数のうち,部分分母列のあるところから先が巡回的になる循環連分数は2次の無理数(整数係数の2次方程式の解として表される数)に収束します.この性質により,整数項の標準連分数はいわゆるペル方程式:x^2−my^2=d(多くは±1,±4)の解法など整数論の分野で活用されます.

 また,√199の循環節の最後の28を除くと13を中心として対称になっていることにも気付かされます.

  √43=[6;1,1,3,1,5,1,3,1,1,12,・・・]

  √54=[7;2,1,6,1,2,14,・・・]

  √76=[8;1,2,1,1,5,4,5,1,1,2,1,16,・・・]

  √94=[9;1,2,3,1,1,5,1,8,1,5,1,1,3,2,1,18,・・・]

  √1000=[31;1,1,1,1,1,6,2,2,15,2,2,6,1,1,1,1,1,62,・・・]

 循環部の最後の項を除いた部分は回文(前から読んでも後から読んでも同じ)になっているという事実も,199のみならず,2次の無理数√mに共通していえる性質です.

  √m=[q0;q1,q2,・・,q2,q1,2q0,・・・]

 なお,2次の無理数には循環連分数が対応しますが,連分数による実数の最良近似は解を下方と上方から近似していく方法であって,ユークリッドの互除法に直結しています.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 以上のことから,最も素朴な循環連分数は

  √m=[q0;2q0,2q0,2q0,・・・]

で表されるものと考えられます.

 このとき,

  P=2q0^2+1,Q=2q0

より,mは

  (2q0^2+1)^2−m・4q0^2=±1

を満たす整数となるのですが,結局,このようなmは

  m=q0^2+1=2,5,10,・・・

となることが導き出されます.

  √2=[1;2,2,2,・・・]

  √5=[2;4,4,4,・・・]

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[補]虚2次体Q(√d)の単数

 d<0のとき,

  d=−1 → 4個の単数

  d=−3 → 6個の単数

なのですが,

  d≠−1,−3 → 2個の単数{±1}

となります.

 すなわち,Q(√d)の場合,

(1)d>0ならば{±ε^n}(無限群)

(2)d<0のとき

 α)d=−1ならば{±1,±i}

 b)d=−3ならば{±1,±ρ,±ρ^2}

 c)d≠−1,−3ならば{±1}

(証明)

(1)d>0ならばα^n=1なるαは±1しかない.

(2)d<0のとき

  α^2−(α+α~)α+αα~=0

という関係を満足し,|α|=1だから,x^2+bx+1=0(bは整数)の根

  α=(−b+√(b^2−4))/2

になる.

 b^2=4はα=±1を与えるからb^2≠4とする.また,b^2−4=c^2と平方数になる場合は(b+c)(b−c)=4より,

  b+c=4,b−c=1

これは明らかに不可能.したがって,d<0よりb^2−4<0でなければならない.

 よって,b=0またはb=1またはb=−1の可能性がある.

  b=0→{±i}

  b=1→{±ρ}

  b=−1→{±ρ^2}

 なお,円分体

  Q(ζ),ζ=exp(2πi/d)

の単数は

  {±1,±ζ,±ζ^2,・・・,±ζ^(d-1)}

の2d個の元からなります.

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