■デューラーの八面体の製作(その3)

【1】菱形多面体

 合同な菱形だけでできている多面体について考えます.平行六面体となる菱面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute(扁長菱面体),太めで平たいほうがobtuse(扁平菱面体)と呼ばれています.

 菱形の鋭角と鈍角の和は180°ですから,頂点に4つ以上の鈍角が集まることは不可能です.頂点に集まる角がすべて鈍角である場合はqi=3で,菱形の鈍角が120°より小さいことが必要になります.また,この菱形(鋭角が60°より大きい)が頂点に集まる角がすべて鈍角である場合は最大1頂点に5枚ですから,qi=4またはqi=5ということになります.

 ケプラーは複合多面体から菱形十二面体,菱形三十面体を発見し,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比(1:√2)になっている菱形を12枚組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比(1:(√5+1)/2=1.618)になっている菱形を30枚組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしました.

 菱形十二面体,菱形三十面体は球に内接する(外接球をもつ)のですが,球には内接しないものの合同な菱形だけでできている多面体には,2種類の菱形六面体を除いて実はあと2つ,1885年にフェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体(第2種)があります.

 各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比の黄金六面体の場合,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.2種類の黄金菱面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

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【2】ゾーン多面体の構成

 ここでは,すべての面が菱形で,すべての稜が与えられたn方向のみを向いている多面体を(狭義の)ゾーン多面体と呼ぶことにします.

 菱形三十面体からあるゾーン(菱形の連なった帯)を抜き取って押しつぶすと菱形二十面体,菱形二十面体からあるゾーンを抜くと菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.

 菱形のすべての稜は2方向を向いていますが,もっとも単純なゾーン多面体は菱形6面体であり,このとき稜は3方向を向いています.次に単純なゾーン多面体は菱形十二面体(立方八面体の双対)で4方向,菱形三十面体(12・20面体の双対)では6方向,菱形二十面体では5方向,菱形十二面体(第2種)では4方向をを向いています.また,すべてのゾーン多面体は菱形6面体に分割することができます.

 ゾーン多面体の面の数は

  f=n(n−1)=2,6,12,20,30,42,56,・・・

枚となります.また,辺数,頂点はそれぞれ

  e=2n(n−1)

  v=n(n−1)+2

で表されます.

 コラム「菱形多面体の構成(その2)」に掲げたように,菱形多面体の決定にゾーン多面体を調べると比較的簡単に決定できます.菱形多面体では

  6≦f≦30

を示すことができますから,

  f=n(n−1)=6,12,20,30

がすべての菱形多面体を網羅していることになります.

 なぜゾーン多面体が菱形多面体を網羅するのか疑問が残るかもしれませんが,菱形に限らず,(広義の)ゾーン多面体とは面をつないだゾーン(ベルト)で作られる多面体です.それは立方八面体や12・20面体のように辺が正多角形にまとめられる立体の双対(相反というべきか)多面体として導入された概念ですが,フェドロフ(ロシアの結晶学者)の研究によって,面がすべて中心対称な多角形(当然偶数角形)で囲まれた多面体として特徴づけられるということが知られています.

 したがって,菱形多面体を網羅する大分類として,面がすべて平行四辺形で作られる多面体を調べれば十分です.ゾーン多面体の面数がn(n−1)枚に限ることは比較的容易に示すことができますので,あとは面が菱形になる範囲に限定して全部が決定できます.なお,nが大きいときには平行四辺形だけでは間に合いませんが,中心対称な六角形,八角形,・・・などを含めて構成できる場合があるそうです.

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