■ベイカー・スタークの定理(その1)

 オイラーは素数をかなりの確率で生成する公式(2次多項式)

  n^2+n+41

を発見しています.この公式はn=0のとき素数41,n=1で素数43,n=2で素数47を与えます.このようにしてnが0から39までのどのnをとってもオイラーの公式はすべて素数を与えます.

 41,43,47,53,61,71,83,97,113,131,

 151,173,197,223,251,281,313,347,

 383,421,461,503,547,593,641,691,

 743,797,853,911,971,1033,1097,1163,

 1231,1301,1373,1447,1523,1601

 オイラーの公式はn=40で1681=41^2となって破綻しますが,1000万以下のnに対して47.5%の確率で素数を生成します.

 また,オイラーは,2次多項式

  fq(x)=x^2+x+q

において,qが素数

  2,3,5,11,17,41

のとき,

  fq(0),fq(1),・・・,fq(q−2)

がすべて素数になることを観察しています.(fq(q−1)=q^2は素数ではありません.)

 しかし,素数

  7,13,19,23,29,31,37

に対して,このことは成立しません.

  f7(1)=9,f13(1)=15,f19(1)=21,f23(1)=25,

  f29(2)=34,f31(1)=33,f37(1)=39

 これらの事実を確認するのは簡単ですが,しかしオイラーはどうやってこんな事実を見つけだしたのでしょうか.また,そうなる真の理由は何なのでしょうか.

 オイラーの有名な素数生成式

  n^2+n+41

は,虚2次体の理論と深く関係しています.

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【1】ラビノヴィッチの定理

 fq(x)が0≦x≦q−2なるすべてのxについて素数となることと虚2次体Q(√d)との関係が,ラビノヴィッチにより示されています(1912年).

[1]d=2,3(mod4)のとき

  q=−d        

  fq(x)=x^2+q

[2]d=1(mod4)のとき

  q=(1−d)/4

  fq(x)=x^2+x+q

とおきます.

 [2]がオイラーの公式に対応しているわけですが,連続する0≦x≦q−2に対してすべて素数になるには

  「qが素数で,虚2次体Q(√1−4q)が類数1をもつときに限る.」

というのが,ラビノヴィッチの定理です.

 類数1については後述しますが,[2]でd=−163=1(mod4)の場合を考えると,q=41.したがって,

  fq(x)=x^2+x+41

となります.このようにして,上の現象は虚2次体Q(√−163)と関係していることがわかります.

 同様に,1変数の2次多項式

  n^2+n+17

も高い確率で素数を生成しますが,d=−67=1(mod4)の場合を考えると,q=17ですから,虚2次体Q(√−67)と関係しているというわけです.

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【2】ベイカー・スタークの定理

 オイラーの2次多項式において,最初のq−1個がすべて素数となるような素数q(>41)は存在するのでしょうか.もし存在するならば,そのようなqは無限にあるのでしょうか.あるいは,有限個ならば最大のqはいくつになるのでしょうか.

 1966年,ベイカーとスタークは独立に類数1の虚2次体Q(√d)すなわち(d<0,dは平方因子をもたない)なる2次体をすべて決定したのですが,それによると,

  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163

 したがって,虚2次体Q(√1−4q)が類数1をもつのは,

  4q−1=7,11,19,43,67,163

すなわち,

  「qが素数で,2,3,5,11,17,41に限る.」

というものです.

 もし,そのような素数が無限に多く存在すれば,任意の長さの素数列を生成することができるのですが,ベイカー・スタークの定理はこれが成立しないことを示していて,

  fq(x)=x^2+x+41

が最も長く連続した整数点において素数値をとる多項式であるというわけです.

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