■フェルマーの最終定理と有限体(その13)

 驚かれるかもしれないが,リーマン予想は合同ゼータ関数に限ればすでに証明されている・・・.

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【1】拡大体Fp^nにおける解の個数N(n)

 フェルマーの問題を拡張する方向としては,一つには指数を大きくすること,

  x^3+y^3=z^3 → x^m+y^m=z^m

もう一つには有限体の位数を増すこと,

  Fp → Fq=Fp^n (Fpのn次拡大体:q=p^n)

の2つの方向が考えられますが,ここでは後者について考えてみることにします.すなわち,この節で取り扱う範囲は

  m\n 1 2 3 4 5 ・・・

  1   ○ ○ ○ ○ ○

  2   ○ ○ ○ ○ ○

  3   ○ ○ ○ ○ ○

  5   × × × × ×

  7   × × × × ×

ということになります.

 Fp^nの0でない元の全体は,位数p^n−1の乗法群をなします.この群のすべての元は

  f(x)=x^(p^n-1)−1=0,すなわち,x^(p^n)=x

を満たします.また,

  (x+y)^p=x^p+y^p  (和のp乗はp乗の和)

  (xy)^p=x^py^p    (積のp乗はp乗の積)

ですから,p乗の算法は体をなしています.一般に,

  {f(x)}^p=f(x^p)

が成立します.

[注]誤解を避けるために申し添えておきますが,たとえば,

  Z/9Z={0,1,2,3,4,5,6,7,8}

(一般にZ/p^nZ)では,有限環とはなっても有限体にはなりません.n≧2ならば,Fp^nとZ/p^nZはまったく違うものなのです.

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 一般に,有限体Fpのn次拡大体Fp^n上の方程式

  x+y=z   (x,y,zはFp^nの元)

の(x,y,z)=0を除いた解の個数はp^2n−1であり,これがp^n−1個ずつのグループに分かれているので

  N(n)=(p^2n−1)/(p^n−1)=p^n+1,N(1)=Np

x^2+y^2=z^2の場合も,同様に

  N(n)=p^n+1,N(1)=Np

となります.

 ところが,x^3+y^3=z^3 on Fp^nについての解の数N(n)を求めることは簡単ではありません.これを求めるためには

  c(p)=p+1−N(1)=p+1−Np

とおいて,次の関数

  Z(T)=(1-c(p)T+pT^2)/(1-T)(1-pT)

を用います.この関数を合同ゼータ関数といいます.

 合同ゼータ関数は数学的知識の積み重ねのうえで定義された関数なので,おいそれとは説明できませんが,N(n)の母関数であって,m=1,2のときの合同ゼータ関数は

  Z(T)=1/(1-T)(1-pT)

このとき

  -log(1-T)=T+1/2・T^2+1/3・T^3+・・・

ですから

  N(n)/n・T^n=log{1/(1-T)(1-pT)}

=(T+1/2・T^2+1/3・T^3+・・・)+(pT+1/2・p^2T^2+1/3・p^3T^3+・・・)

=Σ(p^n+1)/n・T^n

これより

  N(n)=p^n+1,N(1)=Np

となります.

  Z(T)=(1-c(p)T+pT^2)/(1-T)(1-pT)

の場合は

  N(n)/n・T^n=log{(1-c(p)T+pT^2)/(1-T)(1-pT)}

=Σ(p^n+1)/n・T^n-(c(p)T-pT^2)-1/2・(c(p)T-pT^2)^2-1/3・(c(p)T-pT^2)^3+・・・

より

N(1)=p+1-c(p)

N(2)=(p+1)^2-c(p)^2

N(3)=p^3+1+3pc(p)-c(p)^3

N(4)=(p^2-1)^2+4pc(p)^2-c(p)^4

N(5)=p^5+1-5p^2c(p)+5pc(p)^3-c(p)^5

N(6)=(p^3+1)^2-9p^2c(p)^2+6pc(p)^4-c(p)^6

N(7)=p^7+1+7p^3c(p)-14p^2c(p)^3+7pc(p)^5-c(p)^7

N(8)=(p^4-1)^2+16p^3c(p)^2-20p^2c(p)^4+8pc(p)^6-c(p)^8

N(9)=p^9+1-9p^4c(p)+30p^3c(p)^3-27p^2c(p)^5+9pc(p)^7-c(p)^9

N(10)=(p^5+1)^2-25p^4c(p)^2+50p^3c(p)^4-35p^2c(p)^6+10pc(p)^8-c(p)^10

 この数値は小生が数式処理ソフトを用いずに手計算で求めたものであり,信頼率は50%以下と思われました.そこで畏友・阪本ひろむ氏にお願いしてMathematicaで確認してあります.

 とくに,p=2(mod3)のときはc(p)=0ですから,

  Z(T)=(1+pT^2)/(1-T)(1-pT)

N(1)=p+1

N(2)=(p+1)^2

N(3)=p^3+1

N(4)=(p^2-1)^2

N(5)=p^5+1

N(6)=(p^3+1)^2

N(7)=p^7+1

N(8)=(p^4-1)^2

N(9)=p^9+1

N(10)=(p^5+1)^2

で与えられます.

 なお,m=1,2のときの合同ゼータ関数

  Z(T)=1/(1-T)(1-pT)

がオイラー積

  ζ(s)=Σn^(-s)=Π(1−p^(-s))^(-1)

に似ているのに対して,

  Z(T)=(1-c(p)T+pT^2)/(1-T)(1-pT)

は,楕円曲線の場合のL関数

  Np=p+1+(誤差項)=p+1+Mp

  c(p)=−Mp

  L(s)=Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)

によく似ていることがわかります.

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