■ソフトマテリアルの構築学(その5)

 ハードマテリアルの構築では,筋交いの数とどこに配置すべきかによって補強する.すべての格子に筋交いを入れて三角形に分割する補強をすれば堅牢な構造になるが,それでは費用が高くついてしまう.ハードマテリアルの構築においる経済的原理は,この構造物を補強して剛にするのにできる限り少ない数の筋交いを入れることである.

 一方,ソフトマテリアルによる構築では安定性が重要になる.安定性とはリジッドな変形のしにくさがではなく,変形を食い止めるフレキシブルなメカニズムが働くことである.ソフトマテリアルによる構築では筋交いを入れることができない替わりに細胞同士の配置によって補強しているのである.

 しかし,それは経済原理を無視しているわけではない.ソフトマテリアルの場合も,最小の素材の下で得られるべき利得を最大にする経済原理は見事に通用するのである.

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【1】プラトーの法則

 空間分割のひとつの例として石鹸の泡によるものがあり,昔から物理学者の研究の対象になってきた.泡の形は必ずプラトーの法則を満たすことが証明されている.

[1]3枚の石鹸膜は常に120°をなすかたちで,2つの泡と交わる.

[2]4本の境界はたがいに109.5°をなすように交わる.

  arccos(−1/3)=109.5°

 石鹸の泡による空間分割に結びつく物理的作用はいうまでもなく表面積を極小化しようとする力(表面張力)であるから,ここでは石鹸膜を作る素材の総量を一定なものと仮定してみよう.最小の素材の下で得られるべき利得を最大にすることは商業上重要というだけでなく,物理学分野でも合目的的な構築原理である.

 以下に,長さの総和を最短にする平面石鹸膜の3点,4点シュタイナー問題の解を示す.

 これは生物・無生物を問わず,自然界に広くみられる.生物と無生物に関わりなく,すべての構成物に例外なく通用する物理的過程であろう.

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【2】ウィア・フェランの極小曲面

 同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何だろうかという問いに対して,ケルビンの14面体(4^66^8)は100年以上もの間,最も効率よく空間を充填する多面体として最善の答であったが,本当に表面積を最小化する多面体であるのかというと否定的である.

 もし,体積が同じで形の異なる2種類の多面体を組み合わせてみたら,ケルビン問題の反例がみつかるのでは・・・.そして,1994年,アイルランドの物性物理学者,ウィアは合金構造をヒントにもっと面積が小さくなる解を発見した.それは同じ体積の2種類の多面体による空間充填であって,不等辺五角形の面をもつ12面体(5角形12枚)と14面体(5角形12枚と6角形2枚)が1:3の割合で並ぶものである.

 もちろん,この12面体は正十二面体ではないし14面体もケルビンの14面体ではない.そして,ウィアの空間充填ではウィリアムズの14面体(4^25^86^4)の場合と同様に辺や面には微妙な曲がりが含まれている.また,ウィアの空間充填ではウィリアムズの14面体よりも多くの五角形の面をもつという特徴もあげられる.

 そしてこれらの多面体の表面積はケルビンの14面体よりも0.3%小さいことが判明したのである.曲面の高精度計算がコンピュータでできるようになったことがこの新発見に繋がったのであるが,辺や面を微妙に調節することによって空間充填が可能となる.

 これが最良の泡なのだろうか? おそらくそうだろうと考えられてはいるが,実はこの問題はいまでも未解決問題となっている.まだ結論はでていないのである.

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