■デルタ多面体の構成

 先日,わが家の子供たちのために「ポリドロン」という造形玩具を購入しました.この玩具には等しい長さの辺をもつ三角形・四角形・五角形・六角形の各辺に蝶番がついていて,この中の2つを組み合わせた面同士のなす角度を自由自在に動かすことができます.このような特長から正多面体模型や準正多面体模型を作ることができるのですが,今回のコラムでは正三角形だけを繋いで「デルタ多面体」を作ってみることにしました.

 すべての面が正三角形で構成されている立体をデルタ多面体(正三角面体)といいます.結論を先にいうと,正3角形ばかりを集めると4面体から20面体まで,18面体以外の8種類すべての偶数多面体ができあがります.そのうち,正4面体,正8面体,正20面体は正多面体にも分類されるのですが,デルタ多面体はそれらを含めて全部で8種類あることがわかりました.逆にいうと,もし多面体の各面が正三角形ならば8つの多面体の中のどれかひとつであるということになります.

 同様に,正方形1種類では立方体のみ,正5角形1種類では正12面体のみが得られ,正6角形以上の正多角形ばかりでは凸多面体はできません.結局,1種類の正多角形でできる凸多面体は合計10種類あることになります.

 「ポリドロン」によるデルタ多面体の構成では

  佐藤耕太郎(小学4年生)

  佐藤一麦 (小学2年生)

の協力を得ました.また,「ポリドロン」は東京書籍がその取り扱い店となっています.

  連絡先:tel:03-5390-7513,fax:03-5390-7409(大山茂樹)

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【1】3次元の正多面体

 3次元正多面体が5種類あって5種類しかないことは,オイラーの多面体定理(v−e+f=2)と握手定理(正多面体の1つの頂点に集まる面の形と数をp,qとすると,pf=2e,qv=2e)から簡単に証明できます.手始めとして,正多角形による平面充填問題を考えてみることにしましょう.

 正多角形は無限に多く存在しますが,それでは,

(問)互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?

 この問題は昔から知られていて,それが3種類に限ることは以下のようにして証明されます.

(答)正多角形の中で平面をタイル張りのように隙間なく埋めつくすことができる平面充填形では,各頂点に正p角形がq面が会するとすると,正p角形の一つの内角は2(1−2/p)×90°であり,一つの頂点の回りの内角の和はこれがq個集まって四直角ですから,

  2q(1−2/p)=4,すなわち,

  1/p+1/q=1/2   (p,q≧3)

あるいは

  λ=1/p+1/q−1/2=0

で,この条件を満たす(p,q)の組は(3,6),(4,4),(6,3)の3通りしかありません.したがって,平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3つだけです.このうち正方形のは碁盤,正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.

 2次元の平面の中に正多角形は無限に多くあるのに反して,3次元の空間には無限に多くの正多面体は存在しません.平面充填形は,面数が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますが,平面充填形の場合と同様にして,正多面体の各面を正p角形,各頂点にq面が会するとすると,頂点の周囲は4直角未満ですから,不等式

  2q(1−2/p)<4,すなわち,

  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)

  (p−2)(q−2)<4

が正多角形となる必要条件です.

 このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことはプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solid)とも呼ばれています.

  λ=1/p+1/q−1/2>0

  v=2/qλ,e=1/λ,f=2/pλ

はそのための必要条件ですが,十分条件を得るには実際に構成してみることが要求されます.ご存知のように5種類とも実現可能で,さらにこれらは各面が正p角形,各頂点が正q角錐の凸正多面体になっています.

 平面充填形はλ=0の場合にあたっているので,広義の正多面体と考えることができます.また,広義の正多面体というと星形正多面体があります.凹正多面体にはケプラー(1610年)とポアンソ(1809年)の発見した4種類の星形正多面体がありますが,このことは上記の方法では証明できません.

 また,正多面体の変換群は,3種類の回転対称性:

  正4面体群=A4(4個の要素からなる偶置換全体=交代群)

  立方体(正8面体)群=S4(4個の要素からなる置換全体)

  正12面体(正20面体)群=A5(5個の要素からなる偶置換全体)

に限られます.これらの多面体を自分自身に移す空間の運動がそれぞれ4!/2=12,4!=24,5!/2=60個あるという意味なのですが,コーシーは星形正多面体を定める証明に変換群を用いています(1811年).

 なお,3次元空間の回転対称性には,この他に,正n角錐のもつ巡回群Cnと正n角柱のもつ二面体群Dnがあります.桜の花はC5,雪の結晶はD6というわけです.

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【2】デルタ多面体(必要条件)

 3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)

が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈され,最も美しい数学の10大定理の1つに挙げられるものです.

 また,正則な多面体とはその面が正多角形で,どの面にも同じ数の面が集まっている凸多面体のことで,正多面体では

  pf=2e,qv=2e

でしたが,正則とは限らない一般の多面体では

  Σpi=p1+・・・+pf=2e,

  Σqi=q1+・・・+qv=2e

となります.

 pi=3,3≦qi≦5ですから

  3f=2e   (fは偶数)

  3v≦2e≦5v

これをオイラーの多面体定理

  v−e+f=2

に代入すると

  6≦e≦30

 これより

  4≦f≦20,(3≦v≦20)

が得られます.3f=2eよりfは偶数ですから,4面体から20面体までの偶数多面体がデルタ多面体の候補となります.

   f      e      v

   4      6      4

   6      9      5

   8     12      6

  10     15      7

  12     18      8

  14     21      9

  16     24     10

  18     27     11

  20     30     12

 3次元では,オイラーの多面体公式

  v−e+f=2

以外に

  f≦2v−4,v≦2f−4

を満たせばよいことが証明されています(シュタイニッツ,1906年).デルタ多面体では,これ以上面数fを大きくできないという

  f≦2v−4

の上限に達していることも理解されます.

 なお,これらの式の頂点vと面fの対称性により,f面凸多面体とv点凸多面体は同数になるのですが,「4面体は4つの頂点と4つの面から構成されるので,頂点数を加えていうと,4点4面体である.5面体には4角錐(5点5面体)と3角柱(6点5面体)がある.6面体には5点6面体が1種類,6点6面体,7点6面体,8点6面体が2種類ずつの合計7種類ある.以下,7面体には34種類,8面体には257種類,9面体には266種類ある.

 見方を変えて,凸多面体を頂点数で分類すると,4点多面体は1種類,5点多面体は2種類,6点多面体は7種類,7点多面体は34種類,8点多面体は257種類,9点多面体は266種類,10点多面体は32300種類ある.」・・・両者で同じ数値が出現していることに気づかれたかと思います.

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【3】デルタ多面体の構成(十分条件)

 デルタ多面体の必要条件はわかりましたが,十分条件を得るには実際に構成してみることになります.正4面体は正三角形の上の単角錐,正8面体は正方形の上の重角錐です.

 また,アルキメデスの正角柱(上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの)を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたものをアルキメデスの反角柱と呼びます.正20面体は側面が10個の正三角形からなる五角反柱の上下の面に正五角錐をつけると構成することができます.

 デルタ4面体,デルタ10面体はそれぞれ正三角形の上の重角錐,正五角形の上の重角錐としてできあがります.

 重角錐として構成できるのはここまでで,デルタ12面体からは角錐の間に正三角形からなる帯をつけて,角錐の傘で上下からフタをすることになります.まず最初に,6個の正三角形からなる三角反柱の帯を作ってみたところ,これは正八面体となるのですが,そこの上下に正三角形のフタをすると正八面体そのものです.そこで,三角反柱の帯に正三角錐でフタをすると,正八面体と正四面体の二面角は互いに補角ですから平行六面体となってしまいます.これは空間充填形となるのですが,デルタ多面体とはなりません.

 次に,8個の正三角形からなる四角反柱の帯を作ってみました.この場合,上下のフタとしては正二角錐(2個の正三角形を辺同士で繋いだものをこう呼ぶことにする)と正四角錐が可能になるのですが,「ポリドロン」では四角反柱の帯が剛性体ではなく変形可能で,これらのいずれも上下の面にうまくはめ込むことができました.正二角錐2個をはめ込むとデルタ12面体,正二角錐と正四角錐ではデルタ14面体,正四角錐2個をはめ込むとデルタ16面体となります.

 このうち,デルタ14面体は側面が正方形の正三角柱(アルキメデスの正角柱)の側面に正四角錐3個をはめ込んだ立体とみることもできて,きれいな対称性を示しています.

 次に10個の正三角形からなる五角反柱の帯ということになるのですが,この場合,正五角錐のフタだけが可能になって,正二十面体ができ上がります.こうしてデルタ18面体は構成不可能であることがわかりましたが,十分条件を満たさないことを直接幾何学的に証明できるかどうかまではわかりませんでした.

 結論をまとめますと,デルタ多面体(正三角面体)は正4面体,正8面体,正20面体も含めて全部で8種類あります.面数の少ない順に並べると4,6,8,10,12,14,16,20面体で,デルタ18面体は存在しません.なお,これらは1942年にフロイデンタールによって決定されたようです.

   f      e      v

   4      6      4     ○

   6      9      5     ○

   8     12      6     ○

  10     15      7     ○

  12     18      8     ○

  14     21      9     ○

  16     24     10     ○

  18     27     11     ×

  20     30     12     ○

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【補】その他の多面体

[1]一様多面体

 準正多面体の拡張として,一様多面体という概念があります.面が正則(正多角形・星形正多角形),頂点が等価(すべての頂点の周りが一定)である多面体ですが,1954年,コクセターらはプラトン立体5種類,アルキメデス立体13種類,ケプラー・ポアンソの星形多面体4種類,それ以外の53種類を併せて75種類あると発表しました.20年あまり後に,スキリングがコンピュータを使うことによってその証明を与えました.

[2]ザルガラー多面体(正多角面体)

 また,一様多面体とは別の図形ですが,1966年,ザルガラーは正多角面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体,準正多面体を除くと92種類存在することを証明しました.これもコンピュータの手を借りることで解決されました.

[3]菱形多面体

 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.

 なお,菱形平行6面体(菱面体)には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比1:1.618[=(√5+1)/2]の黄金六面体です.細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体,5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 2種類の菱面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

[4]平行多面体

 平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,3次元格子から決まる本質的なボロノイ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体(平行6面体を含む),6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(正6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかありません.

 6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致しています.これら5種類の図形は5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないのですが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられます.

[5]星形正多角形と雪型正多角形

 正多角形の辺を延長すると星形の正多角形が得られますが,そのとき,辺が一連になって一つの多角形を作る場合と2つ以上の多角形に分かれる場合があります.前者を星形正多角形,後者を雪型多角形といいます.

 正5角形からは星形(ソロモンの星)が,正6角形からは雪型(ダビデの星)が得られます.ダビデの星はイスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされています.また,ダビデはソロモン王の父ですが「ソロモンの指輪」は名著として定評があるのでご存知の方も多いと思われます.

[6]星形正多面体と雪型正多面体

 星形正多面体が4種類あることについてはすでに言及したとおりですが,一方,2つの正4面体を逆向きに抱き合わせた星形8面体「ケプラーの8角星」は,24面すべてが正三角形よりなるものの,星形正多面体には通常加えられず,正多面体からも除外されます.

 ケプラーの8角星は雪型正多面体(複合正多面体)に分類されるのですが,複合多面体とは,いくつかの多面体を中心がすべて一致するように重ね合わせたものであって,多面体が同じくらいの大きさならば,互いに交わったり,ある面が他の面を突き抜けたりします.雪型正多面体は全部で5種類あり,ケプラーの「星形8面体」は最も簡単なものとなっています.

(問)同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると,星形の外側と内側にそれぞれ6角形ができる.それでは,同じ大きさの正4面体2個を重ねた場合,その外側と内側にはどのような立体ができるだろうか?

 この問題はダビデの星の3次元版で,同じ大きさの正4面体2個による屋根瓦状の相貫体にはケプラーの8角星という名前がつけられています.最も簡単な複合多面体なので,これが頭の中でイメージできれば答は簡単ですが,勘の働きにくい問題です.

(答)正8面体を芯として,このとき,ケプラーの8角星の頂点は立方体の頂点をなすというのが正解です.

[7]複合正多面体

 同じ正多面体を中心が重なるように合わせたもので,正4面体を2つ,屋根瓦状にあわせたケプラーの「星形8面体」は最も簡単なものです.このとき,頂点は立方体の頂点をなします.残りの4つは,以下のものになります.

  正4面体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)

  正4面体を10個あわせたもの(頂点は正12面体)

  立方体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)

  正8面体を5つあわせたもの(頂点は正20面体)

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