■コクセター群のはなし

 今回のコラムでは高次元正多面体の変換群について考察しますが,αに対する鏡映をRαで表すことにします.このような鏡映Rにより生成される群がコクセター群です.イントロダクションとして次の問題を紹介することから始めたいと思います.

 コラム「超幾何関数のはなし」では,正多面体群(シュワルツの三角群)について説明するために,三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えました.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.

(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?

(答)すなわち,三角形が偶数回の反転で元に戻る場合である.これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をλπとおくと,頂点を一回りしたので,2aλπ=2π.ゆえに,

  λ=1/a   ただし,aは2以上の自然数.

 まったく,同様に残り2つの内角に対しても

  μ=1/b,ν=1/c

 また,λπ+μπ+νπ=πより

  1/a+1/b+1/c=1

 この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると

  (3,3,3) → 正三角形

  (4,4,2) → 直角二等辺三角形

  (6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形

の3種類が得られる.

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【1】ルート系

 鏡像で生ずる有限群(あるいは無限離散群)は正多面体群よりももっと広い対象になります.次の問題をみてみましょう.

(問)1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく,平面を埋めつくすことができるか?

(答)この問題も平面を鏡映三角形で埋めるというものですが,市松模様という条件がなくなっているので,1つの頂点に会する三角形は偶数に限る必要はありません.

  α=2π/p   ただし,pは3以上の自然数.

 まったく,同様に残り2つの内角に対しても

  β=2π/q,γ=2π/r

 また,α+β+γ=πより

  1/p+1/q+1/r=1/2

が成り立ちます.

 ここで,3≦p≦q≦rと仮定すると

  1/2=1/p+1/q+1/r≦3/p

より,3≦p≦6

 さらに,pが奇数のとき,頂点Aからでる2辺の長さは等しくならなければなりません.そうしないと,折り返しでうまく重ならないからです.したがって,

(i)p=3のとき,q=rなので,

  q(q−12)=0

これより,(p,q,r)=(3,12,12)

(ii)p=4のとき,(q−4)(r−4)=16

これより,(p,q,r)=(4,5,20),(4,6,12),(4,8,8)ですが,(p,q,r)=(4,5,20)は必要条件を満たすものの,十分条件を満たさない,すなわち,1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りになりません.凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものも平面充填はうまくいかないのです.

(iii)p=5のとき,q=rより,

  q(3q−20)=0

これを満たす3以上の整数はありません.

(iv)p=6のとき,(q−3)(r−3)=9

これより,(p,q,r)=(6,6,6)

 結局,求めるタイル張りは

  (6,6,6) → 正三角形

  (4,8,8) → 直角二等辺三角形

  (4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形

  (3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形

の4通りあることになり,実際に十分条件を満たします.

 30°,30°,120°の角をもつ三角形が新たに加わりました.この三角形は正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様(G2)です.「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのですが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.

 30°,60°,90°のモザイクは,30°,30°,120°の三角形からなるモザイクをさらに2個の直角三角形に分解してできる模様(G2),直角二等辺三角形モザイクは正方格子(4,4)を4分割したもの(B2=C2),正三角形は正三角形格子(3,6)そのもの(A2)です.

 ルート系では,ベクトルの間の角度は30°,45°,60°,90°またはその補角に限られるので,2次元の可能なルート系は

  A2(正六角形:正三角形格子)

  B2=C2(正方形)

  G2(星形六角形:正6角形を2個合わせたもの)

しかありません.

 以下,ルート系について説明しますが,たとえば,面心立方格子や対心立方格子などの結晶格子には,空間中の格子点の位置を表すのに単純並進ベクトルと呼ばれる3つのベクトルがあり,その長さと角度によって,それぞれの格子の構造を特徴づける係数が得られます.もちろん,3つのベクトルa↑,b↑,c↑の選び方は一義的には決まらず,いろいろな選び方があるのですが,上記の4種類の鏡映三角形からなるモザイク模様に対しても同様に,R^2のベクトルの集合を考えることができます.

(6,6,6) → Φ1={a↑,b↑,a↑+b↑}

(4,8,8) → Φ2={a↑,b↑,a↑+b↑,2a↑+b↑}

(4,6,12)→ Φ3={a↑,b↑,a↑+b↑,2a↑+b↑,3a↑+b↑,3a↑+2b↑}

(3,12,12)→Φ4={a↑,b↑,a↑+b↑,2a↑+b↑,3a↑+b↑,3a↑+2b↑}

 2つのベクトルa↑,b↑はルート系の基底,また,このようにして得られたベクトルの集合Φ1,・・・,Φ4を階数2のルート系と呼ぶのですが,平面を鏡映三角形で埋めつくす問題を一般の次元に拡張して,R^nの単体に置き換えて得られるベクトルの集合が一般の階数のルート系となります.

 たとえば,R^8の標準基底をe1,・・・,e8とすると,E8型ルート系は,

  Φ={e1−e2,・・・,e7−e8,e0−e1−e2−e3}

のように求まります.ルート系の分類は,それ自体大変面白いものなのだそうですが,既約ルート系の同型類には,AからGまでのアルファベットに,添字として階数をつけた名前(カルタンの命名による慣用的な記号)が付いていて,E8型ルート系などと呼ぶ習慣になっています.

 ルートは鏡映を与えるベクトルとして理解することができるのですが,8次元ユークリッド空間において,8次元単体(4面体の拡張)を鏡映したものからなるモザイク模様に対してベクトルの集合を考えることによって,E8型ルート系が得られるというわけです.そして,2つのベクトルの間の角θは,

  θ=30°,45°,60°,90°(またはその補角)

に限られます.これはカルタン数(2cosθ)^2が整数となる値です.

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【2】高次元の正多胞体とリー群

  (6,6,6) → 正三角形

  (4,8,8) → 直角二等辺三角形

  (4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形

  (3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形

が2次元の基本単体になるのですが,基本単体を鏡映も許しながら自分自身に重ねていく操作がルート系であり,それは,アメリカのキリングやフランスのカルタンによって成し遂げられた単純リー群の分類と関係しています.

 そして,高次元の正多面体の場合の結論を先にいうと,ユークリッド空間の有限群(正多面体)または無限離散群(空間充填形)になるのは,4つの無限系列(An,Bn,Cn,Dn)と6つの例外的な場合(G3,F4,G4,E6,E7,E8)に限られます.

 このうち,n次元の正単体群はAn,超立方体群はBnまたはCn,3次元の正二十面体群はG3,4次元の正24胞体群はF4,4次元の正600胞体群はG4と関連しています.

 以下,代表的なディンキン図形を掲げますが

  ・−・・・・・−・  (An:n≧2のとき位数2の自己同型がある)

         /

  ・−・・・・・    (Dn:n≧4のとき位数2の自己同型がある)

         \

          ・

      3

     /

  1−2    (D4:位数3の自己同型がある)

      4

      4

      |

  1−2−3−5−6  (E6:位数2の自己同型がある)

  1=2 (B2)  1≡2 (G2)  1−2=3−4 (F4)

  1≡2−3 (G3)  1≡2−3−4 (G4)

 ここで,G3,G4はG2に1個または2個の節点をつないだグラフであり,単純リー群では許されない形です(拡張されたディンキン図形).

 正24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体です.この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.たとえば,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているというわけです.

 また,正24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.

 正600胞体(3,3,5)では捩れ(3,4,3)が関係してG4をもちます.また,正120胞体の600個の頂点をうまくとると,他の4次元正多胞体(正5,8,16,24,600胞体)がすべて作れるので,その意味で正120胞体は4次元の万能正多面体です.(3次元の正十二面体はその頂点から正四面体,正六面体を作ることができますが,正八面体や正二十面体を作ることはできません.)

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[補]鏡映群

 いくつかの鏡映変換により生成される直交変換群を鏡映群という.鏡映群は数学の様々に分野で広く現れる重要な研究対象である.無限の鏡映群は基本的には直交群しかないが,有限の鏡映群は

  An(n≧1),Bn(n≧2),Dn(n≧4),E6,E7,E8,F4,H3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)

に分類される.

 下付きの指数はそれが働く空間の次元である.Anはn次元正単体の対称性の群と解釈することができる.Bnはn次元立方体(正8面体)の対称性の群であり,位数は2^nn!である.DnはBnに対応する群の指数2の部分群に対応している.H3は正20面体の対称性の群に対応し,I2(p)は正2面体群Dpに対応している.H4とF4はそれぞれ4次元の正多胞体(正24胞体,正600胞体)に対応している.

 ここにあげられた群はH3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)を除いて,すべて結晶群である.なお,線形代数はAkという特定のルート系の理論であり,ユークリッド空間やシンプレクティック空間の幾何に対応するのはBk,Ck,Dkの理論である.そこでの理論の多くは,例外型の結晶群(E6,E7,E8,F4,G2)に対してだけでなく,結晶群でないユークリッド鏡映群(I2(p),H3,H4)に対しても成り立つ.

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【3】基本単体に関する反転によって生成される群

 結論を先にいってしまいましたが,とはいっても,これには大変な手間がかかります.その理由はn(≧4)次元図形になると計算に頼らざるをえず,例外型のルート系を漏れなく調べるのが大変になるからです.以下には考え方の基本になる一般論をいささか天下り的に与えておきます.

 n次元空間の正多胞体とは「n個の超平面に囲まれ,全体の中心onから各頂点o0,各辺の中点o1,各面の中心o2,・・・,各超辺の中心on-2,各超平面の中心on-1までの距離がそれぞれ相等しく,そのm次元成分はすべてm次元の正多胞体である」と定義されます.

 このとき,onon-1・・・o1o0を結んだn次元単体を「基本単体」と呼びます.o0o1,o1o2,・・・,on-1onは互いに直交するので,n次元正多胞体の諸量を計算するための基本となっています.基本単体は万華鏡のように隣同士が互いに鏡像形で,半分ずつが互いに合同です.

 基本単体の個数gは正多胞体にとって最も大切な基本量です.基本単体は隣同士が鏡像形であり,半分ずつが互いに合同であることより,3次元正多面体の基本単体の個数は

  g=2pf=2qv=4e

すなわち,正多面体の辺の個数eの4倍と等しくなります.この基本領域は超球面上,または,ユークリッド空間内の単体になるのですが,それに応じて有限群(正多面体)か離散無限群(空間充填形)になります.

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 aを行ベクトル,xを列ベクトルとして

  a=(a1,・・・,an)

  x’=(x1,・・・,xn)

実数をcとおくと,n次元ユークリッド空間の超平面は,

  ax’=c

で表すことができます.原点を通るときc=0です.

 ベクトルaを超平面の法線ベクトルと呼びます.法線ベクトルはスカラー倍を除いて一意に定まります.aをその長さ‖a‖で割ったベクトルa/‖a‖を考えると,これは長さ1の単位法線ベクトルとなります.

 また,aが単位法線ベクトル,すなわち,

  a1^2+a2^2+・・・+an^2=1

が成り立つとき,cは原点から超平面へ引いた垂線の(符号のついた)長さとなります.

 n=1なら方程式はax=bですから,超平面は点にほかなりません.n=2ならax+by=cとなり,超平面は直線,n=3ならax+by+cz=dですから,超平面は平面を表します.3次元空間内の超平面が普通の平面だし,2次元空間内の超平面は直線ですから,n次元空間の場合,n−1次元の線形多様体を超平面というのです.

 超平面<a,x>=0に対するbの反転像をb’とすると,b−b’はaに平行であり,

  b−b’=2<b,a>/<a,a>

なる関係式が成立します.

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 2次元の正多角形はその辺数pで,3次元の正多面体は面の辺数pと各頂点に会する面の個数qをペアにしたシュレーフリ記号(p,q)で表されます.それと同様に,n次元正多胞体ではシュレーフリ記号を一般化して,n−1次元超平面(p1,p2,・・・,pn-2)が3次元低い構成要素上にpn-1個ずつ会する,

  (p1,p2,・・・,pn-2,pn-1)

で表現されます.

 たとえば,

  n次元正単体は(3,3,・・・,3,3),

  双対立方体は(3,3,・・・,3,4),

  超立方体は(4,3,・・・,3,3)

と表されます.これを逆順にした(pn-1,pn-2,・・・,p1)で表される正多胞体が双対正多胞体です.ここで,

  ck=cos(π/pk)

とおきます.

 また,n次元単位単体Δ=onon-1・・・o1o0を定め,1点から各面(超平面)までの距離を(x0,x1,・・・,xn)とします.(x0,x1,・・・,xn)は2次元の三線座標のn次元版です.

 すると,定数c0,c1,・・・,cnについて

  c0x0+c1x1+・・・+cnxn=1

が成立します.さらに,各面(超平面)の単位法線ベクトルをekとすると,n+1本のベクトル間には

  c0e0+c1e1+・・・+cnen=0   (ゼロベクトル)

なる1次関係があります.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ここで,基本行列

    [0,c1 ,0,・・・・・・・・・,0]

    [c1 ,0,c2 ,0,・・・・・・,0]

  C=[0,c2 ,0,c3 ,0,・・・・,0]

    [・・・・・・・・・・・・・・・・・・]

    [0・・・・・・・・・・・,0,cn-1 ]

    [0,・・・・・・・・・0,cn-1 ,0]

を作り,固有方程式

  Pn(λ)=det|λI−C|=0

からその固有ベクトル(1次変換によって同じ方向に写るベクトル)と固有値λ(その拡大率)を求めるのですが,これを解くとCの固有ベクトルが基本単体の超平面に関する反転列R1・・・Rnによって不変なベクトルとなります.(頂点okに対する超平面Πkに関する反転を便宜上番号をずらせてRk+1としています.)

 また,三重対角行列となることから,漸化式

  Pn+1(λ)=λPn(λ)−cn^2Pn-1(λ)

  P1(λ)=λ,P2(λ)=λ^2−c1^2

を得ることができます.

 空間充填形の固有値についてはλ=±1となるのですが,正多面体については|λ|<1で

  λ=cosξ,ξはπと有理比

と書くことができます.その際,最大固有値が重要なのですが,最大固有値をとるξ(の最小値)はペトリー数hを用いてπ/hで表されます.

  λmax=cos(π/h)

 ペトリー数とは,反転が何回でもとに戻るかという鏡像変換に関係した基本量で,基本単体の数をgとすると,3次元正多面体では

  g/h=(h+2)=24/(10−p−q)

4次元正多胞体の場合は

  g/h=64/(12−p−2q−r+4/p+q/4)

で表されます.

 基本単体の超平面に関する反転列R1・・・Rnによって全周の1/hだけ回転するのですが,nが奇数ならばこれに反転が加わり,nが偶数ならば本来の回転となります.そして(R1・・・Rn)^(h/2)は中心に対する反転となるのです.

 なお,正n角形にはn本の対称軸がありますが,正多面体の対称面の個数は?n次元の正多胞体に対称超平面は合計何枚あるのか?という問題の答は,nを次元数,hをペトリー数として

  m=nh/2

枚で与えられます.正多角形の対称軸の数m=2n/2において,分子の2は平面の次元数と解釈できます.また,3次元正多面体の対称面はm=3h/2個ですが,3は次元数です.

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【4】参考文献

 以上の説明は

  一松信「高次元の正多面体」日本評論社

を参考にしているのですが,そこには実際の計算例について述べられていて,

(1)Pn(λ)=det|λI−C|=0

の根はすべて単実根であって,根と根の間には必ずPn-1(λ)=0の根があること

(2)根は原点について対称であること

(3)n次元正単体(3,3,・・・,3,3)の固有値は

  cos(kπ/(n+1))

k=1,2,・・・,nですから,最大固有値は

  λ=cos(π/(n+1))

(4)n次元超立方体(4,3,・・・,3,3)の固有値は

  cos(kπ/2n)

k=1,3,・・・,2n−1ですから,最大固有値は

  λ=cos(π/2n)

となること

(5)(5,3,・・・,3)はn≦4に限って存在すること,すなわち,n≧5では正単体,双対立方体,超立方体以外に正多面体は存在しないこと

などが記載されています.

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