■連分数展開の応用


 縦横比が黄金比,すなわち1:(√5+1)/2=1:1.618の長方形を黄金長方形とよびます.黄金長方形から正方形を取り去ると再び小さい黄金長方形が残ります.同様にしてこの手続きは無限に続行できます.

 

  φ=(√5+1)/2

は2次方程式x^2−x−1=0の根であり,

  φ=1+1/φ

このφの値を右辺のφに入れれば

  φ=1+1/(1+1/φ)

さらに,この右辺のφに代入し,・・・ということを繰り返せば

  φ=1+1/(1+1/(1+1/(1+1/(1+1/1+・・・)

となります.

 

 すなわち,

  (1+√5)/2=[1;1,1,1,1,1,・・・]

なのですが,黄金比はユークリッドの互除法によって「1」だけを使って無限連分数に展開できる無理数であり,その意味では最も基本的で最もゆっくり収束する無理数であり,最もシンプルなフラクタル生成装置ともいえます.

 

 連分数とは,

  a1/(b1+a2/(b2+a3/(b3+a4/(b4+a5/b5+・・・)

のような分数を続けた式で,実用上は最初にa0+をつけた形が使われます.整数論で使われる連分数は普通,ak=1,bkが正の整数である標準連分数です.

 

 連分数の第n近似分数wnは

  p-1=1,p0=0,pk=akpk-2+bkpk-1

  q-1=0,p0=1,qk=akqk-2+bkqk-1   (k=1,2,・・・)

をつくると,wn=pn/qnとして計算できます.wnの値だけが必要ならば,除法は最後の1回だけで済むとうわけです.そして,標準連分数はすべて収束し,その際,近似分数列{wn}は振動しつつ,交互に上下から収束する形になります.

 

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 連分数展開によって

  (1+√5)/2=[1;1,1,1,1,1,・・・]

  √2=[1;2,2,2,2,2,・・・]

のように,1や2が無限に繰り返されるという規則性を見ることができます.

 

  √3=[1;1,2,1,2,1,2,・・・]

では交互に1,2が現れる循環連分数となります.以下,

  √5=[2;4,4,4,・・・]

  √6=[2;2,4,2,4,2,・・・]

  √7=[2;1,1,1,4,1,1,1,4,・・・]

一般に,√mの連分数展開は循環連分数となり周期性が証明されます.これは既約分数の小数展開が循環小数になることと対比するとおもしろい事実です.

 

 その際,

  √m=[q0;q1,q2,・・・,qn-1,2q0,・・・]

という周期nの連分数展開が得られます.

  √2=[1;2,・・・]

  √3=[1;1,2,・・・]

  √5=[2;4,・・・]

  √6=[2;2,4,・・・]

  √7=[2;1,1,1,4,・・・]

すなわち,どの循環節もqn=2q0=[2√m]で終わっています.

 

 たとえば,√199の展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

をみると,14で始まり28で終わるというのもこの理由によります.

 

 このように,標準無限連分数のうち,部分分母列のあるところから先が巡回的になる循環連分数は2次の無理数(整数係数の2次方程式の解として表される数)に収束します.この性質により,整数項の標準連分数はいわゆるペル方程式:x^2−my^2=d(多くは±1,±4)の解法など整数論の分野で活用されます.

 

 また,√199の循環節の最後の28を除くと13を中心として対称になっていることにも気付かされます.

  √43=[6;1,1,3,1,5,1,3,1,1,12,・・・]

  √54=[7;2,1,6,1,2,14,・・・]

  √76=[8;1,2,1,1,5,4,5,1,1,2,1,16,・・・]

  √94=[9;1,2,3,1,1,5,1,8,1,5,1,1,3,2,1,18,・・・]

  √1000=[31;1,1,1,1,1,6,2,2,15,2,2,6,1,1,1,1,1,62,・・・]

 

 循環部の最後の項を除いた部分は回文(前から読んでも後から読んでも同じ)になっているという事実も,199のみならず,2次の無理数√mに共通していえる性質です.

  √m=[q0;q1,q2,・・,q2,q1,2q0,・・・]

 

 なお,2次の無理数には循環連分数が対応しますが,連分数による実数の最良近似は解を下方と上方から近似していく方法であって,ユークリッドの互除法に直結しています.

 

 また,私はこれまで多数の数値計算プログラムを作ってきましたが,その経験からいうと,連分数展開は数値計算上ベキ級数展開(xの小さいところで精度が良い)と漸近展開(xの大きいところで精度がよい)の中間に位置するものであまり目立たないのですが,数学的には非常に重要な意味をもっています.今回のコラムでは連分数展開の話を取り上げます.

 

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【1】ζ(3)の無理数性

 

 ζ(2n)はπ^2nの有理関数になる,従って,超越数であることはオイラー以来知られていますが,奇数ベキ級数の和ζ(2n+1)についての類似の関係式は何にひとつわかっていませんでした.

 

 つい最近までζ(3)は有理数になるかもしれないと思われていたのですが,ところが,1978年に,フランスの無名の数学者アペリによってζ(3)の無理数性が示されました.それを補ったのがポールテンです.ζ(3)=1.202056・・・に収束するものの,ごく最近までこの値が無理数であることすらわかっていなかったのです.

 

 アペリはζ(3)が無理数であることを示すために,

  ζ(3)=Σ1/n^3=5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

に基づく連分数展開

  6/ζ(3)=5-1^6/(117-)2^6/(535-)n^6/(34n^3+51n^2+27n+5)-・・・

を使いました.ζ(3)が無理数ならば連分数展開は無限列となります.

 

 アペリが行ったことは,より正確には,漸化式

  (n+1)^3un+1=(34n^3+51n^2+27n+5)un-n^3un-1

を満たす2つの数列{an}{bn}を構成したことです.たとえば,

  an=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2

  a0=1,a1=5,a2=73,a4=1445,a5=33001,・・・

 

 bnに対する式も,より複雑ではありますが,同様に構成することができます.

  bn=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2c

  c=Σ1/m^3+Σ(-1)^(m-1)/2m^3(m,n)(n+m,m)  

  b0=0,b1=6,b2=351/4,b4=62531/36,b5=11424695/288,・・・

 

 この漸化式を満たす任意の数列は,

  Cα^(±n)/n^(3/2)

  (α=17+12√2=(1+√2)^4は2次方程式:x^2−34x+1=0の根)

で指数的に増加(減少)することより,直ちに

  bn/an → ζ(3)

が示されます.

 

 まったく同じ論法を用いて,ζ(2)の無理数性も示すことができます.

  ζ(2)=Σ1/n^2=3Σ1/n^2(2n,n)

  5/ζ(2)=3+1^4/(3+)2^4/(25+)n^4/(11n^2+11n+3)+・・・

  (n+1)^2un+1=(11n^2+11n+3)un+n^2un-1

  an=Σ(n,k)^2(n+k,k)

  bn=Σ(n,k)^2(n+k,k)^2c

  c=2Σ(-1)^(m-1)/m^2+Σ(-1)^(n+m-1)/m^2(m,n)(n+m,m)  

  α=(11+5√5)/2={(1+√5)/2}^5は2次方程式:x^2−11x−1=0の根(黄金比φを用いると,φ^5=3φ+2)

 

 興味深いのは,アペリの証明が最先端の研究結果を使ったものではなく,オイラーが解決していたとしても不思議はないとされるような200年前にはすでにわかっていた定理や手法のみでの証明だったことです.

 

 ζ(3)が無理数であるという証明が発表されたとき,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となったそうですが,アペリは非常に話し下手であり,参加者の多くは半信半疑というよりは懐疑的であったと伝えられています.アペリはマイナーな数学者とされていますが,今から考えると当時主流だった秀才数学者集団,ブルバキに押しつぶされた個性豊かな人物だったようです.

 

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 アペリの証明の核心は,漸化式

  (n+1)^3un+1=(34n^3+51n^2+27n+5)un-n^3un-1

を満たす数列{an}を構成したことですが,そこにはゼータ関数に帰着する無限級数(n=1~∞)

  5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)

が現れます.

 

 同様に,

  Σ1/(2n,n)={2π√3+9}/27

  Σ1/n(2n,n)=π√3/9

  3Σ1/n^2(2n,n)=ζ(2)

  12Σ(2-√3)^n/n^2(2n,n)=ζ(2)

  5/2Σ(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)=ζ(3)

などが知られています.

 

 さらに,ポールテンの問題

  36/17Σ1/n^4(2n,n)=ζ(4)=π^4/90

より,ζ(2),ζ(3),ζ(4),・・・がΣ1/n^k(2n,n)あるいはΣ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)の簡単な有理数倍になっていると予想するのは当然の成りゆきでしょう.

  ζ(k)=R*Σ1/n^k(2n,n),ζ(k)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^k(2n,n)

 

 このことから,

  ζ(5)=R*Σ(-1)^(n-1)/n^5(2n,n)

と予想されますが,

  ζ(5)=5/2*Σ(1/1^2+1/2^2+・・・+1/(n-1)^2-4/5n^2)(-1)^(n-1)/n^3(2n,n)

となって,予想に反して,Rはたとえ有理数であったにしても,簡単なものにはならないらしいということです.

 

 ζ(3)は無理数であることしかわかっておらず,いまだζ(3)が超越数であるかどうかは知られていませんし,ζ(5),ζ(7),・・・が有理数なのか無理数なのかもわかっていません.アペリの方法はζ(5),ζ(7),・・・の場合の拡張されるに至っていないのです.

 

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【2】ペル方程式の解法

 

 mを平方数でない自然数とすると,いわゆるペル方程式とは

  x^2−my^2=±1

で表されるものです.

 

 ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.たとえば,

  x^2−199y^2=±1

の解を求めようと思ってもなかなか見つかりません.それもそのはずで,この最小解は

  (16266196520,1153080099)

のようにとても大きなものになってしまいます.これではいくら式を眺めたところでわからないのは無理もありません.

 

 この解を合理的に出すには,後述するように√199の連分数展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

を用います.9〜28は循環節(周期20)です.

 

 このペル方程式は,実2次体Q(√199)と関係しているのですが,x^2−m=0の根√mを添加して得られる体Q(√m)の元は一意的に

  a+b√m

の形で表されます.そして,一般に0,1以外の平方因数をもたない整数m,

  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・

によって,Q(√m)は体になります.

 

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[1]基本単数

 

 まず最初に,実2次体Q(√m)の基本単数について説明することから始めたいと思います.Q(√m)を2次体とするとき,a+b√mの共役をa−b√mで表します(m<0ならば通常の複素共役である).このとき,その標準底は

  ω=√m         m=2,3(mod4)

  ω=(1+√m)/2   m=1(mod4)

で与えられます.

 

 そして,単位元「1」の約数を単数といいます.m>0のとき,単数群は

  {±1}×C(Cは乗法的巡回群)

によって与えられます.また,εをε>1なる最小の単数とするとき,

  C={±ε^n}

と表すことができ,εをQ(√m)の基本単数といいます.

 

 実2次体の基本単数は一意に定まります.Q(√m)を実2次体とすると,

 

[a]m=2,3(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=a+b√m

とすると

  ε~=a−b√m

εが単数←→εε~=a^2−mb^2=±1

 

また,

  ε^n=an+bn√m

と書くと

  ε^(n+1)=ε・ε^n=(a+b√m)(an+bn√m)

      =aan+bbnm+(abn+ban)√m

 

 これより

  an+1=aan+bbnm

  bn+1=abn+ban

 

 このことから0<a1<a2<・・・,0<b1<b2<・・・となるのですが,より,a,bはペル方程式:

  a^2−mb^2=±1

の解の中で(a,b)が最小なものとして与えられます.ペル方程式の自明な解(a=±1,b=0)には単数±1が,自明でない解のなかで絶対値|a|または|b|が最小なものには基本単数が対応するというわけです.

 

 Q(√2),Q(√3),Q(√6),Q(√7)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−2y^2=±1,複号は−1で(1,1)が最小→ε=1+√2

  x^2−3y^2=±1,複号は+1で(2,1)が最小→ε=2+√3

  x^2−6y^2=±1,複号は+1で(5,2)が最小→ε=5+2√6

  x^2−7y^2=±1,複号は+1で(8,3)が最小→ε=8+3√7

 

[b]m=1(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=(a+b√m)/2   a=b(mod2)

と書けば

  a^2−mb^2=±4

となること以外は前と同様です.

 

 Q(√5),Q(√13)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−5y^2=±4,複号は−4で(1,1)が最小→ε=(1+√5)/2

  x^2−13y^2=±4,複号は−4で(3,1)が最小→ε=(3+√13)/2

 

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 Q(√2)ではε=1+√2が基本単数ですが,その他の解は

  (1+√2)^n=an+bn√2

とおいて

  n=1:1^2−2・1^2=−1

  n=2:3^2−2・2^2=+1

  n=3:7^2−2・5^2=−1

  n=4:17^2−2・12^2=+1

  n=5:41^2−2・29^2=−1

  n=6:99^2−2・70^2=+1

  n=7:239^2−2・169^2=−1

  n=8:577^2−2・408^2=+1

  n=9:1393^2−2・985^2=−1

  n=10:3363^2−2・2378^2=+1

一般に,

  an^2−2bn^2=(−1)^n

となります.

 

 Q(√3)ではε=2+√3が基本単数で,

  n=1:2^2−3・1^2=+1

  n=2:7^2−3・4^2=+1

  n=3:26^2−3・15^2=+1

  n=4:97^2−3・56^2=+1

  n=5:362^2−3・209^2=+1

  n=6:1351^2−3・780^2=+1

  n=7:5042^2−3・2911^2=+1

  n=8:18817^2−3・10864^2=+1

  n=9:70226^2−3・40545^2=+1

  n=10:262087^2−3・151316^2=+1

一般に,an^2−2bn^2=1でan^2−2bn^2=−1となる解は存在しません.

 

 この2つの例からわかるように,基本単数εのノルムが−1のときには

  x^2−my^2=+1

  x^2−my^2=−1

はどちらも無数の解をもちますが,εのノルムが+1のときには解はすべて前者の解であって,後者は解をもちません.

 

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 以下,実2次体Q(√m)の基本単数εを掲げますが

m  ペル方程式の最小解        ε           ノルム

2  1^2−2・1^2=−1       1+√2         −1

3  2^2−3・1^2=+1       2+√3         +1

5  1^2−5・1^2=−4       (1+√5)/2     −1

6  5^2−6・2^2=+1       5+2√6        +1

7  8^2−7・3^2=+1       8+3√7        +1

10  3^2−10・1^2=−1      3+√10        −1

11  10^2−11・3^2=+1     10+3√11      +1

13  3^2−13・1^2=−4      (3+√13)/2    −1

14  15^2−15・4^2=+1     15+4√14      +1

15  4^2−15・1^2=+1      4+√15        +1

17  8^2−17・2^2=−4      4+√17        −1

19  170^2−19・39^2=+1   170+39√19    +1

21  5^2−21・1^2=+4      (5+√17)/2    +1

22  197^2−22・42^2=+1   197+42√22    +1

23  24^2−23・5^2=+1     24+5√23      +1

26  5^2−26・1^2=−1      5+√26        −1

29  5^2−29・1^2=−4      (5+√29)/2    −1

30  11^2−30・2^2=+1     11+2√30      +1

31  1520^2−31・273^2=+1 1520+273√31  +1

 

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[2]連分数

 

 mが小さいときは比較的簡単に求まりましたが,ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.Q(√199)を考えてみると,199=3(mod4)の素数ですが,

  x^2−199y^2=±1

の最小解は

  (16266196520,1153080099)

にもなってしまいます.

 

 この解を求めるには√199の連分数展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

を用います.9〜28は循環節(周期20)です.

 

 冒頭で述べたことを標準連分数の場合に書き換えますと,

  α=[q1,・・・,qn]=Pn/Qn

  P0=1,P1=q1,Pn=qnPn-1+Pn-2

  Q0=0,Q1=1 ,Qn=qnQn-1+Qn-2   (n=2,3,・・・)

  PnQn-1−Pn-1Qn=(−1)^n   (n=1,2,・・・)

  PnQn-2−Pn-2Qn=(−1)^n-1qn   (n=2,3,・・・)

が成り立ちます.

 

 また,

  α=[q1,・・・,qn-1,qn,qn+1,・・・]

の部分列[qn,qn+1,・・・]に対して

  αn=[qn,qn+1,・・・]

なる実数αnを定めると

  α=[q1,・・・,qn-1,αn]

   =(αnPn-1+Pn-2)/(αnQn-1+Qn-2)

が証明されます.

 

 これに循環連分数になるという性質が加わって,ペル方程式の解が得られるのですが,

  √m=[q1,q2,・・・,qn,2q1]   (周期n)

  αn+1=[2q1,q2,・・・]=√m+q1

より

  √m=((√m+q1)Pn+Pn-1)/((√m+q1)Qn+Qn-1)

 

 ここで,

  PnQn-1−Pn-1Qn=(−1)^n   (n=1,2,・・・)

より,

  Pn^2−mQn^2=(−1)^n

となり,ペル方程式の解(Pn,Qn)が得られます.

 

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

では,q1=14,q2=9,q3=2,・・・,n=20ですから

                       

     1                   0

     14                  1

     127                 9

     268                 19

     396                 28

     1058                75

     2511                178

     13613               965

     56963               4038

     70576               5003

10     127593              9041

11     1728583             122536

12     1856122             131577

13     3584705             254113

14     16194942            1148029

15     84559415            5994258

16     185313772           13136545

17     455186959           32267348

18     640500731           45403893

19     1736188421          123075134

20     16266196520         1153080099

となって,

  (16266196520,1153080099)

が得られました.

 

 ペル方程式は√mの連分数展開を用いると非常には求められるのですが,最小解がmと較べて非常に大きい例としては

m        ε                       ノルム

46   24335+3588√46                 +1

94   2143295+221064√94             +1

151  1728148040+140634693√151      +1

193  1764132+126985√193            −1

409  111921796968+5534176685√409   −1

526  84056091546952933775+3665019757324295532√526                     +1

などが知られているようです.

 

 なお,ペル方程式は,

  x^2−my^2=d(多くは±1,±4)

を扱うものでしたが,

  x^2±my^2=p

を扱うのが類体論です.これについてはコラム「奇数ゼータと杉岡の公式(その13)」をご参照下さい.

 

  [参]小野孝「数論序説」裳華房

 

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[補]eとπの連分数展開

 

 超越数eの連分数展開は,

  e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,1,1,8,1,1,10,1,1,12,1,1,14,1,1,16,・・・]

と書け,数字の出方が自然数順になっていることがわかります.すなわち,2次の無理数のように規則的になっているわけですが,eのように超幾何関数の特殊値は3次の無理数よりも,2次の無理数に近いということなのでしょうか?

 

 eもπも超越数ですが,しかし,πの連分数展開

  π=[3;7,15,1,292,1,1,1,2,1,3,1,14,2,1,1,2,2,2,2,1,84,2,1,1,15,3,13,1,4,2,6,6,99,1,2,2,6,3,5,1,1,6,・・・]

にはなんの規則性も見あたらないようにみえます.πに現れる数字0〜9については,重複対数の法則と呼ばれるランダムウォークに基づく非常に厳しいランダムネス検定にも十分合格することが確かめられています.πには少なくとも何進法かの表現の下でなにか隠された未発見の規則性があるに違いないと信じている人もいますが,現在のところ,πは最も複雑な数なのです.

 

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[補]虚2次体Q(√d)の単数

 

 d<0のとき,

  d=−1 → 4個の単数

  d=−3 → 6個の単数

なのですが,

  d≠−1,−3 → 2個の単数{±1}

となります.

 

 すなわち,Q(√d)の場合,

(1)d>0ならば{±1}

(2)d<0のとき

 a)d=−1ならば{±1,±i}

 b)d=−3ならば{±1,±ρ,±ρ^2}

 c)d≠−1,−3ならば{±1}

 

(証明)

(1)d>0ならばα^n=1なるαは±1しかない.

(2)d<0のとき

  α^2−(α+α~)α+αα~=0

という関係を満足し,|α|=1だから,x^2+bx+1=0(bは整数)の根

  α=(−b+√(b^2−4))/2

になる.

 

 b^2=4はα=±1を与えるからb^2≠4とする.また,b^2−4=c^2と平方数になる場合は(b+c)(b−c)=4より,

  b+c=4,b−c=1

これは明らかに不可能.したがって,d<0よりb^2−4<0でなければならない.

 

 よって,b=0またはb=1またはb=−1の可能性がある.

  b=0→{±i}

  b=1→{±ρ}

  b=−1→{±ρ^2}

 

 なお,円分体

  Q(ζ),ζ=exp(2πi/d)

の単数は

  {±1,±ζ,±ζ^2,・・・,±ζ^(d-1)}

の2d個の元からなります.

 

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[補]ガウスの整数

 

 a,bを整数として

  a+bi

で表される複素数が「ガウスの整数」です.すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,

  ±1,±i

の4個の単数があります.

 

 素数は複素数体でも定義されますが,数論の教えるところによると,複素数体においても,単数を除いて,素因数分解の一意性が成立します.4k+3型素数はやはりガウス素数ですが,2および4k+1型素数はガウス素数の積に分解されるのです.

  2=(1+i)(1−i)=i(1−i)^2

  5=(1+2i)(1−2i)

  29=(5+2i)(5−2i)

 

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[補]アイゼンスタインの整数

 

 アイゼンスタインの整数は

  a+bω

と書くことができます.ここで,ωは1の虚立方根で,x^2+x+1=0の根です.それに対して,ガウス整数にはx^2+1=0が対応しています.

 

 アイゼンスタインの整数には,6つの単数

  ±1,±ω,±ω^2

があり,正六角形の対称性をもちます.

 

 ここにもやはり素因数分解の一意性が成立します.2および6k+5型素数はアイゼンスタイン素数ですが,3および6k+1型素数はアイゼンスタイン素数の積に分解されます.

  3=(1−ω)(1−ω^2)=(1+ω)(1−ω)^2=(1−ω)(2+ω)

  37=(4−3ω)(4−3ω^2)=(4−3ω)(7+3ω)

 

 −1の平方根は1の虚4乗根ですから,ガウス整数は円の4分体の中の整数環Z(i),アイゼンスタイン整数は円の3分体の中の整数環Z(ω)と考えることができるでしょう.

 

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[補]フルヴィッツの整数

 

 ハミルトンの四元数

  H=a+bi+cj+dk

において,a,b,c,dを整数に限った「四元整数」は4次元単純立方格子と同一視することができます.

 

 ハミルトンの四元整数環は乗法の交換法則が成り立たない非可換環ですが,4次元空間内の原点を中心とする半径√nの3次元球面上には必ず格子点があることを主張しているのが「ラグランジュの定理」であることは,このコラムでもこれまで何回か説明したとおりです.

 

 四元整数に

  (1+i+j+k)/2

を追加した数の体系を「フルヴィッツの整数」と呼びます.フルヴィッツの整数全体は整数座標点と半整数座標点からなりますので,4次元体心立方格子であるというわけです.

 

 なお,

  (1+i+j+k)/2

は1の原始6乗根であり,

  ζ=ζ++++=(1+i+j+k)/2

とおくと,

  ζ^2=ζ-+++,ζ^3=−1,ζ^4=ζ----,ζ^5=ζ+---,ζ^6=1

となります.

 

 単数すなわち1の約数は,

  ±1,±i,±j,±k   8個

  ζ±±±±のあらゆる符号の組合せをとった16個

の計24個あります.

 

 この24個は4次元空間で正24胞体をなしています.正24胞体に相当する3次元正多面体はありません.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからです.実は24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものなのです.

 

 この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.n次元空間において高度の対称性をもったベクトルの集合がルート系なのですが,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されます.それに対して,24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.

 

 2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.

 

 なお,正24胞体による空間充填は4次元独特の充填形です.正24胞体の頂点は正8胞体と正16胞体の頂点をなしますから,正24胞体は3次元の菱形12面体に対応するものであって,正24胞体による4次元空間充填形は4次元版の菱形12面体による空間充填形に相当します.すなわち,それは4次元の面心立方格子といってよいものであって,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているのですが,4次元の最密正則胞体充填構造D4は正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています.

 

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