■ディリクレ積分とセルバーグ積分

 ベータ関数(オイラーの第1種積分)は,

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt t=0~1

によって定義されます.ここで積分変数をtからu=(1-t)/tによってuに変えると,

  B(a,b)=∫(0,∞)u^(a-1)/(1+u)^(a+b)du u=0~∞

が得られます.

 ベータ関数とガンマ関数との間には

  B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)

の関係がありますから,ベータ関数はガンマ関数の兄弟分にあたります.

  Γ(1/2)=√π

を得るにはベータ関数が用いられます.この関数においてt=sin^2θとおくと

  dt=2sinθcosθdθ

ですから

  B(a,b)=∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(b-1)dt

   =2∫(0,π/2)sin^(2a-1)θcos^(2b-1)θdθ

 ここで,a=1/2,b=1/2とすると

  B(1/2,1/2)=2∫(0,π/2)dθ=π

  Γ^2(1/2)/Γ(1)=π

においてΓ(1)=1であり,

  Γ(1/2)=√π

となります.

 ベータ関数を一般化すると,

  ∫(a,b)(x-a)^m(b-x)^ndx=m!n!/(m+n+1)!(b-a)^(m+n+1)

が得られますが,これらは受験参考書に必ず書いてある

  ∫(a,b)(x-a)(x-b)dx=-1/6(b-a)^3

  ∫(a,b)(x-a)(x-b)^2dx=1/12(b-a)^4

という公式の一般化になっています.

 ベータ関数の一般化というと,超幾何関数のオイラー型積分表示

  2F1(a,b,c,x)=Γ(c)/Γ(a)Γ(c-a)∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(c-a-1)(1-xt)^(-b)dt

も思いつくところです.この積分表示は(1-xt)^(-b)のテイラー展開

  (1-xt)^(-b)=Σ(-b,n)(-xt)^n=Σ(b,n)/n!(xt)^n

  (b,n)=Γ(b+n)/Γ(b)

  B(a,b)=Γ(a)Γ(b)/Γ(a+b)

を組み合わせることで示されます.

 ガウス型超幾何関数

  2F1(a,b,c,x)=Γ(c)/Γ(a)Γ(c-a)∫(0,1)t^(a-1)(1-t)^(c-a-1)(1-xt)^(-b)dt

は一変数関数ですが,今回のコラムでは超幾何関数ではなく,ベータ関数の多次元化・多変量化(別の方向への一般化)について考えることにします.

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【1】ベータ分布

 ベータ関数は非負ですから,積分すると1になるように規格化するとベータ分布が得られます.ベータ分布はその定義域が0と1の間にある確率現象のモデルとして使われますが,その標準型は次のような確率密度関数になります.

  f(x)=x^(α-1)(1-x)^(β-1)/B(α,β) 0<x<1

   mean=a/(a+b)

   variance=ab/(a+b+1)/(a+b)^2

   mode=(a-1)/(a+b-2)

 2つの形状母数α,βを含み,これらの値により密度関数は単峰形,J字型,U字型など種々の形状をとることができます.たとえば,両母数がともに1より大きければ単峰形となり,α<βのとき右の方へゆがみ,α>βのとき左の方へゆがみ,母数を入れかえることによって鏡像が得られます.β=1のときがべき乗分布でJ字型分布,α=β=1/2のときが逆正弦分布で,U字型の形状をとります.また,α=β=1のとき一様分布になります.

 任意の範囲(a<x<b)にベータ分布を拡張させるには

  y=(x−a)/(b−a)

とおいて変数変換します(0<y<1).試験成績のように(0,100)の間に分布するデータでは,a=0,b=100とおいて変数変換ののちベータ分布をあてはめます.

 変数xの変域が両側から制限されているのですが,形はかなりフレキシブルに変化するという特徴を利用して多方面に応用されています.たとえば,試験の得点は正規分布になると考えられているようです(正規分布神話)が,試験成績のように上限・下限が存在してしかも対称形になるとは限らないデータではむしろベータ分布などを適用すべきとする意見もあり,実際,共通1次試験の点数分布にはベータ分布が一番よくあてはまるといわれています.右にゆがんだ分布も表現できる分布なのです.

 ベータ分布Beta(α,β)は,xとyが独立でそれぞれガンマ分布Gamma(λ,α),Gamma(λ,β)に従うとき,x /(x+y)の分布として求められます.自由度mのカイ2乗分布は,自由度m/2のガンマ分布ですから,2つの確率変数が独立に,それぞれ自由度m,nのカイ2乗分布にしたがうとき,x /(x+y)の分布はBeta(m/2,n/2)となります.

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 球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,

  Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)

で与えられます.また,単位超球の表面積Sn-1はnVnとなります.

 ベータ分布はn次元球面上で一様に分布する点の配置に密接な関係があります.x=(x1,x2,・・・,xn)を単位球面Sn-1上で一様分布する点とすると,

「確率変数

  y=x1^2+x2^2+・・・+xk^2 0<k<n

はベータ分布Beta(k/2,(n-k)/2)に従う」

ことを証明してみましょう.

(証明)

 z1,z2,・・・,znを標準正規分布にしたがうn個の独立な確率変数とします.すなわち,ziの密度関数はいずれも

  (2π)^(-1/2)exp(-z^2/2)

z=(z1,z2,・・・,zn)の密度関数は

  (2π)^(-n/2)exp(-(z1^2+z2^2+・・・+zn^2)/2)

 この密度の大きさは原点からの距離だけで決まり,方向には無関係ですから,xi=zi/|z|とおくとx=(x1,x2,・・・,xn)は単位球面上で一様分布する点となります.このとき,

  x1^2+x2^2+・・・+xk^2=(z1^2+z2^2+・・・+zk^2)/(z1^2+z2^2+・・・+zk^2+zk+1^2+・・・+zn^2)

z1^2+z2^2+・・・+zk^2は自由度kのカイ2乗分布,zk+1^2+・・・+zn^2は自由度n−kのカイ2乗分布にしたがいますから,x1^2+x2^2+・・・+xk^2の分布はベータ分布Beta(k/2,(n-k)/2)となります.

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【2】ベータ分布の応用

(1)正弦波の確率分布

 逆正弦分布の確率密度関数は

  f(x)=1/π・{x(1-x)}^(1/2)

となりますが,n=2,k=1すなわち円周上に一様分布する点,正弦波の確率分布に関係して出現します.

 たとえば,正弦波がx=asinθで与えられ,θが−π/2≦θ≦π/2の範囲の一様分布に従うとき,xは1つの連続確率変数と考えることができます.そして,xの確率密度関数はp(θ)=1/2πより,

  f(x)dx=2p(θ)dθ=1/π・{a^2-x^2}^(1/2)

を得ることができます.この分布は逆正弦分布の確率密度関数を位置=尺度変換したものとなっています.

(2)ランダムウォークの確率分布

 コインを投げて表がでれば右へε,裏がでれば左へε進む人のモデルを考える.n回の試行ののち,その人がx=kεのところにいる確率は,nを十分大にすると,2項分布の正規近似により,分散σ^2=nε^2の正規分布(0,nε^2)に近づきます.

 それでは,彷徨の仕方はどうなるでしょうか? 右,左へ進む確率はそれぞれ1/2ですから,原点の近くをウロウロし,右,左の領域に半分ずつ存在したと予測するのが常識的ですが,この常識は破られます.実際にはどちらか片方にばかりにいる確率が大なのです.

 結論を先にいうと,この人が原点より右にいる時間をx(左にいる時間を1−x)とするとその確率密度は

  f(x)=1/π・{x(1-x)}^(1/2)

であり,対応する累積分布関数は

  F(x)=2/πarcsin(√x)

となります.

 この分布の平均は1/2ですが,そこはU字型分布の谷底であり,一番確率が小さいところになっています.つまり,右,左の領域に半分ずついるのは,もっとも起こりそうにない事象なのです.この分布はxが0または1に近いほど確率が高く0,1で発散する,ということは常にどちらか片側の領域にいることとよく符合しています.

 ベータ分布は2次元のブラウン運動の滞在確率に関係して現れますが,逆正弦分布はベータ分布の特別な場合であり,1次元ブラウン運動の滞在確率に関係しています.そしてその滞在確率の式中にarcsinが現れることから,「1次元ブラウン運動の逆正弦則」という名で呼ばれます.

 ランダムウォークのような非確定データは,統計的に取り扱われなければなりませんが,このように,ベータ分布は対称ランダムウォークなどマルコフ過程の解析に応用されています.

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【3】ディリクレ分布(多変量ベータ分布)

 ベータ関数を多変数化すると,ディリクレの積分公式

  ∫x1^(p1-1)・・・xm^(pm-1)(1−x1−・・・−xm)^(q-1)dx1・・・dxm

 =Γ(p1)・・・Γ(pm)Γ(q)/Γ(p1+・・・+pm+q)

が得られます.

 →[参]高木貞治「解析概論」岩波書店,p359

 コラム「定数項予想入門」において,ディクソンの恒等式の拡張が

  Σ(-1)^j(a+b,a+j)(b+c,b+j)(c+a,c+j)=(a+b+c)!/a!b!c!

であることから,ダイソンは

  Π(1−xk/xj)^aiの定数項=(a1+a2+・・・+an)!/a1!a2!・・・an!

なる予想(ダイソンの定数項予想)にたどりついたことを解説しましたが,

  n!=Γ(n+1)

より,これとよく似た形で表されることがおわかりいただけるでしょう.

 積分すると1になるように規格化したものがディリクレ分布で,x1,x2,・・・xm-1,xmが独立でそれぞれ自由度2θiのカイ2乗分布にしたがうとして,

  xm=1−Σxi,yi=xi/Σxi

とおくと(y1,・・・,ym-1)の同時確率密度関数は

  f(y1,・・・,ym-1)=Γ(Σθi)/ΠΓ(θi)・Πyi^(θi-1)

 このm−1次元分布をディリクレ分布と呼びます.m=2のときがベータ分布であって,ベータ分布の多次元化とみなすことができます.また,ディリクレ分布の周辺分布はベータ分布になります.

[注]正弦積分とは,

  Si(x)=∫(0,t)sint/tdt

       =x−x^3/3・3!+x^5/5・5!−・・・

として定義される特殊関数(初等関数によって表し得ない関数)である.また,その特殊値

  Si(∞)=∫(0,∞)sint/tdt=π/2

もしばしばディリクレ積分と呼ばれる.

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【4】ミンコフスキーの数の幾何学(ディリクレ積分の応用)

 ミンコフスキーはアインシュタインの先生として有名で,相対論における基本概念はミンコフスキーにその起源をたどることができます.彼は数論家として出発しましたが,研究を進めるにしたがって次第に幾何学に興味を惹かれるようになり,幾何学的方法を用いて数論を研究する「数の幾何学」と呼ばれる新しい数学分野を打ち立てました.

 格子点定理が数の幾何学の基礎となっているのですが,格子点定理は次のように述べることができます.

 「平面(n次元空間)上の任意の単位格子において,1つの格子点を中心として1辺の長さが2の正方形(面積4の平行四辺形,面積2^nの中心対称な凸体)を任意の向きにおいてみると,内部あるいは境界上にもうひとつの格子点が必ず存在する.」

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 n本のベクトルで張られる平行2n面体の体積について述べておきます.写像:y=Axによって,単位直方体は平行2n面体に写像されるものとすると,この写像のヤコビアンはJ=|A|となります.また,グラミアン

  G=|A|^2

が成立しますから,平行2n面体のn次元体積は

  |G|^(1/2)=|A|

で与えられます.

 したがって,ミンコフスキーの定理から,

  (中心対称凸体の体積)>2^n|A|

ならば,内部あるいは境界上に格子点が必ず存在することになります.

 一般に,R^s×C^tにおいて,直方体領域

  B={|x1|≦c1,・・・,|xs|≦cs,|xs+1|^2≦cs+1,・・・,|xs+t|^2≦cs+t}

の体積は

  vol(B)=∫(-c1,c1)dx1・・・∫∫(u^2+v^2≦cs+1)dudv・・・

        =(2c1)・・・(πcs+1)・・・=2^sπ^tΠci

 また,正八面体領域

  B={|x1|+・・・+|xs|+2|xs+1|+・・・2|xs+t|≦ρ}

の体積は,n=s+2t,xs+j=rjexp(iθj)とおくと,

  dudv=rdrdθ

ですから,

  vol(B)=∫(B)dx1・・・r1dr1dθ1・・・

        =2^s(2π)^t∫r1・・・rtdx1・・・dx2dr1・・・drt

 ここで,ディリクレの積分公式

  ∫x1^(p1-1)・・・xm^(pm-1)(1−x1−・・・−xm)^(q-1)dx1・・・dxm

 =Γ(p1)・・・Γ(pm)Γ(q)/Γ(p1+・・・+pm+q)

より,

  vol(B)=2^s(π/2)^tρ^n/n!

と計算されます.

 ここでは一般的な形で与えましたが,たとえば,3次元空間において座標面と平面x+y+z=1とで囲まれた四面体Kを積分区域とすると

  S=∫∫∫(K)x^(p-1)y^(q-1)z^(r-1)(1−x−y−z)^(s-1)dxdydz

   =Γ(p)Γ(q)Γ(r)Γ(s)/Γ(p+q+r+s)

になるというわけです.

 そして,この格子点定理をn次の代数体に応用すると,ミンコフスキーの定数

  M=(4/π)^rn!/n^n√|D|

が得られます.

 Mは領域Bに含まれる格子点の個数を与えてくれる定数なのですが,これより,2次体のミンコフスキーの定数は,D>0(実2次体)の場合,n=2,r=0とおいて

  M=1/2√D

D<0(虚2次体)の場合,n=2,r=n/2とおいて

  M=2/π√-D

によって与えられます.

 この定理は非常に単純であるにもかかわらず,他の方法では解決することのできなかった数論における多くの問題を解明したのですが,格子点定理を用いると,初等的な定理,たとえば,

  「4k+1の形の素数はx^2^+y^2の形に書ける」

  「6k+1の形の素数はx^2^+3y^2の形に書ける」

  「8k+1の形の素数はx^2^+2y^2の形に書ける」

なども証明することができます.2次形式の理論が発展していく段階では,ミンコフスキーが非常に大きな貢献をしていて,格子点の幾何学はミンコフスキーの「数の幾何学」に端を発するのです.

[補]ミンコフスキーの公式(1905年)をハール測度という位相群上で定義された測度でもって,1種の体積計算に持ち込むと

  vol(SL(n,R)/SL(n,Z))=Πζ(k)  (k=2~n)

で表される.

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【5】セルバーグ積分

 ベータ関数の多重積分版として,セルバーグは次の積分公式を得ました.

  ∫(0,1)・・・∫(0,1)Πti^(x-1)(1−ti)^(y-1)Π|ti−tj|^(2z)dt1・・・dtn

  =ΠΓ(x+(j-1)z)Γ(y+(j-1)z)Γ(jz+1)/Γ(x+y+(n+j-2)z)Γ(z+1)

 左辺にある

  Δn(t)=Π(ti−tj)

は差積ですから,電子の励起状態や原子核のエネルギー準位に関連していることが想像されます.

 差積はファンデルモンド行列式に等しく,

  Δn(t)^(2k)=Π|ti−tj|^(2k)=Σc(α1,・・・,αn)t1^α1・・・tn^αn

のようにtについての対称式に展開することができます.ここで,c(α)=c(α1,・・・,αn)は整数です.

 また,左辺の

  ∫(0,1)ti^(x-1)(1−ti)^(y-1)dti=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y)

はベータ関数であり,これより

  S=Σc(α1,・・・,αn)ΠΓ(x+αj)Γ(y)/Γ(x+y+αj)

   =c(z)ΠΓ(x+(j-1)z)Γ(y+(j-1)z)/Γ(x+y+(n+j-2)z)

 積分Sの被積分関数がt1,・・・,tnについて対称であることから,n次元超立方体[0,1]^nをn!個の単体に分割して

  S=n!∫(0,1)∫(tn,1)∫(tn-1,1)・・・∫(t2,1)Δn(t)^(2k)Πti^(x-1)(1−ti)^(y-1)dt1・・・dtn

 これらの結果を併わせると

  c(z)=Γ(jz+1)/Γ(z+1)

となり,セルバーグの積分公式が証明されます.

 →[参]三町勝久「ダイソンからマクドナルドまで」群論の進化・第4章,朝倉書店

 コラム「階乗や2項係数を含む級数の量子化」で与えたq-ガンマ関数:

  Γq(x)=(q;q)∞/(q^x;q)∞(1-q)^(1-x)

を用いると,セルバーグ積分のqアナログは

  S=q^(k(n,2)+2k^2(n,3))ΠΓq(x+(j-1)z)Γq(y+(j-1)z)Γq(jz+1)/Γq(x+y+(n+j-2)z)Γq(z+1)

となるのですが,この公式(qーセルバーグ関数)は超弦理論や共形場理論における相関係数の研究において現れることが知られています.

 セルバーグ積分は久しく忘れられていたのですが,近年になってにわかに注目されるようになりました.1つにはランダム行列の分配関数の明示的公式を与えること,1つには2次元共形場理論における頂点作用素の表示を与えるのに有効なこと,また1つにはA型帯球関数である直交多項式に深いつながりがあることがわかってきたからだそうです.セルバーグ積分の応用については,これから先はよくわからないのでやめておきます.生兵法はけがのもと・・・.

[補]q-2項級数は

  (az;q)∞/(z;q)∞=Σ(a;q)m/(q;q)m・z^m

ガンマ関数(階乗の一般化),ガウスの超幾何関数(2項級数の一般化)のqアナログも同様に与えることができて,

  q-ガンマ関数:Γq(x)=(q;q)∞/(q^x;q)∞(1-q)^(1-x)

  q-超幾何関数:2φ1(a,b,c:q,x)=Σ(a;q)m(b;q)n/(c;q)m(q;q)m・x^m

と定義される.

 q-超幾何関数はハイネの超幾何関数2φ1とも呼称される.ガウスの超幾何関数2F1は超幾何微分方程式

  x(1-x)d^2y/dx^2+{γ-(α+β+1)x}dy/dx-αβy=0

を満たすが,q-超幾何関数2φ1は類似の2階差分方程式をみたす.

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【6】追記

 ベータ関数の話で思い出したのだが,高校時代にやった数学の問題で円周上に一様に分布する点に関するものがある.

(1)x軸をn等分した点における半円y=√(1-x^2)の高さの平均値を求める.つぎに半円上のn等分点からx軸に垂線を下ろし,垂線の長さの平均を求める.n→∞としたときの両者の大きさを比較せよ.

 前者の値の方が大きくなることが直観され,前者ではx軸の区間2,後者では半周πで半円の面積π/2を割って,それぞれπ/4,1/2であると予想した.しかし,短冊の幅が一定であろうとなかろうと短冊の面積の和はΣ(高さ)×(幅)であり,それはn→∞のときリーマン積分に移行するから,ひょっとすると両者は等しいのではないか・・・小生の予想は,はたして正しいであろうか?

 前者では,

  x0=−1,xn=1,(xn−x0)/n=h,xj=x0+jh

とおくと,高さの平均は

  H=1/n・Σ(1−xj^2)^(1/2)

   =1/2・Σ(1−(x0+jh)^2)^(1/2)・2/n

   =1/2・Σ(高さ)×(幅)

 n→∞のとき,区分求積法より

  H→1/2・∫(-1,1)√(1-x^2)dx=1/2・∫(0,π)sin^2θdθ=π/4

となり,予想と完全に一致した.

 後者では

  θ0=0,θn=π,(θn−θ0)/n=h,θj=θ0+jh

垂線の長さの平均は

  H=1/n・Σsinθj

   =1/π・Σsin(θ0+jh)・π/n

n→∞のとき,

  H→1/π・∫(0,π)sinθdθ=2/π

前者よりは小さい値になったものの,予想した答とは異なるものになった.

 最後に,頭の中に残っている高校化学の問題をもうひとつ掲げておきたい.アボガドロ数6×10^23に関する良問である.

(2)牛乳瓶に入った水を海に投げ入れる.海洋全体に一様に拡散したのち,牛乳瓶1本分の水を回収すると,最初に投入した水の分子のうち,どれくらいが回収されるか?

 小生は限りなく0に近いと予想したのだが,牛乳瓶1本の水は10モル=6×10^24個の水分子を含んでいて,海洋全体の水量をもとに計算すると770個も回収されるというのが正解である.アボガドロ数6×10^23がいかに大きいものかが実感される.

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