■4次元正多面体の怪(その3)

 コラム「平行体の体積とグラミアン(その56)」について,阪本ひろむ氏から指摘されたことであるが,直線pipjを

  x=pi+t(pj−pi)=(1−t)pi+tpj

として超平面

  ck・(x−b)=0

との交点を求めた方がよい.tが実数ならば直線,0≦t≦1ならば線分のパラメータ表示になるからである.

 今回のコラムでは多面体についての雑感をいくつか記してみたい.

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【1】正24胞体

 3次元では立方体と正八面体の頂点から菱形12面体が作られる.菱形12面体はカタラン立体のひとつであり,空間充填図形でもある.

 同様のことを4次元で行う.超立方体の16頂点と正8胞体の8頂点を併せた24頂点から,正24胞体ができる.その意味で,正24胞体は菱形十二面体の拡張である.

 驚いたことに正24胞体は切頂八面体の拡張でもある.4次元立方体の16個の頂点を一斉に,2次元面の中心を通る超平面で切り落として(切頂して)残る図形は空間充填図形となるが,これが正24胞体である.

 正24胞体では中心から頂点までの距離は辺の長さに等しい.中心および各頂点に半径1の球を置くと,24個の球が接する配置ができる.25個以上接する配置は存在しないことが証明されている.

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【2】3次元と4次元の特殊性

 ところで,3次元立方体の1つおきの頂点を結べば正四面体,4次元立方体の1つおきの頂点を結べば正16胞体ができます.しかし,5次元以上で超立方体の頂点を1つおきにとっても,正多面体にはなりません.

 超立方体の頂点を1つおきにとった図形を半超立方体と呼ぶのですが,その頂点数は2^n-1.一方,正単体(n+1),正軸体(2n),超立方体(2^n)ですがら,n≧5のとき相異なるからです.

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【3】鏡映群

 いくつかの鏡映変換により生成される直交変換群を鏡映群という.鏡映群は数学の様々に分野で広く現れる重要な研究対象である.無限の鏡映群は基本的には直交群しかないが,有限の鏡映群は

  An(n≧1),Bn(n≧2),Dn(n≧4),E6,E7,E8,F4,H3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)

に分類される.

 下付きの指数はそれが働く空間の次元である.Anはn次元正単体の対称性の群と解釈することができる.Bn=Cnはn次元立方体(正8面体)の対称性の群であり,位数は2^nn!である.DnはBnに対応する群の指数2の部分群に対応している.H3は正20面体の対称性の群に対応し,I2(p)は正2面体群Dpに対応している.H4とF4はそれぞれ4次元の正多胞体(正600胞体,正24胞体)に対応している.

 ここにあげられた群はH3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)を除いて,すべて結晶群である.なお,線形代数はAkという特定のルート系の理論であり,ユークリッド空間やシンプレクティック空間の幾何に対応するのはBk,Ck,Dkの理論である.そこでの理論の多くは,例外型の結晶群(E6,E7,E8,F4,G2)に対してだけでなく,結晶群でないユークリッド鏡映群(I2(p),H3,H4)に対しても成り立つ.

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 また,正多面体の変換群は,3種類の回転対称性:

  正4面体群=A4(4個の要素からなる偶置換全体=交代群)

  立方体(正8面体)群=S4(4個の要素からなる置換全体)

  正12面体(正20面体)群=A5(5個の要素からなる偶置換全体)

に限られます.これらの多面体を自分自身に移す空間の運動がそれぞれ4!/2=12,4!=24,5!/2=60個あるという意味なのですが,コーシーは星形正多面体を定める証明に変換群を用いています(1811年).

 なお,3次元空間の回転対称性には,この他に,正n角錐のもつ巡回群Cnと正n角柱のもつ二面体群Dnがあります.桜の花はC5,雪の結晶はD6というわけです.

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【4】Δ18は存在しない

 すべての面が正三角形で構成されている凸多面体をデルタ多面体といいます.デルタ多面体の面数は

  f=4,6,8,10,12,14,16,20

で全部で8種類あります.このうち,正4面体,正8面体,正20面体は正多面体に,デルタ6面体(重三角錐),デルタ10面体(重五角錘),デルタ12面体,デルタ14面体(三角柱の正方形面に四角錐を3個載せる),デルタ16面体(四角反柱の正方形面に四角錐を2個載せる)はジョンソン立体にも分類されるのですが,デルタ多面体はそれらを含めて全部で8種類あり,面の総数が指定されれば面の配置は唯一に決定されます.逆にいうと,もし凸多面体の各面が正三角形ならば8つの多面体の中のどれかひとつであるということになります.

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 オイラーの多面体定理は,8個の凸なデルタ多面体が存在することの証明の基礎にもなります.3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)

が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈され,最も美しい数学の10大定理の1つに挙げられるものです.

 また,正則な多面体とはその面が正多角形で,どの頂点にも同じ数の面が集まっている凸多面体のことで,正多面体では

  pf=2e,qv=2e

でしたが,正則とは限らない一般の多面体では

  Σpi=p1+・・・+pf=2e,

  Σqi=q1+・・・+qv=2e

となります.

 デルタ多面体では,pi=3,3≦qi≦5ですから

  3f=2e   (fは偶数)

  3v≦2e≦5v

これをオイラーの多面体定理

  v−e+f=2

に代入すると

  6≦e≦30

これより

  4≦f≦20,(3≦v≦20)

が得られます.3f=2eよりfは偶数ですから,4面体から20面体までの偶数多面体がデルタ多面体の候補となります.

 奇妙に感じられるかもしれませんが,デルタ18面体は存在しません.このことは,1942年,フロイデンタールによって証明されたのですが,この証明は殊の外厄介で,結局は頂点数11の形を分類してあらゆる可能性を調べても凸体にならないことを確かめるという手間を要します.ともあれ,f=18(v=11)はどうしても凸にならないのです.

 また,デルタ多面体は正三角錘,正四角錘,正五角錘,正三角柱,四角反柱に分解されるのですが,デルタ12面体だけは例外です.デルタ12面体は双子の正12面体とも呼ばれてきた多面体ですが,この多面体の存在は他よりも初等的でなく,それを構成するには3次方程式の解を必要とします.

[補]この方程式は,x^2=zとおくと

  z^4−21z^3+132z^2−320z+256=0

であるが,

  (z−4)(z^3−17z^2+64z−64)=0

となって3次方程式に帰着される.ゆえにデルタ12面体は定規とコンパスによって作図可能ではない.

 デルタ多面体による空間充填は正四面体と正八面体の組み合わせがよく知られていますが,そのほかにはないのでしょうか? デルタ多面体のすべての二面角を計算して空間充填の必要条件を満たす解を探索すると(正四面体,デルタ6面体)×(正八面体)の組み合わせしかないことがわかります.デルタ6面体は正四面体を2つ貼り合わせた立体ですから,デルタ多面体による空間充填は本質的に正四面体と正八面体の組み合わせのほかにはないといえるのです.

 なお,デルタ多面体に対して,正方形のみによる凸多面体は立方体,正五角形のみによる凸多面体は正十二面体しかなく,正六角形以上の正多角形ばかりでは凸多面体はできません.結局,1種類の正多角形でできる凸多面体は合計10種類あることになります.

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