■2003・わが闘争

 西暦2003年も1カ月を残すだけとなってしまった.ちなみに西暦0年という年は存在しないらしいのだが,もうそろそろ今年1年を振り返ってみてもよい時期であろう.
 
 HPの閉鎖を迫られていることもあって,かけ込みで少しでも多くのコラムを書き上げたいという思いが募り,そのため,今年は過去最多のコラムをアップロードすることができた.
 
 本HPの読者にはなにがしかの知識を供給することができたと考えているものの,自分自身にとっては不満の鬱積する1年であった.ここ数年,年に1つや2つは新しい原理なり法則,あるいはオリジナルの方法などを生み出すことができていたからだ.
 
 それらについては,コラム
  「統計学の予期せぬ効用」
などで逐次紹介しているのだが,オリジナルを作り出すことが当然のように思えていた.しかし,今年は決定的なアウトプットを欠いた1年だったというわけである.
 
 アイディアが枯渇したというわけではなく,いい問題に恵まれれば新たなものを生み出すだけの力は残っているはずだ.その意味で反省すべき点はない.場合によっては職場を移ることも必要となろうが,これまで以上に沈思黙考し,情熱を新たにしたいと考えている今日この頃である.
 
 さて今回のコラムでは,今年1年のコラムを振り返ってみてジャンル別に整理するとともに,説明不足だった点には補足説明を加えてみることにしたい.
 
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【1】幾何学
 
[1]高次元幾何学
 
  「高次元の正多胞体」
  「無限次元空間の球充填問題」
  「n次元楕円をm次元空間に投影する」
などはタイトルからして高次元幾何学そのものであるが,高次元の幾何学は小生が近年興味をもっている話題であり,昨年に引き続いて,今年も高次元幾何学に関する話題が多かったように思われる.
 
 これまで車いすの駆動輪を外側に開いて取り付けると漕ぎやすいことは経験的に知られていたのだか,不思議なことに理論的な裏付けがなかった.その点を考慮して,
  「n次元楕円をm次元空間に投影する」
は工学面への応用を念頭に置いて記述したコラムである.
 
 また,
  「高次元の正多胞体」
  「無限次元空間の球充填問題」
  一松信「高次元の正多面体」日本評論社
  Conway,Sloane "Sphere packings, Lattices and Groups", Springer-Verlag
  Coxeter「Twelve geometric essays」Carbondale and Edwardsville, Southern Illinois university press
に触発されて書いたものだが,ここでもう一度基礎的なところを整理しておきたい.
 
 まず,3次元空間の回転群の有限部分群は,コーシーが示したように
  (1)巡回群Cn
  (2)正二面体群D2n
  (3)正多面体群,すなわち
   a)正四面体群(4次交代群:A4)
   b)正八面体群(4次対称群:S4)
   c)正二十面体群(5次交代群:A5)
に限られる.
 
 そしてこのことは超幾何関数が代数関数になったり,初等関数になったり,特殊関数になったりを決定する条件と関係している.なぜならば,1次分数変換は複素数球面上で考えると1つの回転に対応していて,たとえば,数xを
  (x−1)/(x+1)
に置き換えるには,北極と南極が赤道のところにくるように球を90°回転させればよい.
 
 そして,写像関数が1価となるためには,有限な回転群である場合を調べれはよいことになるが,球面上の運動の有限群は5つの回転群(巡回群,正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群)=広義の正多面体群に限ることが知られているというわけである.このように回転群の話がまったく別の方面から現れることになにか「数学の神秘」を感じないだろうか.→[補]
 
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 正多面体は3,4,5次元以上でそれぞれ5種,6種,3種存在するが,双対正多面体や自己同型があるので,正多面体群としては3次元のときは3種,4次元のときは正5胞体群,正16胞体群,正24胞体群,正600胞体群の4種,5次元以上では正単体群と超立方体群の2種である.
 
 星形正多面体は,n=3のとき4種あり,3次元の9種の正多面体(凸型5種+星形4種)を,
  (1)三角四角型(S4,A4):3種
  (2)五角型(A5):6種
と分類することもできるだろう.なお,星形正多面体はn=4のとき10種あるが,n≧5では存在しない.
 
 高次元の正多面体群について,コクセターはn次元ユークリッド空間の反転によって生成される群の研究を進め,コクセター群とよばれる一連の群について詳しく研究した.詳細については
  一松信「高次元の正多面体」日本評論社
をご覧頂きたいのであるが,n次元ユークリッド空間の変換群で,その基本領域が単体(正多胞体の基本単体)になるものの決定である.
 
 正多面体群とリー群との関連では,n次元の正単体群はAn,超立方体群はBnまたはCn,3次元の正二十面体群はG3,4次元の正24胞体群はF4,4次元の正600胞体群はG4と関連している.
 
  ・−・・・・・−・  (An:n≧2のとき位数2の自己同型がある)
 
          ・
         /
  ・−・・・・・    (Dn:n≧4のとき位数2の自己同型がある)
         \
          ・
 
      3
     /
  1−2    (D4:位数3の自己同型がある)
     \
      4
 
      4
      |
  1−2−3−5−6  (E6:位数2の自己同型がある)
 
  1=2 (B2)  1≡2 (G2)  1−2=3−4 (F4)
 
  1≡2−3 (G3)  1≡2−3−4 (G4)
 
 ここで,G3,G4はG2に1個または2個の節点をつないだグラフであり,単純リー群では許されない形である(拡張されたディンキン図形).また,例外群はDn,E6,E7,E8のいずれかの形になることが示されている.
 
 ユークリッド空間の有限群(正多面体)または無限離散群(空間充填形)になるのは,4つの無限系列(An,Bn,Cn,Dn)と6つの例外的な場合(G3,F4,G4,E6,E7,E8)に限るのである.→[補]
 
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[2]フラクタル幾何学
 
 高次元の問題はまったく別の方面からも現れる.たとえば,
  Φ(x)≒{1-exp(-2x^2/π)}^(1/2)
のような美しい近似式にはめったにお目にかかれないし,まずないと言ってもよいものであろう.小生の偏見かもしれないが,このように美しい式が経験的に得られたものであるはずはなく,何らかの理論に基づいているに違いないのである.
 
 妙に気にかかる式なので,
  「誤差関数の近似式」
では,この近似式の導出過程を探ってみたところ,正方形の積分領域を円で近似することによって得られたものであることがわかった.そうであれば超立方体を超球で近似することだって可能だろう.そして,このシリーズでは近似式の精緻化や高次元化を実現させている.
 
 また,これとは直接関係のない話であるが,似たような式があるので掲げておきたい.ハウスドルフ測度Hはルベーグ測度Lを一般化したものになっていて,n次元単位球の体積をvnとすれば,
  L=2^(-n)vnH=2^(-n)π^(n/2)/Γ(n/2+1)H
の関係があることが知られている.
 
 2^nは1辺の長さが2の超立方体の体積であるし,
  vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)
は半径1の単位超球の体積である.すなわち,この式からハウスドルフ測度Hは円被覆,ルベーグ測度Lは正方形被覆と関係しているということが読みとれるであろう.
 
 そこで,フラクタル幾何学に関連する話題として「掛谷の問題」を紹介しておきたい.1917年,掛谷宗一は「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」という問題を提出した.
 
(凸図形の場合)
 (例1)線分ABをAの回り180°回転した半円:面積π/2
 (例2)ABを中点Oの回りに360°回転した円:面積π/4
 (例3)ルーローの三角形(正三角形の各頂点を中心として他の2頂点を通る円弧を描いてできる定幅図形):面積(π−√3)/2
 
 実は,凸領域となる最小の領域は,高さが1の正三角形(面積√3/3)であることが藤原松三郎によって予想され,1921年,パルによって証明された.
 
(単連結図形の場合)
 それでは,凸領域でなくてもよいとしたとき,解はどうなるのだろうか? この問題は多くの予想を生み出した.たとえば,デルトイドでは長さが一定の線分をデルトイドに接しながらスムーズに1回転させることができるのである.
 (例4)直径3/2の円を固定しておいて,その円に直径1/2の円を内接させて転がしたときにできるデルトイド:面積π/8
 
 デルトイドは19世紀の幾何学者シュタイナーがシムソン線の包絡線として研究した図形で,シムソン線というのは三角形の外接円上の任意の1点から3辺に下ろした垂線の足を結ぶ直線のことである.また,ハイポサイクロイドの面積は
  S=(n−1)(n−2)πa^2/n^2
となる.
 
 単連結となる最小の領域は,面積π/8のデルトイドと予想され,掛谷自身,π/8が最小値であると予想したし,多くの数学者も答はデルトイドではないかと予想していた.ところが,これらより面積が小さい図形が考えだされた.デルトイドが3個の尖点をもっていることに着目すると,5個の尖点,7個の尖点,・・・をもつ図形を考えることができる.
 
 たとえば,5個の尖点をもつ図形の場合,その面積はデルトイドの面積の約3/4になるが,尖点の個数を増やしたとしても面積を際限なく減らすことが不可能である.
 
 単連結となる最小の領域は,面積π/8のデルトイドではなく,別の星状図形であることがブルームとシェーンベルグにより発見された(1963年).この形はフーコーの振り子を1万回振らせたときの形に似ているらしいのであるが,その面積はπ/11よりも小さくなる.
 
 その後,カニンガムによって与えられた最小の星形掛谷集合の面積の下限はπ/108と(5−2√2)π/24の間にあることが示されている(1971年).すなわち,その面積はπ/11以上にはならないし,π/108以下にはできないこと,そして下限は(5−2√2)π/24以下であるというわけであるが,単連結図形による掛谷の針の問題にはまだ未解決な部分が残されているのである.
 
(一般図形の場合)
 単連結というのは内部に穴がひとつもない図形である.次に,その条件さえも緩めたらどうなるだろうか? 実は,単連結でなくてもよいとしたとき,ベシコビッチによって「前後を方向転換できるいくらでも面積の小さい図形を作ることができる」ことが証明され,掛谷の針の問題は意外な顛末を迎えた(1927年).ベシコビッチの証明は直観に反していて,予想外であるうえ,常識ではとても受け入れられものではない.多くの数学者にとっても予想が裏切られる結果になったわけで,その驚きはいかに大きかったであろうかと推察される.
 
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[3]微分幾何学
  「眼から鱗が落ちるかも」
  「転がる石に苔むさず」
 
[補]超幾何関数は普通超越関数ですが,ときどき代数的になることがあります.ガウスの超幾何関数2F1に対しては,これが起こる状況が1873年,シュワルツにより決定されています.それは大ざっぱにいって,リーマンスキーム(λ,μ,ν)の分母が2,3,4,5の有理数となることです.
 
 また,2F1が初等関数になる条件は福原・大橋(1949,1955)によって与えられています.2F1→3F2→4F3→・・・と進んで,現在,一般化された超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はボイカーズとヘックマンにより決定されています(1989年).
  →[参]コラム「超幾何関数とフックスの問題」
 
[補]単独で空間を充填する平面充填正多角形は3種類(正三角形・正方形・正六角形),空間充填正多面体は1種類(立方体)である.それに対して,4次元空間を1種類の正多胞体で埋めつくす図形は,正8胞体,正16胞体,正24胞体の3種類であり,4次元の最密正則胞体充填構造は,正24胞体で埋めつくされているときであることが知られている.
 
 正24胞体に相当する3次元正多面体はない.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからである.実は24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものなのであるが,この正24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られている.
 
 正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているらしく,この点もまた注目すべきものである.
 
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【2】代数学
 
  「因数分解の算法(その3)」
  「楕円曲線と有限体」
では有限体について解説したが,代数学の教えるところによれば,n元の体(加減乗除の演算が定義された集合)が存在するための必要十分条件は,nが素数(のベキ乗)になっていることで,位数2,3,4=2^2,5の体は存在するが,位数6=2×3の体は存在しない.そして,位数7,8=2^3,9=3^2の体は存在して,位数10=2×5のものは存在しない.これらのコラムはこのことを示すのに絶好のテーマになっていたと思う.
 
 一方,任意のnに対してn元の群は存在し,位数2の群は1つ,位数3の群は1つ,位数4の群は2つある.すると,位数5の群は?,位数6の群は?,・・・という疑問が湧いてくるのは自然な成り行きであろう.
 
 位数nの有限群が(同型を除いて)何通りあるか?−−−これは興味深い問題であるが,完全には解けていない難しい問題なのである.それでも,nが小さい場合に何個あるか知られる.
 
 有限群の型の分類については
  「因数分解の算法(その5)」
  「因数分解の算法(その6)」
を参照されたい.
 
 また,特記すべきものとして
  「因数分解の算法(その7)」
  「因数分解の算法(その8)」
では,オイラーの有名な素数生成式
  n^2+n+41
が虚2次体Q(√−163)の理論と深く関係していることを解説し,類数1に関するラビノヴィッチの定理やシュタルクの定理を紹介した.
 
 類数とはすべての数体に付随した不変量(自然数)であって,たとえば,有理数体Qは類数1をもち,ガウスの数体Q(i)も類数1をもつ.類数1をもつというのは,Q(√d)のすべてのイデアルが単項であること,すなわち,2次体Kのすべての代数的整数が,Kの素数の積として表され,その表現が単数(1の約数となる整数)を無視して,一意であることを指している.
 
 ガウスの数体Q(i)の場合でいうと,a,bを整数として
  a+bi
で表される複素数が「ガウスの整数」である.ガウスの整数は和と積の演算に関して閉じている→「ガウスの整数環」.また,すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,
  ±1,±i
の4個の単数がある.ガウスの数体では(単数を除いて)素因数分解の一意性が成立する.
 
 それに対して,Q(√−5)では
  6=2・3=(1+√−5)(1−√−5)
のように,素数の積に2通りに表されるような状況を生じてしまうのである.(2,3は素数であるし,1+√−5,1−√−5はいずれも
  a+b√−5
のなかには±1と±それ自身以外の約数をもたないので「素数」である.)
 
 次の9つの虚2次体Q(√d)
  −d=1,2,3,7,11,19,43,67,163
は類数1であり,類数が1となる判別式は他には存在しない.h=1なる虚2次体Q(√d)はこれしかないというのが,有名な「シュタルクの定理」である.
 
 ついでながら,h=2なる虚2次体Q(√d)は,
  −d=5,6,10,13,15,22,35,37,51,58,91,115,123,187,235,267,403,427
の18個ある.
 
 Q(√−5)の類数は2である.類数1をもつ数体はQと類似した数論的性質をもつのであるが,大きな類数をもつ数体はQとかなりかけ離れた性質をもっているというわけである.
 
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【3】数論
 
  「分割数の漸近挙動」
  「眼から鱗が落ちるかも」
  「楕円曲線と有限体」
  「谷山予想・佐藤予想・ラマヌジャン予想」
  「母関数と整数の分割」
などは数論に関連したコラムである.昨年に引き続き「オイラーの五角数定理」を取り扱ったものもあるが,ここではそれ以外の話題を再録しておきたい.
 
[1]ウェアリングの問題
 
 1770年,ウェアリングは4平方和定理を拡張して,
  「任意の整数はたかだか9個の3乗数の和として,あるいは19個の4乗数の和として表される」
ことを証明抜きで主張した(9三乗数定理,19四乗数定理).
 
 これが有名なウェアリングの問題であるが,g(2)=4,すなわち「すべての正の整数は高々4個の整数の平方和で表される」というのが,ラグランジュの定理(1772年)である.
 
 ハミルトンの四元数
  H=a+bi+cj+dk
において,a,b,c,dを整数に限ったものが「四元整数」である.四元整数は乗法の交換法則が成り立たない非可換体(環)であるが,4次元空間内の原点を中心とする半径√nの3次元球面上には必ず格子点があることを主張しているのが「ラグランジュの定理」というわけである.
 
 また,g(3)=9はヴィーフェリッヒによって証明された(1909年).4^k(8n+7)の形の数は4個の2乗を必要とするのに対して,9個の3乗を必要とする数は,たった2つの場合だけが知られている.
  23=2・2^3+7・1^3
 239=2・4^3+4・3^3+3・1^3
そして,1939年,ディクソンは23,239以外の整数はすべて8個の3乗数の和で書けることを示している.
 
 19四乗数定理:g(4)=19
  「すべての正の整数は19個の4乗数の和で表される」
は1986年に証明されている.つまり,ウェアリングの問題(18世紀)は200年以上かかって解決されたことになる.
 
 ウェアリングの問題は,2次形式ではなく高次形式を扱っていて,多くの数学的思考を刺激した.そして,1909年,ヒルベルトによって
  「どの数もg個のk乗数の和で表される」
ことが肯定的に証明されている.
  n=x1^k+・・・+xg^k
 
 g乗数は平方数よりもずっとまばらにしか分布しないので,以下,37個の5乗数の和,73個の6乗数の和,・・・と続くのだが,この最良値を完全に決めることはまだできていない.とはいうものの,現在のところ,k≧6でのg(k)の値はほぼ決まっていて,
  g(6)=73,g(7)=143,g(8)=279,
  g(9)=548,g(10)=1079,・・・
したがって,37五乗数定理だけが残されたことになる.
 
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[2]佐藤予想
 
 数論における楕円曲線のヴェイユ・ゼータに関する佐藤(幹夫)予想とは,
  偏角が[a,b]となる素数密度 〜 2/π∫(a,b)sin^2θdθ
というものである.
 
 角分布がsin^2θに比例するという佐藤予想の最初の記述は,資料によると,昭和38年(1963年)のことなのであるが,sin^2予想でt=cosθとおけば,
  偏角が[a,b]となる素数密度 〜 2/π∫(α,β)√(1-t^2)dt
となるので,1種の半円則となっていることがわかる.
 
 佐藤予想には,多くの言い換えがあって,
(1)x^2+Mpx+p=0  (Mp:誤差項)
の解を
  √p(cosθ±isinθ)
とするとき,その角分布はsin^2θに比例する
(2)Mp/2√pが√(1−x^2)に比例する
(3)フルヴィッツの整数:(a+bi+cj+dk)/2の半径pの格子点3次元球面:a^2+b^2+c^2+d^2=4pの一様分布の実軸方向への射影である
といっても同じことである.
 
 四元整数に1の原始6乗根
  ζ++++=(1+i+j+k)/2
を追加した数の体系が,「フルヴィッツの整数」である.フルヴィッツの整数全体は整数座標点と半整数座標点からなるので,4次元体心立方格子と考えられる.
 
 また,フルヴィッツの整数を使うと,4次元独特の充填形である正24胞体による空間充填形(3,3,4,3)のすべての頂点を与えてくれる.その構成要素(3,4,3)が正24胞体で,単数すなわち1の約数,
  ±1,±i,±j,±k,ζ±±±±
のあらゆる符号の組合せをとった24個が4次元空間で正24胞体をなしているのである.
 
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【4】ゼータ
 
  「谷山予想・佐藤予想・ラマヌジャン予想」
  「ゼータとポリログ関数」
  「奇数ゼータと杉岡の公式」
はL関数を含めたゼータ関数に関するコラムである.【3】と重複することは避けられないが,やはりゼータは数論の中でも別格扱いにしておきたいジャンルである.
 
  「奇数ゼータと杉岡の公式」
は京都府在住の数学愛好家・杉岡幹生氏より,奇数ゼータζ(3),ζ(5),ζ(7),・・・が偶数ゼータを使って具体的に表示できるし,その式は初等的に得ることができるというショッキングなメールからスタートしたシリーズである.
 
 最近,その根っこのところが,いずれもオイラーに由来する2つの系列
  (1)log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
  (2)Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
に収束することがわかってきた.(1)はオイラーが
  ζ(3)=2π^2/7log2+16/7∫(0,π/2)xlog(sinx)dx
を得るのに用いた式であり,(2)はベルヌーイ多項式のフーリエ展開となっている.
 
 そして(1)からは奇数ゼータと偶数Lが偶数ゼータの無限和として表されること,また(2)からは偶数ゼータと奇数Lが自然に出てくるのであるが,奇数Lは偶数ゼータの有限和として表されることが導き出される.
 
 このことに関する杉岡氏のコメントを伝えたいのだが「偶数ゼータがすべてのDNAになっているように思える」とのことであった.偶数ゼータと比べると,奇数ゼータはかなり人工的な感じがするというのである.まさに同感であるが,いかがであろうか?
 
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