■直角三角形とピタゴラスの定理(その2)

 直角三角形では,斜辺をc,他の二辺をa,bとすると,ピタゴラスの定理「a^2+b^2=c^2」が成り立つことはよく知られています.特に,三辺の長さが整数である直角三角形をピタゴラス三角形といいます.3元2次の不定方程式a^2+b^2=c^2の整数解を求める問題をピタゴラスの問題といいますが,(a,b,c)=(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17),・・・などがその解です.

 ピタゴラス三角形は無限にあり,その一般形にはいくつかの変形がありますが,m,nを整数,kを相似係数として

  a=k(m^2−n^2),b=2kmn,c=k(m^2+n^2)

が形も簡単で広く用いられています.

  {(n^2−1)/2}^2+n^2={(n^2+1)/2}^2

  (n^2−1)^2+(2n)^2=(n^2+1)^2

のように文字を一つだけ使ったのでは,ピタゴラス三角形全部をもれなく表す公式は作れませんが,二つの文字を使った公式

  (m^2−n^2)^2+(2mn)^2=(m^2+n^2)^2

では全部を表すことができます.逆に,この式から4より大きい平方数は常に2つの自然数の平方の差として表されることがわかります.

 2008年に,ピタゴラス三角形ばかりを生成し,しかもすべて網羅する行列

    [−1,−2,2]

  P=[−2,−1,2]

    [−2,−2,3]

  [参1]小林吹代「ピタゴラス数を生み出す行列のはなし」ベレ出版

のことをを紹介しました.驚くべきことに行列Pが発見されたのは50年くらい前のことなのだそうです.

 最近出版されたばかりの

  [参2]細矢治夫「ピタゴラスの三角形とその数理」共立出版

のもっと詳細な解説がありますので,行列Pが出てくる舞台裏に隠されている数学的な本質(金鉱脈)について知りたい方はぜひ購読(お買い上げのうえ読破)されるとよいでしょう.

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【1】ピタゴラス三角形の生成行列

    [−1,−2,2]

  P=[−2,−1,2]

    [−2,−2,3]

とします.この行列の逆行列P^-1はP自身で,

  P^-1=P,|P|=−1

になっています.

 ここでaを奇数,bを偶数,cを奇数と約束し,(a,b,c)=(4,3,5)ではなく,(3,4,5)を選ぶことにします.そして(a,b,c)=(3,4,5)’を第1象限上のベクトルとみると,A=(−3,4,5)’は第2象限,B=(−3,−4,5)’は第3象限,C=(3,−4,5)’は第4象限上のベクトルとみなすことができます.このとき,

  PA=(5,12,13)’

  PB=(21,20,29)’

  PC=(15,8,17)’

はすべてピタゴラス三角形になります.

 変換後のピタゴラス三角形は変換前より大きくなりますから,最小の既約ピタゴラス三角形として(a,b,c)=(3,4,5)を選ぶとすべての既約ピタゴラス三角形をもれなくつくり,しかも既約ピタゴラス三角形以外はつくらない変換になっていることが証明されます.

 なお,この変換の裏には

  [m’]=[1,−2][m]

  [n’] [0,−1][n]

が潜んでいます.

  R=[1,−2]

    [0,−1]

とおくと,

  R^-1=R,|R|=−1

を満たします.

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【2】バーニングとホールのピタゴラス三角形生成行列

 1970念に,アメリカのホールは

    [1,−2,2]     [ 1, 2,−2]

  U=[2,−1,2] U^-1 =[−2,−1, 2]

    [2,−2,3]     [−2,−2, 3]

    [1,2,2]     [ 1, 2,−2]

  A=[2,1,2] A^-1 =[ 2, 1,−2]

    [2,2,3]     [−2,−2, 3]

    [−1,2,2]     [−1,−2, 2]

  D=[−2,1,2] D^-1 =[ 2, 1,−2]

    [−2,2,3]     [−2,−2, 3]

という3つの3次正方行列U(up),A(across),D(down)を発見した.ホールとまったく同じことをオランダのバーニングが1963年に発見していたことが後に判明した.

  P=(3,4,5)’

にかけると

  UP=(5,12,13)’

  AP=(21,20,29)’

  DP=(15,8,17)’

はすべてピタゴラス三角形になる.さらに,この3つのベクトルにU,A,Dをかけると,あらたに9つのピタゴラス三角形になる.

バーニングとホールはこの操作を無限に続けていくことによって,すべての既約ピタゴラス三角形をもれなくつくり,しかも既約ピタゴラス三角形以外はつくらない変換になっていることを証明したのである.

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 行列の一部の要素の符号を変えただけで逆行列ができてしまうところが不思議である.また,

  |U|=|D|=1,|A|=−1

とAだけが違う結果になる.

 さらにUとDについては

          [k^2, −2jk,  2jk]

  U^j/k=1/k^2[2jk,k^2−2j^2,2j^2]

          [2jk,−2j^2,  k^2+2j^2]

          [k^2−2j^2,2jk,2j^2]

  D^j/k=1/k^2[−2jk,  k^2, 2jk]

          [−2j^2,  2jk,k^2+2j^2]

で与えられる.

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【補】アイゼンシュタイン三角形の生成行列

 ピタゴラス三角形とよく似た三角形に三辺の長さが整数であって,二辺a,bのあいだの角が120°である鈍角三角形があります.一松信先生はこの三角形をアイゼンシュタイン三角形と呼んでいますが,この三角形はピタゴラスの定理の拡張である余弦定理c^2=a^2+b^2−2ab・cosCより,

  a^2+ab+b^2=c^2

を満たします.

 この一般解は

  a=k(m^2−n^2),b=k(2mn+n^2),c=k(m^2+mn+n^2)

と表現でき,(a,b,c)=(3,5,7),(7,8,13),(5,16,19),・・・など無限に存在します.

    [−3,−4,4]

  Q=[−4,−3,4]

    [−6,−6,7]

とし,第1象限上のベクトル(a,b,c)’に対して,第2象限上のベクトルA=(−a,a+b,c)’,B=(−a−b,a,c)’,第3象限上のベクトルC=(−b,−a,c)’,第4象限上のベクトルD=(b,−a−b,c)’,E=(a+b,−b,c)’とおくと,QA,QB,QC,QD,QEはすべてアイゼンシュタイン三角形になります.

 この行列も

  Q^-1=Q,|Q|=−1

を満たします.なお,この変換の裏にも

  [m’]=[1,−2][m]

  [n’] [0,−1][n]

が潜んでいます.

 ピタゴラス三角形の場合,先祖は(3,4,5)だけでしたが,アイゼンシュタイン三角形の先祖は(3,5,7)と(8,7,13)の2組あり,2組の先祖からアイゼンシュタイン三角形が網羅されます.

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