■初等幾何の楽しみ(その94)

 ポンスレーの定理が成り立つような2円を見つけることは容易ではないが,シュタイナーの定理は最初の2円が同心円になるような反転を考えると容易に証明できる.メビウス変換

  z’=(az+b)/(cz+d)

は円を円に変換する.

 2つの定理に共通する特徴は,2つの円が同心円ならば自明であるということである.しかし,ポンスレーの定理では同心円の場合に帰着させても証明することはできないのである.

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【1】反転(円円対応と等角変換)

 ユークリッド平面の反転ではまず定点Oを中心とする半径rの定円を考えます.点Pに対して直線OP上に

  OP・OQ=r^2

となる点Qをとる写像を円Oに対する反転といいます.

 平面の反転によって円の内部の点は外部に移り,周上の点はその点自身に,外部の点は内部に移ることは明らかですが,

 (1)点Oを通らない円は,Oを通らない円に移る

 (2)点Oを通る円は,Oを通らない直線に移る

 (3)点Oを通る直線は,それ自身に移る

 直線および円は直線または円になるというわけですが,直線も半径が無限大の円と考えることができますから,反転の特徴は「円は円に変換される」ということができます.

 空間の反転では円,直線をそれぞれ球面,平面に読みかえればよいので

 (1)点Oを通らない球は,Oを通らない球に移る

 (2)点Oを通る球は,Oを通らない平面に移る

 (3)点Oを通る平面は,それ自身に移る

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 反転のもう一つの特徴は2曲線のなす角を変化させない「等角写像」であるということです.反転操作は最も簡単な等角変換ですが,多くの等角写像があり,たとえば,球面上の定点Oから球面上の任意の点PをOを一端とする直径に垂直な平面に移す極投影も等角変換のひとつとなっています.

 1次分数変換(メビウス変換)

  w=f(z)=(az+b)/(cz+d)

は複素数球面上で考えると1つの回転に対応していて,たとえば,数zを

  (z−1)/(z+1)

に置き換えるには,北極と南極が赤道のところにくるように球を90°回転させればよいのですが,この写像は等角写像になります.

 等角変換は円は円に移り,直線も円へ移るという性質を併せもつというわけです.

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【2】同心円への帰着

 最初の2円の直径端と中心がそれぞれ

  [−1,0,1],[α,(α+β)/2),β]   (α+β>0)

にあると仮定しても一般性は失われない.

 このとき,

  w=(z+a)/(az+1)

は半径1の円板をそれ自身に移し,[−1,0,1]はそれぞれ[−1,a,1]に移される.(円板の中心が円板の中心に移されるわけではない).

 [α,β]が[−r,r]に移されるためには,

  (α+a)/(aα+1)=−(β+a)/(aβ+1)

より,aに関する2次方程式

  a^2+2a(1+αβ)/(α+β)+1=0   (−1<a<0)

に帰着される.

  a={−(1+αβ)±{(1−α^2)(1−β^2)}^1/2}/(α+β)

  r=|(α+a)/(aα+1)|=|(β+a)/(aβ+1)|

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【3】閉包条件

 これで半径rが求まった(R=1).((1+r)/2,0)を中心とした半径(1−r)/2の円が描けることから,1周して鎖が閉じるための条件は,

  2arcsin((1−r)/(1+r))

が2πの整数分の1のときである.

 また,1周して鎖がうまく閉じないときでも,何周か回った後に閉じることもある.

  2arcsin((1−r)/(1+r))

 =2arctan((1−r)/2√r)

が2πの有理数倍のときである.

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