■作図不可能な正7角形と作図可能な正5角形(その15)

 正n角形の作図において,nは異なるフェルマー素数か2のベキ乗との積

  n=2^kΠFm

でなければなりません.したがって,

[1]n=2,3,4,5,6,8,10,12,15,16,17,20,24,30 → 作図可能

[2]n=7,9,11,13,14,18,19,21,22,23,25 → 作図不可能

となって,幾何学的に解ける正奇数角形は,2^5−1=31通り,最大

  3・5・17・257・65537=4294967295

角形まであります.

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【1】正多角形の作図

 正多角形の作図は円周等分問題という幾何学問題ですが,x^n −1=0という代数方程式の解と密接な関係にあります.また,定規とコンパスで描ける図形は直線と円ですから,その作図は線分の長さの加減乗除と平方根をとる操作に相当します.すなわち,定規(直線)とコンパス(円)による作図は,たとえそれらを繰り返し用いたとしても,+,−,×,÷,√なる5つの演算によって得られるものに限られています.

  z^2−1=(z−1)(z+1)

  z^3−1=(z−1)(z^2+z+1)

  z^4−1=(z^2−1)(z^2+1)

は2次方程式に帰着できますが,n=5の場合

  z^5−1=(z−1)(z^4+z^3+z^2+z+1)

の右辺には4次方程式があるので,一見不可能に見えますが,2次以下に因数分解できます.z+1/z=xとおけばよいのです.正5角形の作図は黄金比と関連していて,2次方程式:x^2 −x−1=0を解く,すなわち(√5+1)/2を求めることによって可能となりました.ギリシャ人は黄金分割を用いた見事な方法で正五角形の作図に成功したのですが,この方法は二次方程式の幾何学的解法を利用した賢明な方法といえます.

[補]ガウス平面で正5角形の頂点を表す4次方程式

  x^4+x^3+x^2+x+1=0

の両辺をx^2でわり,

  y=x+1/x=2cos(2π/5)

と変数変換すると2次方程式

  y^2+y−1=0

に帰着され,

  y=(√5−1)/2=2cos(2π/5)

  cos(2π/5)=(√5−1)/4

が得られる.→コラム「初等幾何の楽しみ(その23)」参照

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  z^6−1=(z^2)^3−1

  z^8−1=(z^2)^4−1

なので,それぞれ正三角形,正方形に対する角度を求め,それを二等分することによって幾何学的に解けます.

  z^9−1=(z^3)^3−1

は正三角形に対する角度を求め,それを三等分する必要がありますが,これは不可能です.

  z^7−1=(z−1)(z^6+z^5z^4+z^3+z^2+z+1)

も幾何学的に解くのは無理です.正7角形,正9角形はそれぞれ3次方程式:x^3 +x^2 −2x−1=0,x^3 −3x+1=0に帰着します.したがって,正7角形,正9角形の作図のように3次方程式に帰着する作図問題は+−×÷√の演算を組み合わせても解けません.

 n=10〜14は省略.n=15は2つの異なるフェルマー数の積です.実際,正三角形(120°)と正五角形(72°)の差48°の半分として正十五角形(24°)を幾何学的に作ることができます.n=51,85,355も異なるフェルマー数の積で作図可能です.

 n=17の場合は,n=5の場合にもう1ステップ要しますが,全く同様に得ることができます.

[補]16次方程式

  x^16+x^15+・・・・+x+1=0

の両辺をx^8でわり,

  y=x+1/x=2cos(2π/17)

と変数変換をし,最後に2次方程式に帰着させると失敗する.

  z=x^4+x+1/x+1/x^4

  w=x^8+x^4+x^2+x+1/x+1/x^2+1/x^4+1/x^8

と変数変換する手がある.

  ζ=cos(2π/17)+isin(2π/17)

  y=ζ+ζ^-1=2cos(2π/17)

  y’=ζ^4+ζ^-4

  z=ζ+ζ^4+ζ^-1+ζ^-4

  z’=ζ^2+ζ^8+ζ^-2+ζ^-8

  w=ζ+ζ^2+ζ^4+ζ^8+ζ^-1+ζ^-2+ζ^-4+ζ^-8

  w’=ζ^3+ζ^5+ζ^6+ζ^7+ζ^-3+ζ^-5+ζ^-6+ζ^-7

とおく.

  x^16+x^15+・・・・+x+1=0

より,w+w’=−1,ww’=−4となるから,wはx^2+x−4=0の根.  w=(√17−1)/2=1.56155

 同様に,

  z+z’=w,zz’=−1となるから,zはx^2−wx−1=0の根.  z=(w+√(w^2+4))/2=(−1+√17+√(34−2√17))/4=2.04948

  y+y’=z,yy’=ζ^3+ζ^5+ζ^-3+ζ^-5=z”,z”’=ζ^6+ζ^7+ζ^-6+ζ^-7とおくと,

  z”+z”’=w’,z”z”’=−1

となるから,z”はx^2−w’x−1=0の根.

  z”=(−1−√17+√(34+2√17))/4

 yはx^2−yx+y”=0の根より,

  y=2cos(2π/17)=1/8{−1+√17+√(34−2√17)+2√(17+3√17+√(170−26√17)−4√(34+2√17)}=1.86494

が得られる.→コラム「初等幾何の楽しみ(その24)」参照

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【2】円分多項式の登場

 x^n−1の因数分解が,nの約数dを使って次のように書駆れることを考えます.

  x−1=Φ1(x)

  x^2−1=Φ1(x)Φ2(x)

  x^3−1=Φ1(x)Φ3(x)

  x^4−1=Φ1(x)Φ2(x)Φ4(x)

  x^5−1=Φ1(x)Φ5(x)

  x^6−1=Φ1(x)Φ2(x)Φ3(x)Φ6(x)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  x^18−1=Φ1(x)Φ2(x)Φ3(x)Φ6(x)Φ9(x)Φ18(x)

  x^36−1=Φ1(x)Φ2(x)Φ3(x)Φ4(x)Φ6(x)Φ9(x)Φ12(x)Φ18(x)Φ36(x)

 すると

  Φ1(x)=x−1

  Φ2(x)=x+1

  Φ3(x)=x^2+x+1

  Φ4(x)=x^2+1

  Φ5(x)=x^4+x^3+x^2+x+1

  Φ6(x)=x^2−x+1

  Φ7(x)=x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1x−1

  Φ8(x)=x^4+1

  Φ9(x)=x^6+x^3+1

  Φ12(x)=x^4−x^2+1

  Φ15(x)=x^8−x^7+x^5−x^4+x^3−x+1

  Φ16(x)=x^8+1

  Φ18(x)=x^6−x^3+1

  Φ24(x)=x^8−x^4+1

  Φ36(x)=x^12−x^6+1

と定まります.

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【3】円分多項式の解

[1]Φ1(x)=x−1=0

  x=1

[2]Φ2(x)=x+1=0

  x=−1

[3]Φ3(x)=x^2+x+1=0

  x=(−1±i√3)/2=ω,ω^2

[4]Φ4(x)=x^2+1=0

  x=±i

[5]Φ6(x)=x^2−x+1=0

  x=(1±i√3)/2

[6]Φ5(x)=x^4+x^3+x^2+x+1=0

 ガウス平面で正5角形の頂点を表す4次方程式

  x^4+x^3+x^2+x+1=0

の両辺をx^2でわり,

  x^2+x+1+1/x+1/x^2=0  (相反方程式)

  y=x+1/x=2cos(2π/5)

と変数変換すると2次方程式

  y^2+y−1=0

に帰着され,

  y=(√5−1)/2=2cos(2π/5)

  cos(2π/5)=(√5−1)/4

が得られる.→コラム「初等幾何の楽しみ(その23)」参照

 正三角形。正方形,正六角形に較べ,正5角形はなぜ描くのが難しいのかという問いに対するい答えは円分多項式にあるというわけです.

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【4】円分多項式の解の代入

[1]Φ1(x)=x−1=0,x=1の代入

  Φn(1)の値として現れる数は1以外は素数である

[2]Φ2(x)=x+1=0,x=−1の代入

  Φn(−1)の値として現れる数は1以外は素数,あるいは2で割ると素数のベキ乗の形である

[3]Φ3(x)=x^2+x+1=0,x=ω,ω^2の代入

  Φn(ω)Φn(ω^2)の値として現れる数は1以外は素数,あるいは2で割ると素数のベキ乗の形である

[4]Φ4(x)=x^2+1=0,x=±i2の代入

  Φn(i)Φn(−x)の値として現れる数は1以外は素数,あるいは2で割ると素数のベキ乗の形である

[5]Φ5(x)=x^4+x^3+x^2+x+1=0,x=α,β,γ,δの代入

  Φn(α)Φn(β)Φn(γ)Φn(δ)の値として現れる数は1以外は素数,あるいは2で割ると素数のベキ乗の形である

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【5】円分多項式を相反多項式にする

  y=x+1/x=2cos(2π/n)

  Ψ3(y)=y+1

  Ψ4(y)=y

  Ψ5(y)=y^2+y−1

  Ψ6(y)=y−1

  Ψ7(y)=y^3+y^2−2y−1

  Ψ8(y)=y^2−2

  Ψ9(y)=y^3−3y+1

  Ψ10(y)=y^2−y−1

  Ψ12(y)=y^2−3

  Ψ14(y)=y^3−y^2−2y+1

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

 さらに,三角関数のn倍角の公式を起源とするチェビシェフ多項式Tn(x),Un(x)において,2Tn(x/2),Un(x/2)はΨd(x)で因数分解される.

  2T1(x/2)=x=Ψ4(x)

  2T2(x/2)=x^2−2=Ψ8(x)

  2T3(x/2)=x(x^2−3)=Ψ4(x)Ψ12(x)

  2T4(x/2)=x^4−4x^2=2=Ψ16(x)

  2T5(x/2)=x(x^4−5x^2+5)=Ψ4(x)Ψ20(x)

  U1(x/2)=x=Ψ4(x)

  U2(x/2)=(x+1)(x−1)=Ψ3(x)Ψ6(x)

  U3(x/2)=x(x^2−2)=Ψ4(x)Ψ8(x)

  U4(x/2)=(x^2+x−1)(x^2−x−1)=Ψ5(x)Ψ10(x)

  U5(x/2)=x(x+1)(x−1)(x^2−3)=Ψ3(x)Ψ4(x)Ψ6(x)Ψ12(x)

[参]小池正夫「実験・発見・数学体験」数学書房

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