■離散幾何学における2つの定理(その2)

 1直線上に距離1の等間隔で並ぶ点集合ではどの2点間の距離も整数となる.1直線上にない平面点集合として,1辺の長さ1の正n角形を考えよう.正三角形は対角線をもたないから別としても,対角線の長さは正方形で√2,正五角形で(1+√5)/2,正六角形で√3と2であるから,すべての2頂点間の距離が整数となることはない.

 しかしながら,ピタゴラス三角形の3つの頂点間の距離はすべて整数であるし,縦・横の長さが3・4の長方形の4つの頂点間の距離もすべて整数である.

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【1】整数距離の点集合

 1直線上にない任意のn点間にはn(n−1)/2組の距離が考えられるが,どの2点間の距離も整数となるn点集合はあるのだろうか?

  [参]前原濶,桑田孝泰「知っておきたい幾何の定理」共立出版

では,まず,

[定理]円周上にある無限個の点集合で,どの2点間の距離も有理数であるものが存在する

ことを証明している.

(証)ピタゴラス三角形(3,4,5)の鋭角をαとする.ピタゴラス三角形のひとつの鋭角をθをすると,θ/πは無理数であるから,α/πは無理数となる.

 ピタゴラス三角形(3,4,5)を2つ貼り合わせた二等辺三角形(5,5,8)の外接円をとり,この円周上に直線距離で5離れた点を次々にP1,P2,P3,・・・とする.そのとき中心角は2αで,2α/2πは無理数.したがって非周期的で,円周上に無限個の点が刻まれていく.

 トレミーの定理「円に内接する四角形の相対する辺の長さの積の和=対角線の積」

     AB・CD+AD・BC=AC・BD

を応用すると

  ±|P1Pj+1|=(|P1Pj|^2−25)/|P1Pj-1|

より,どの2点間の距離も有理数となる.

[系]円周上にある無限個の点集合で,どの2点間の距離も整数であるものが存在する

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【2】グラハムの定理

 しかしながら,

[定理]平面上にある4点集合で,どの2点間の距離も奇数であるものは存在しない  (グラハムの定理,1974年)

(証)4点集合は四面体が平面上に退化して体積が0になった極限と解釈することができる.点Pが平面三角形ABCの平面上になく,4点が四面体の頂点をなすときの四面体の体積公式で,6辺の長さがわかっている四面体の体積は,ケーリー・メンガー行列式Mから求められる.G=XX^t(グラミアン)とすると,G=1/8・det|M|.四面体の体積は平行六面体の1/6であるから

  V^2=1/288・det|M|

  2^3(3!)^2V’^2=|0  a^2 b^2 c^2 1|

             |a^2 0  d^2 e^2 1|

             |b^2 d^2 0  f^2 1|

             |c^2 e^2 f^2 0  1|

             |1  1  1  1  0|

となる.→コラム「三角形と四角形の幾何学(その3)」参照

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 どの2点間の距離も奇数であるような4点集合が存在すると仮定して,背理法を用いる.奇数の2乗は(2k+1)^2=4k(k+1)+1=8n+1であるから,det(M)をmod8で表すと

|0  a^2 b^2 c^2 1| |0 1 1 1 1|

|a^2 0  d^2 e^2 1| |1 0 1 1 1|

|b^2 d^2 0  f^2 1|=|1 1 0 1 1|

|c^2 e^2 f^2 0  1| |1 1 1 0 1|

|1  1  1  1  0| |1 1 1 1 0|

 平面4点集合であるから,det(M)をmod8で計算すると0になるはずであるが,実際に計算してみると4になって矛盾.

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【3】エルデシュの定理

 円周上にある無限個の点集合で,どの2点間の距離も整数であるものが存在することはわかったが,平面上の無限個の点集合で,どの2点間の距離も整数であるものは存在するだろうか?

[定理]平面上にある無限個の点集合で,どの2点間の距離も整数であるものは1直線上に乗っている  (エルデシュの定理)

(証)どの2点間の距離も整数であるような無限点集合が存在すると仮定して,背理法を用いる.同一直線上にない平面三角形ABCと任意の点Pに対して,

[1]APとBPの差はi(≦k)

[2]BPとCPの差はj(≦l)

であるから(直線に退化する場合も含み)

[1]点PはAとBを焦点とする双曲線に乗っている

[21点PはBとCを焦点とする双曲線に乗っている

 したがって,点Pは2つの双曲線の交点であるが,2つの双曲線の交点は4点で,これらの双曲線群の交点として得られる点は高々4(k+1)(l+1)個しかない.これは無限点集合であることに矛盾する.

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