■θ/πは無理数である(その2)

 (その1)では,加法公式

  tan(n+1)δ=(tanδ+tannδ)/(1−tanδtannδ)

を用いて,立方体を除く正多面体の二面角δ/πの無理数性を証明したが,今回のコラムではピタゴラス三角形を扱うことにする.

  [参]前原濶,桑田孝泰「知っておきたい幾何の定理」共立出版

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【1】ピタゴラス三角形

 直角三角形では斜辺をc,他の二辺をa,bとすると,ピタゴラスの定理「a^2+b^2=c^2」が成り立つことはよく知られています.特に,三辺の長さが整数である直角三角形をピタゴラス三角形といいます.3元2次の不定方程式a^2+b^2=c^2の整数解を求める問題をピタゴラスの問題といいますが,(a,b,c)=(3,4,5),(5,12,13),(8,15,17),・・・などがその解です.

 ピタゴラス三角形は無限にあり,その一般形にはいくつかの変形がありますが,m,nを整数,kを相似係数として

  a=k(m^2−n^2),b=2kmn,c=k(m^2+n^2)

が形も簡単で広く用いられています.

[Q]不定方程式:x^2+y^2=z^2,(x,y,z)=1はx,yのどちらか一方が2uv,他方がu^2−v^2の形で,zがu^2+v^2の形をしているとき,そのときに限り満足されることを証明せよ.ただし,(u,v)=1でuvは偶数.

[A]x^2+y^2=z^2が成立したとすれば,x,yのいずれかは偶数でなければならない.xがそうだとすれば

  (x/2)^2=(z+x)/2・(z−x)/2

しかも((z+x)/2,(z−x)/2)=1.ゆえに,

  x/2=uv,(z+x)/2=u^2,(z−x)/2=v^2

となる整数u,vが存在する.

 すべてのピタゴラス数が,

  x=2uv,y=u^2−v^2,z=u^2+v^2

のように表されることは,x^2+y^2=1上のすべての有理点が

  (2t/(1+t^2),(1−t^2)/(1+t^2))

であることによっている.

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【2】θ/πは無理数である

 ピタゴラス三角形のひとつの鋭角をθをする.θ/πは無理数である.

(証)

  a=(m^2−n^2),b=2mn,c=(m^2+n^2)

θ/πが有理数だとして矛盾を導くことにするが,回転行列Rは

  R=[cosθ,−sinθ]=[a/c,−b/c]

    [sinθ, cosθ] [b/c, a/c]

 点P=(c^n,0)とおいて,次のn点

  P,ρ(P),ρ^2(P),・・・,ρ^n-1(P)

を考えると,これらはすべて異なる格子点である.ところが,Z^2で格子正n角形は正方形に限る→コラム「格子点についての問題(その2)」参照.θ<π/2であるから,これは不可能である.

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【3】tanθは有理数でθ≠π/4ならば,θ/πは無理数である

 tanθ=m/nとすると,θ≠π/4よりm≠n.また,加法公式より,

  tan2θ=2mn/(n^2−m^2)

 したがって,2θまたはπ−2θは3辺がa=|m^2−n^2|,b=2mn,c=(m^2+n^2)のピタゴラス三角形の鋭角となることがわかる.ゆえにθ/πは無理数である.

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【4】tanθは有理数である

 コラム「格子点についての問題(その2)」において,正方格子Z^2上で格子正三角形は存在しないことを証明したが,格子正三角形のひとつの鋭角をθとすると,

  「Z^2上で格子三角形が存在するための必要十分条件は,tanθが有理数となることである」

(系)Z^2上で3つの格子点のなす角をθとする.θ/πが有理数となるのはθ=π/4,π/2,3π/4にに限る.

(系)Z^2上の格子等角n角形はn=4(長方形,正方形)かn=8(等角8角形)に限る.

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【5】雑感

(Q)τを黄金比とする.arccos(√3/2τ)の値が直角と有理比でないことを証明せよ.

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