■ペンタドロンとはなにか(その3)

 球形の素材を型に詰め込んでおいて,それをぎゅっとつぶすという過程を考えてみよう.結晶化の過程では,実際,このようなことが起こっていると考えられるが,その場合,最密充填から最疎被覆には球の中心点が面心立方格子から対心立方格子に移行しなければならない.このような移行はどのようにしたら可能になるのだろうか? 連続的それとも飛躍的におこなわれるのだろうか?

 最密充填から最疎被覆への状態移行では,球の並進運動と同時に空間の連続的な回転運動が起こらなければならないが,ペンタドロンは最密充填と最疎被覆の間の相転移のメカニズムをある程度解き明かしてくれる(はずである).しかし,もっと優れた相転移模型も考えられる.それが平行多面体同士の「変身立体」である.

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【1】平行多面体

 フェドロフの平行多面体とは平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,平行辺(したがって平行四辺形面,平行六辺形面に限られる),平行面から構成されている多面体である.フェドロフの平行多面体には立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかないことが証明されている(1885年).

 平行多面体による空間充填形はもっと高い次元の立方格子の3次元への射影になっている.平行多面体のうち14面体は切頂8面体だけであるが,切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体と相同と考えることができる.切頂8面体(f=14,d=6)の辺を点に縮めることによって,長菱形12面体(f=12,d=5)→菱形12面体(f=12,d=4),6角柱(f=8,d=4)→立方体(f=6,d=3)ができる.すなわち,6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものとなっていて,空間充填図形の基本形は切頂8面体と考えることができる.

 平行多面体5種は6次元立方体の投影図から適当に線を間引いくことによって得ることができるのである.

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【2】菱形多面体

 次に,合同な菱形だけでできている菱形多面体を考えよう.菱形のすべての稜は2方向,菱形六面体のすべての稜は3方向,菱形十二面体では4方向,菱形三十面体では6方向を向いている.また,菱形二十面体では5方向,菱形十二面体(第2種)では4方向を向いている.一般にすべての稜がn方向を向くとき,面数はf=n(n−1)となる.菱形多面体ももっと高い次元の立方格子の3次元への射影になっているのである.

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【3】デュドニー分割

 デュドニーは正三角形から正方形に等体変形するパズルを提案したが,背後には正三角形も正方形も単独で平面充填できる図形であることが重要な数理要素になっている.この分割を導くには,正方形のタイル貼りと正三角形のタイル貼りをオーバーラップさせる.その際,正方形(正三角形)の頂点同士が一点に集まる必要はなく,辺の途中に他の正多面体の頂点がきてもよいものとする.

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【4】平行多面体のデュドニー分割

 それでは平行多面体のデュドニー分割では,たとえば立方体による空間充填と切頂八面体の空間充填填をオーバーラップさせればよいのだろうか.もちろんそれも一法ではあるが,大切なことは平行多面体Aの表面は平行多面体Bの内部に移り,平行多面体Bの表面は平行多面体Aの内部の点から構成されていることである.その際,平行多面体Bの表面は平行多面体Aの内部の点だけから構成されている場合を強変身,そうでない場合を弱変身と呼ぶことにする.

 このような相互変身を考えるにあたっては,個々の多面体間(たとえば立方体と切頂八面体)の変身を考えるのではなく,一括して考えた方がよい.まず,6次元立方体による空間充填図形を2次元投影する.その図形は菱形のタイル貼りのようにみえるが,それを組み換えることによって表裏翻転図形を考えるのである.そうすれば,2次元デュドニー分割で成り立つ定理(ハドヴィガー・グリュールの定理)の類似物が3次元でも同様に成立することが自然に納得できるだろう.

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