■三角関数の拡張(その5)

 三角関数を一般化したものとしては楕円関数が代表的ですが,もう一つ別の方向の一般化として多重三角関数があげられます.これらについては既に取り上げましたが,ベッセル関数Jnも三角関数の1種といえるかもしれません.

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【1】ベッセル関数

 ベッセル関数は,惑星の運動に関するケプラー問題を解析的に表現しようと試みた天文学者・数学者ベッセルの研究にちなんでいます.惑星の軌道は太陽を中心とする楕円軌道

  r=1/(1+ecosθ)

を動きますが,距離rと角度θが時間tの関数としてどのようになるか問うのが,いわゆるケプラー問題であって、ケプラー方程式は

  E−esinE=M

Eは離心近点離角,Mは平均近点離角,eは楕円の離心率で表されます。

 ベッセル関数は三角関数に似た増減関数で,とくに,半整数次のベッセル関数は三角関数で表現できるわかりやすい関数です.

  J1/2=√(2/πx)sinx

  J-1/2=√(2/πx)cosx

しかし,三角関数の零点が一定の幅で規則正しく並ぶのに対して,任意の次数のベッセル関数の零点は単純にある値の整数倍とはいきません.

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【2】ベッセル関数の応用

 ベッセル関数は,惑星の公転にはじまって,電磁波や光の回折,振動を表すのに適していて,物理学・工学分野で広く用いられています.

 一方,統計分野では,物理学・工学分野と異なり,変形ベッセル関数が用いられます.第1種n次の変形ベッセル関数はIn(x),第2種n次の変形ベッセル関数はKn(x)で表されますが,変形ベッセル関数はx>0において非負の関数で,それぞれ単調増加,単調減少します.とくに,半整数次の変形ベッセル関数は双曲線関数で表現できます.

  I1/2=√(2/πx)sinhx

  I-1/2=√(2/πx)coshx

 確率分布との関係でいうと,正規分布のフーリエ変換は

  ∫(-∞,∞)exp(-πx^2)exp(-i2πxs)dx=exp(-πs^2)

また正規分布になります(ただし、全面積が1という原則を考慮していません).

 さらに,シンク関数とジンク関数を例として,積分変換解析法と確率分布の関係をみてみましょう.シンク関数とそれに類似のジンク関数はそれぞれ

  sinc(x)=sin(πx)/(πx)

  jinc(x)=J1(πx)/(2x)  (J1は1次のベッセル関数)

で定義されます.どちらも,光の回折の干渉縞の強度分布を表す関数であり,シンク関数は1本スリットがつくる1次元的回折像,ジンク関数は円孔スリットがつくる2次元的回折像として応用上重要であり,

  sinc0=1,sincn=0,∫(-∞,∞)sincxdx=1,∫(-∞,∞)sinc^2xdx=1,∫(0,∞)sincxdx=1/2

  jinc0=π/4,∫(0,∞)jincxdx=1

です.シンク関数は矩形分布に,平方シンク関数は三角分布にフーリエ変換されます.また,ジンク関数のアーベル変換はシンク関数であり,ハンケル変換は矩形分布となります.

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【3】補遺

 フーリエ解析と呼ばれる関数展開は,19世紀初頭,フランスの数学者・物理学者フーリエが熱伝導に関する著作の中で,任意の周期関数y=f(x)がサインとコサインの項の和,すなわち,単振動(調和振動ともいう)の和に分解されることを証明したことに始まります.

 フーリエ変換は,鉄の輪を熱したときの温度分布を解析するなど熱伝導の考察から誕生しましたが,直交座標系でなく円柱座標系や球座標系で表される温度分布では「ベッセル微分方程式」と呼ばれる特殊な形の2階常微分方程式になります.

  y”+y’/x+(x^2−n^2)y/x^2=0

 この微分方程式の一般解は,nが0または正の整数ならば

  Jn(x)  (n次の第1種ベッセル関数)

  Yn(x)  (n次の第2種ベッセル関数)

の線形結合

  y=c1Jn(x)+c2Yn(x)

となります.nが0でも正の整数でもないときは

  y=c1Jn(x)+c2J-n(x)

 n=0の場合,一般解は

  y=c1J0(x)+c2Y0(x)

となりますが,J0(x)もY0(x)も波の高さがだんだん小さくなっていきますが,xが大きくなるにつれてあまり変わらなくなり,三角関数sinx,cosxに似てきます.周期もπに近づいてきます.

 また,次数が半整数のベッセル関数は三角関数で表すことができます.

  J1/2=√(2/πx)sinx

  J-1/2=√(2/πx)cosx

  J3/2=√(2/πx)(sinx/x-cosx)

  J-3/2=-√(2/πx)(cosx/x+sinx)

 さらに重要な性質として「ベッセル関数の直交性」があります.すなわち,変数ajがJn(ajx)=0を満たす解だとすれば

  ∫(0,R)xJn(ajx)Jn(akx)dx=0

  ∫(0,R)x{Jn(ajx)}^2dx=R^2/2・{Jn+1(ajx)}^2

  ∫(0,R)xJn(ajx)dx=R/aj・Jn+1(ajx)

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