■フィボナッチ数の整除性とマチアセビッチの補題

 ロシア人のマチアセビッチにより,すべてのディオファントス方程式(不定方程式)の解の存否を判定するアルゴリズムが存在しないことが証明されています.一般に3変数以上のディオファントス方程式を解く有力な方法はまったく見つかっておらず,たとえば,x^3 +y^3 +z^3 −3=0が(1,1,1),(4,4,−5)とその並び換え以外の整数解をもつかどうかすらわかっていません.

 この証明にはフィボナッチ数の整除性のアイディアを拡張したものが使われているそうです.

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【1】フィボナッチ数の整除性

 フィボナッチ数は多くの性質をもっていて,以下にいくつか紹介しておきます.

  Fn ・Fn+2 =Fn+1^2−(−1)^n    (カッシーニの公式)

  F1 +F2 +F3 +・・・+Fn =Fn+2 −1

  F1 +F3 +F5 +・・・+F2n-1=F2n

  F2 +F4 +F6 +・・・+F2n=F2n+1−1

  F1^2+F2^2+F3^2+・・・+Fn^2=Fn ・Fn+1

 有名な幾何学的パラドックス<64cm^2 =65cm^2 >は,「不思議の国のアリス」の作者であるルイス・キャロルが創ったとも,パズルの大御所であるサム・ロイドが創ったともいわれているパズルです.きっと,いろいろな本でみたことのある方も多いと思います.このトリックは一直線をなすように使われた2つの線分の傾き3/8,5/13の相違がわれわれの視力の限界外となる錯覚を利用したもので,もっと先の数,たとえば8/21とかを使えばより巧妙なトリックになります.Fn ・Fn+2 =Fn+1^2−(−1)^n は,3つ並んだフィボナッチ数の真ん中の数の平方は前後の2つの数の積より1大きいか小さいかのどちらかで,このトリックパズルのもとになっています.

 また,

  Fn+2= Fn+1+ Fn

  Fn+3=2Fn+1+ Fn

  Fn+4=3Fn+1+2Fn

  Fn+5=5Fn+1+3Fn

  ・・・・・・・・・・・

  Fn+k=FkFn+1+Fk-1Fn

ここで,k=n,2n,・・・とすると

  F2n=FnFn+1+Fn-1Fn

  F3n=F2nFn+1+F2n-1Fn

  ・・・・・・・・・・・・・・

よりFknはFnの倍数であることがわかります,

 いいかえれば,3つ目ごとのFnが偶数,4つ目ごとのFnはF4=3で割り切れ,5つ目ごとのFnはF5=5で割り切れます.

 1876年,リュカはさらにすごい式

  gcd(Fm,Fn)=Fgcd(m,n)

が成り立つことを証明しました.

 この他のフィボナッチ数の整除性については,各素数pで割り切れるFnがあること,また,奇素数pに対して

  Fp=5^(p-1)/2  (modp)

が成り立つことなどがあげられます.

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【2】マチアセビッチの補題

 マチアセビッチの補題とは「Fmが(Fn)^2の倍数であること」=「mがnFnの倍数であること」が同値であるというものです.

 Fm=0  (mod Fn)であればm=knはわかっていますから,

Fkn=0  (mod Fn^2)

かどうかを調べてみます.

Fn≠0  (mod Fn^2)

 Fn+1=Fn-1  (mod Fn)より

  F2n=FnFn+1+Fn-1Fn=2FnFn+1  (mod Fn^2)

  F2n+1=Fn+1^2+Fn^2=2Fn+1^2  (mod Fn^2)

  F3n=F2nFn+1+F2n-1Fn=3Fn+1^2Fn  (mod Fn^2)

  F3n+1=F2n+1Fn+1+F2nFn=Fn+1^3  (mod Fn^2)

 一般に,

  Fkn=kFnFn+1^k-1,Fkn+1=Fn+1^k  (mod Fn^2)

ここで,Fn+1とFnは互いに素であるから,

  「Fkn=0  (mod Fn^2)」=「kFn=0  (mod Fn^2)」=「k=0  (mod Fn^2)」

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【補】1971年,旧ソ連のマチアセビッチは,素数全体をあるひとつのディオファントス方程式の解として表すことにも成功しています.すなわち,すべての素数をつくる式を生み出したことになるのですが,その式は37次で24個の変数をもつ多項式と21次で21個の変数をもつ多項式でした.これらの多項式は負の値もとり,また,素数は多項式の値として繰り返し出現します.

 すべての素数をもれなくつくり,しかも素数以外はつくらない公式は知られていません.素数を完全に定義する式が存在することは証明されていませんし,存在しないともわかっていません.

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