■方積問題(その4)

 「方積問題」とは正方形をすべて異なる大きさの正方形で敷き詰める問題のことですが,この問題はどのようにすれば解けるのでしょうか? 敷き詰める正方形の大きさと配置の候補があまりにも多すぎて,あらゆる可能性を試すことさえ不可能に感じられます.

 デュドニーの「カンタベリー・パズル」にはこの問題は不可能と書かれてあるとのことですし,その後,モスクワ大学のルジン教授も不可能と予想しました.長方形の正方形分割に対して,正方形を相異なる正方形に分割することは非常に難しい問題であって,一時は不可能であるとさえ考えられていたようです.

 何か系統だった方法が必要になるのですが,実はうまい方法がわかっていて,それは抵抗Rkが直列,抵抗Gkが並列に入ったはしご型回路の全抵抗は,連分数

  z=[R0:G1,R1,G2,R2,・・・]

で与えられるという電気回路の理論を使うものです.

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【1】正方形の完全正方分割

 「縦がa,横がbの長方形Kを縦横比が有理数であるような有限個の長方形に分割することができるならばa,bの比は有理数であることが必要十分条件である.」(デーンの定理,1903年)

 分割された小長方形は,縦横比が有理数という条件が付いているだけで,それぞれの長さは無理数でもかなわないのですが,分割の際,小長方形の配置は多様にありうるわけですから,この定理はまったく自明な定理とはいえません.しかし,この定理によって四角形の辺の長さは自然数で表せることになりますから「方積問題」が初めて大きく進展することになりました.

 方積問題を拡張した「長方形の正方分割」については,1925年,モロンによって33×32の長方形を9枚の正方形(1,4,7,8,9,10,14,15,18)で,65×47の長方形を10枚の正方形(3,5,6,11,17,19,22,23,24,25)で敷き詰めました.

 また,1939年,スプレーグが55枚の正方形で正方形(1辺4205)を敷き詰める例を見つだしました.しかし,この例では55枚の異なる正方形が使われたのですが,内部に正方形を敷き詰めた長方形部分が含まれているため「純粋配置」ではありませんでした.

 ブルックスが112×75の長方形を13枚の正方形を使い,2通りに敷き詰める配置を発見したことがきっかけとなって,1940年,ケンブリッジ大学の4人の学生ブルックス,スミス,ストーン,テュッテは正方形に正方形を敷き詰める系統だった手法を確立させ,ルジンの予想を覆しました.

 その方法(スミス・ネットワーク)はデーンの定理を電気回路とみなしてキルヒホッフの法則とオームの法則に帰着させて鮮やかに証明したものでした.この方法を用いて,ブルックスは正方形に69枚の正方形を敷き詰める配置を発表し,さらに検討を加えて正方形の数を26枚(1辺608)に減らしました.

 1951年,ウィルコックスは位数24,1辺175のものを発見しました.これもその中に完全長方形が含まれていましたが,それでもこれ以上位数の少ない完全正方形は存在しないだろうと予想されていました.

 1962年,デゥイヴェスチジンは正方形に正方形を敷き詰めるのに少なくても21枚の正方形が必要なことを証明し,1978年までに

  50,29,33,25,4,37,35,15,9,16,2,7,17,18,42,11,6,27,8,24,19

の21個の正方形からなる単純(分断線ができないこと)かつ完全(分割を構成する正方形がすべて異なる大きさであること)な正方形分割が最小かつ唯一(他には存在しない)のものであることを証明しました.

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【2】拡張した方積問題

 こうして方積問題解決されたのですが,類似の問題,たとえば円筒やメビウスの帯,トーラス,クラインの壷,射影平面に正方形を敷き詰める問題も存在します.メビウスの帯では1993年,チャップマンにより発見された5枚の正方形を使う配置が最小のものであるとのことですが,射影平面に正方形を敷き詰める問題になると実質的に何もわかっていない状態だそうです.

 また,正方形の完全正方分割ができたとなると,正三角形の完全正三角分割と立方体の完全立方分割も考えてみたくなりますが,不可能であることが証明されているようです.

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