■4次元正多胞体による空間充填と元素定理(その16)

 (その13)について,一松信先生よりコメントを頂戴したので紹介したい.

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【1】正軸体の場合

 n次元超立方体の頂点をうまく結んで正軸体を作ることはできる場合があります.正軸体は中心を通るn本の互いに直交する直線上に等間隔に点をとった合計2n点で作られます.したがって,座標(±1,±1,・・・,±1)(n次元ベクトル)の中からうまくn個の互いに直交する組が選べれば正軸体ができます.

 これは+1,−1を成分とする直交行列(アダマール行列とよばれる)を作るのと同一で,nが4の倍数であることが必要条件になります.逆にnが4の倍数のとき,アダマール行列ができるか?は有名な未解決問題です(たぶんそうだろうと考えられ,かなり多くのnについて正しいことがわかっています).

 だから,nが4の倍数である場合にはうまく頂点を選んで正軸体ができる場合があります(n=4はもちろんだが,n=8など).

 但し,これは中心をもとの超立方体と同じ位置にする正軸体の話です.nが4の倍数でないとき,本当にどう頂点を選んでも同じ次元の正軸体ができないかどうかは(たぶん不可能と思いますが)私の調べた限りではわかっていないようです.

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【2】正単体の場合

 正単体の場合は一層厄介ですが,たぶん不可能と思います.1辺の長さ1のn次元超立方体の頂点間の距離は1,√2,√3,・・・,√nのいずれかであり,1辺の長さaのn次元正単体の体積は(n+1)^1/2a^n/2^n/2n!ですから,格子点を結んでできる単体が正単体になりうる必要条件は(n+1)^1/2が√2,√3,・・・,√nで有理的に表される必要があります.

 これは特定のnについては可能(例えばn=3なら(n+1)^1/2=2で実際可能)ですが,n=2のとき正方格子の頂点を結んで正三角形ができない(√3が無理数のため)の証明と相通じます.n=4では(n+1)^1/2=√5が邪魔して,同様に不可能と思います.もちろんこれは可能なための必要条件のひとつにすぎず,可能な場合があるかもしれません(例えばn=8について).

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【3】まとめ

 といったわけで,この設問はもはや一般論では済まず,次元数nの整数論的な性質を考慮に入れて個々に調べなければならない難問と思います.不十分な解答ですが,とりいそぎお返事まで.

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