■未解決の予想と解決した予想(その2)

[Q]不定方程式:x^2+y^2=z^2,(x,y,z)=1はx,yのどちらか一方が2uv,他方がu^2−v^2の形で,zがu^2+v^2の形をしているとき,そのときに限り満足されることを証明せよ.ただし,(u,v)=1でuvは偶数.

[A]x^2+y^2=z^2が成立したとすれば,x,yのいずれかは偶数でなければならない.xがそうだとすれば

  (x/2)^2=(z+x)/2・(z−x)/2

しかも((z+x)/2,(z−x)/2)=1.ゆえに,

  x/2=uv,(z+x)/2=u^2,(z−x)/2=v^2

となる整数u,vが存在する.

 すべてのピタゴラス数が,

  x=2uv,y=u^2−v^2,z=u^2+v^2

のように表されることは,x^2+y^2=1上のすべての有理点が

  (2t/(1+t^2),(1−t^2)/(1+t^2))

であることによっている.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

[Q]不定方程式:x^4+y^4=z^4は整数解をもたないことを証明せよ.

[A]x^2+y^2=z^2が成立したとすれば,xを偶数として

  x^2=2uv,y^2=u^2−v^2,(u,v)=1

と書ける.もしuが偶数なら,y^2=4N+1,u^2=4N1+1,v^2=4N2,4N+1=4N1−4N2−2となって矛盾が起こるから,vは偶数である.

 ゆえに,u=z1^2,v=2w^2,y^2+4w^4=z1^4,2w^2=2u1v1,u1=x1^2,v1=y1^2,x1^4+y1^4=z1^2となるが,z1<zだからこれは不可能(x^4+y^4=z^2が整数解をもたないことから,当然x^4+y^4=z^4も整数解をもたない).

 次は,フェルマー予想

『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない』

の番である.

===================================

 フェルマーが愛読した古代ギリシアのディオファントスによる本「アリスメティカ(算術)」の欄外の余白にこの書き込みをしたのは1637年頃で,たった8文字で書かれたこの単純な式はフェルマー予想と呼ばれ,人類の頭を悩まし続け,多くの高名な数学者がフェルマー予想に挑戦したにもかかわらずことごとくそれを退けてきました.フェルマー予想は360年ものあいだ未解決の数学的難問であったのですが,1994年,イギリス人で米国プリンストン大学の数学者ワイルズがその証明に成功し,かくして「予想」は「定理」となりました.難攻不落のフェルマー城はついに落城したのです.

 フェルマーの問題は,n=1のときにはx+y=zという単なる足し算ですから,xとyにどんな自然数を入れても自然数zは必ず存在します.n=2の場合はピタゴラス方程式と呼ばれ,無数の解をもち,しかもすべての解をもれなく求めることのできる公式も知られています.n=4の場合は,フェルマー自身が無限降下法という一種の背理法を用いて0と1の中間に整数が存在するという矛盾を導き出すことによって証明が与えられました.

 指数が3以上のフェルマー方程式については,n=3の場合はオイラー(1770年),n=5の場合はディリクレとルジャンドル(1825年),n=7の場合はラメ(1839年)によって証明が与えられ,それ以上のnについては素数の場合だけを調べればよいのですが,初等的な方法では手続きが急速に複雑になって行き詰まりこれ以上進むことに限界がありました.

 個々のnに対して攻略する時代はこれで終わり,あとは一般的なnに対する攻略の道筋にまったく新しい方向性と理論を見いだす必要があったのです.最大のブレークスルーは1851年,クンマーによってなされました.クンマーは円分体の整数論の研究に専念し,正則素数であるすべてのnに対してフェルマー予想が成立することを示したのです.正則素数pはBp-3 までのベルヌーイ数Bk の分子を割り切ることのできない素数として定義されていて,100以下の非正則素数は37,59,67ですべてですから,この3つの数以外では100までのnに対してフェルマー予想が正しいことが証明されたことになります.

 1857年,クンマーはn≦100のあらゆる場合に正しいことを証明し,1937年,ヴァンディヴァーはn≦617までこれを押し進めました.さらのコンピュータの助けを借りて,1991年にはn≦1000000まで進みました.

 ワイルズは,フェルマーの定理の証明が一筋縄ではいかないことを実感して一時棚上げにしていたのですが,フライとリベットの結果にフェルマー攻略への道を確信し,研究室に7年間もこもって,彼独自のアイデアをもってとうとう証明に成功しました(1994年).

 19世紀の数学者クンマーはx^p−1=0 (p:素数)の複素数解を有理数につけ加えて,整数の概念を複素数まで拡張した円分体の整数という概念を導入することによって,フェルマーの予想を攻撃しそれに肉薄したのですが,ワイルズは楕円曲線を等分する点のつくる代数幾何学によってフェルマー予想を完全解決したことになります.

===================================