■離散体積の問題(その6)

【1】素数定理とエラトステネスのふるい

 素数定理とは,

  π(x)〜x/logx   (x→∞)

というものです.ここで,π(x)は任意の整数xを越えない素数の個数を表すものとします.素数定理は,xを超えない素数の個数を与える近似的な公式ですが,xに近い2つの連続した素数間の平均距離はおよそlogxだといってもよいでしょう.

 素数定理をエラトステネスのふるいという初等的な方法を用いて,ラフなスケッチ程度に誘導してみましょう.xまでのすべての整数うちで,奇数,すなわち2で割れない数は大体半分(1−1/2)あります.奇数のうちで,3で割り切れない数は2/3=1−1/3あります.さらに,残っている数のうち,5で割り切れない数は1−1/5あります.したがって,xを越えない素数の個数はこれらの積をすべての素数pにわたってとればよいことになり,近似的に

  Π(1−1/p)・x

に等しくなります.さらに,Π(1−1/p)は近似的に1/logxに等しくなります.ただし,これを証明するのは微積分を使っても容易ではありません.専門的で,ここで説明することはできそうにありませんから,天下り式に結果だけを示しておきます.このことを認めれば,素数定理π(x)〜x/logxが導出されたことになります.

 さらに,素数定理にはもっとうまい近似法があります.素数の密度関数はπ(x)/xですから,

  π(x)/x〜1/logx   (x→∞)

です.1/logxが1からxまでの平均的な素数の密度と考えられますが,これをxの近くの素数の密度と考え,区間[1,x]を小区間に区切って積分してみます.

  Li(x)=∫(2,x)dt/logt

Li(x)は対数積分関数と呼ばれますが,π(x)をx/logxで近似するより,対数積分を用いたLi(x)の近似はさらに適切な素数分布の近似式になっています.

 素数が無限に存在すること・√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明していますが,その証明はだれしもが容易に理解できるものです.同様に,調和級数Σ(1/n)が無限大に発散すること

  1/1+1/2+1/3+・・・=∞

も容易に示すことができます.それでは,素数の逆数の和

  Σ(1/p)=1/2+1/3+1/5+1/7+1/11+・・・

は有限でしょうか?

(証明)

 調和級数1/1+1/2+1/3+・・・は,オイラー積表示するとΠ(1−1/p)^-1と書けますから,

  Π(1−1/p)^-1〜∞.

また,logΠ(1−1/p)=Σlog(1−1/p).1/pが非常に小さいとき,マクローリン展開より,Σlog(1−1/p)〜−Σ(1/p)ですから,Σ(1/p)=∞になります.したがって,すべての素数の逆数の和は発散することが示されます.

 1737年,オイラーは素数の逆数の和が無限大になることを見つけました.このことから,素数が無限個あることは簡単にわかります.また,調和級数Σ(1/n)は発散し,また,オイラー級数Σ(1/n^2)=π^2/6で収束しますから,素数は平方数ほどまばらには分布していないこともわかります.

 さらに,このことを詳しく調べると,

  Σ(1/p)〜log(logx) (pはp≦xの素数を動く,証明略)

などがわかってきます.log(logx)は1/(xlogx)の原始関数です.

 Σ(1/p)はxに近い整数について,その素因数の個数の近似値を与えるもので,ハーディーとラマヌジャンにより明らかにされています.なお,これらの式から

  Σlog(1−1/p)〜−log(logx)

がでますが,両辺の指数をとると前にあげた

  Π(1−1/p)〜1/logx

が得られます.

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【2】誤差評価

  Σlogp/p=logx+O(1)

  Σ1/p=loglogx++C+O(1/logx)

  Π(1−1/p)=C/logx(1+O(1/logx))

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