■n次元正多面体の辺と対角線(その38)

 正n角形が半径1の円に内接している.2次元の場合,

[定理1]ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの積は頂点数に等しい.

  Π(1,n-1)dj=n

[定理2]対角線の長さの平方の逆数の和公式

  Σ(1,n-1)1/dj^2=(n^2−1)/12

[定理3]ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの平方の和は頂点数の2倍に等しい.

  Σ(1,n-1)dj^2=2n

が成り立つ(定理3は高次元でも成り立つ).

 また,コーシー・シュワルツの不等式(u・v≦|u||v|)を適用すれば,

[定理4]長さの総和の2乗と長さの2乗の総和の間に

  (Σ(1,n-1)dj)^2≦(n−1)Σ(1,n-1)dj^2=2n(n−1)<2n^2

が成り立つ.

 等式の世界は面白いが,不等式の世界だって奥深いものがある.これらの間の相加平均・相乗平均・調和平均の不等式はどうなっているのだろうか?

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[1]相加平均・相乗平均不等式

  Σ(1,n-1)dj^2/(n−1)=2n/(n−1)

  {Π(1,n-1)dj^2}^(1/(n-1))=n^(2/(n-1))

より,

  {2n/(n−1)}^(n-1)≧n^2

と同値である(ほぼ2^(n-1)≧n^2と等価).等号はn=2,3のとき.

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[2]相乗平均・調和平均不等式

  {Π(1,n-1)dj^2}^(1/(n-1))=n^(2/(n-1))

  (n−1)/Σ(1,n-1)1/dj^2=12(n−1)/(n^2−1)=12/(n+1)

より,

  n^2≧{12/(n+1)}^(n-1)

と同値である.等号はn=2,3のとき.

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[3]相加平均・調和平均不等式

  Σ(1,n-1)dj^2/(n−1)=2n/(n−1)

  (n−1)/Σ(1,n-1)1/dj^2=12(n−1)/(n^2−1)=12/(n+1)

より,

  n(n+1)/(n−1)≧6

と同値である.等号はn=2,3のとき.

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[4]チェビシェフの不等式

 チェビシェフの不等式においてb=1/aと置くと

  (Σa)・(Σ1/a)≧n^2

が証明される.

 たとえば,n=2のとき,

  (a+b)(1/a+1/b)=1+a/b+b/a+1

 a/b+b/a≧2より

  (a+b)(1/a+1/b)≧4

 

 (Σa)・(Σ1/a)≧n^2

ではn^2個の項が得られるが,n個の1と(n^2−n)/2個の項の対(各対は2以上)の分解されるから,全体の和は

  ≧n+(n^2−n)=n^2

になる.

  Σ(1,n-1)1/dj^2=(n^2−1)/12

  Σ(1,n-1)dj^2=2n

では,

  2n・(n^2−1)/12≧(n−1)^2

  n・(n+1)≧6(n−1)

と同値である.等号はn=2,3のとき.

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[5]高次元の場合

[定理5]すべての辺と対角線の長さの平方の和は頂点数の2乗に等しい.

  Σ(1,n(n-1)/2)dj^2=n^2

は成り立つが,このことから逆に

[予想1]すべての辺と対角線の長さの積は

  Π(1,n(n-1)/2)dj≦n^(n/2)

[予想2]対角線の長さの平方の逆数の和は

  Σ(1,n(n-1)/2)1/dj^2≦n(n^2−1)/24

と予想される.正しいだろうか?→それぞれ(その30)(その32)で確認済み.

 また,コーシー・シュワルツの不等式より

[定理6]長さの総和の2乗と長さの2乗の総和の間に

  (Σ(1,n(n-1)/2)dj)^2≦n(n−1)/2Σ(1,n(n-1)/2)dj^2=n^3(n−1)/2<n^4/2

が成り立つ.

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