■カンタベリー・パズルの木工製作(その26)

 平行多面体とは平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.これら5種類の図形(フェドロフの平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であり,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる.

 ところで,2006年−2007年にかけてのコラム「ボロノイ細胞と平行多面体」シリーズではいろいろな試みと発見を紹介した.たとえば,

[1]フェドロフの空間充填平行多面体は,工藤三角錐(ペンタドロンの前身)を中心にまとめることができて

  工藤三角錐(2/24立方体)×24→菱形12面体

  工藤三角錐の2分割体(1/24立方体)×24→立方体

  工藤三角錐の4分割体(中川六面体)×72→切頂八面体

  工藤三角錐の2分割体(1/24立方体)×72→長菱形12面体

  工藤三角錐の1/6蝶番返し×2×12→6角柱

となること

[2]面心立方格子のボロノイ多面体は菱形十二面体,体心立方格子のボロノイ多面体は切頂八面体であるが,球形の素材を型に詰め込んでおいて,それをぎゅとつぶすという過程を考えてみる(結晶化の過程では,実際,このようなことが起こっていると考えられる).その場合,最密充填(菱形十二面体)から最疎被覆(切頂八面体)への状態移行が問題になるが,中川宏さんの木工模型「切頂八面体 in 菱形十二面体」はこの秘密を解き明かしてくれることが大いに期待されること

[3]切頂八面体 in 菱形十二面体模型では表裏逆転現象が起こっていること(切頂八面体の表面になっていた部分が内側に隠れてしまい,反対に切頂八面体の内部にあった面が表面に現れる,この様子は生物の発生において神経板から神経管に移行する過程で神経外胚葉の表と裏が完全に入れ替わるという現象にたとえられる)

[4]菱形十二面体と切頂八面体の間の相互移行が可能な立体蝶番返しを作ることができれば(パズル愛好家がよろこぶものになるばかりでなく)直接,最密充填と最疎被覆の間の相転移のメカニズムを解き明かしてくれるということ

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 デュドニーのカンタベリー・パズルは「平面ハトメ返し」による分割合同なのですが,立体の2つの断片のどれかの辺を蝶番でつなぐことによって「立体蝶番返し」を考えることができます.菱形十二面体や切頂八面体はよく知られた空間充填立体ですが,実際,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返しなど空間充填形同士の蝶番返しが作られています.

 しかし,その当時の中川宏さんの検討では,菱形十二面体と切頂八面体の間の相互移行が可能な立体蝶番返しはうまくいきませんでした.

  ○菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し

  ○切頂八面体と直方体の間の立体蝶番返し

  ×菱形十二面体と切頂八面体の間の立体蝶番返し

 それを秋山仁先生が(発想の逆転によって)切頂八面体と菱形12面体(第3種)のリバーシブル分解合同を可能にしたというわけです.となれば,次は平行多面体5種間のリバーシブル分解合同問題ということになります.私も遅ればせながら再チャレンジしてみるつもりです.

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