■カンタベリー・パズルの木工製作(その25)

 カンタベリー・パズルは「平面ハトメ返し」による分割合同なのですが,その際,正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されています.この立体版の分割「立体蝶番返し」も考えることができます.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものです.これはデュドニー分割よりも難しいリバーシブル問題ですが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」があげられます.

 菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返しが「キツネヘビ」,切頂八面体と直方体の間の立体ハトメ返しが「ブタハム」なのですが,空間充填形同士のハトメ返しを作られ,講演ではそのような小道具を使って菱形十二面体,切頂八面体の体積を求めておられます.また,このとき多面体の形が変形するばかりでなく,菱形十二面体,切頂八面体の表面が直方体の内部に隠れることを利用して,黄色(キタキツネ)を緑(ヘビ)に変色させ,キタキツネが一瞬にしてヘビに飲み込まれる様子を表現しています.

 ここでは切頂八面体と菱形十二面体の間の等積変形,いわば「ブタヘビ」を考えることにします.結論を先にいうと,切頂八面体から菱形十二面体への直接的な等積変形は不可能にしても,切頂八面体から2種類の菱形からなる菱形十二面体への「リバーシブル分解合同」は可能なのではなかろうかと秋山先生は考えたに違いありません.そして実際に可能であったのですが,今回はそのレポートをしてみます.

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【1】切頂八面体(菱形12面体)と立方体の分解合同

 2個の切頂八面体を切断して1個の立方体に並び替えるのは難しくはない.切頂八面体の正方形面を対角線で切断して4等分した多面体を8個組み合わせればよい.しかし,1個の切頂八面体から1個の立方体を作るという問題は難しいだろう.

  [参]Frederickson GN: Dissections: Plane and Fancy, Cambridge University Press, 1997

は2次元・3次元の分割パズルのコレクションであるが,これには等分でない13ピースの解が掲げられている(p241).これはリバーシブル分解合同の例ではない.

 同様に,1個の菱形十二面体を切断して2個の立方体に並び替えるのは難しくはないが,1個の菱形十二面体から1個の立方体を作るという問題は難しい.これも等分ではない13ピースの解が知られている(p242).しかし,これもリバーシブル分解合同の例ではない.

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【2】切頂八面体と菱形12面体(第3種)のリバーシブル分解合同

 [1]では切頂八面体をその正六角形の対角線と正方形の対角線に沿って表面を切開してから13ピースに分割している.その際,切頂八面体の表面は2個の四角錐台と4個の屋根型とに切開される.それを切頂八面体の中心に向かって6ピースに(不等分)分割するとリバーシブル分解合同の例が得られる.

 著作権の関係で図や写真は転載できないが,発想の転換というか,どこか秋山先生の「執念」を感じさせる着想である.ともあれ,このようにして,秋山仁先生は2種類の菱形からなる菱形12面体(第3種)を発見されたわけであるが,2種類の菱形とは対角線の長さの比が√2:√3:√5のもの8枚と1:2:√5のもの4枚である.

 なお,辺の長さが√2:√3:√5の直角三角形はコラム「三角形の7等分」「縮小三角形の問題」で紹介した三角形,辺の長さが1:2:√5の直角三角形は同形4つだけでなく,5つにも分割できる特殊な三角形(レプ5三角形)である.

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【3】雑感

 秋山先生はこのようなリバーシブルな等積変形多面体をすべて決定する試みをされている.xxxをすべて決定するという試みは簡単ではないと思えるのだが,すでにある程度の結論は得られていたことをレポートして,本稿の結びとしたい.

 なお,合同な菱形だけでできる多面体は菱形30面体までで,42面以上の菱形多面体は2種類以上の菱形からなることを申し添えておきたい.たとえば,菱形90面体は対角線の長さの比が1:τ^2(2.618)の菱形30枚と白銀菱形60枚から構成される美しい形の多面体であり,10次元空間における立方体を3次元空間に射影したもの,菱形132面体は3種類の菱形からなり,12次元空間の立方体を3次元空間に射影したものである.

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