■カンタベリー・パズルの木工製作(その24)

 1905年,英国王立協会において,デュドニーはマホガニー板の断片が真鍮のはと目でつながれた幾何学パズルの実演を行った.正三角形を4つに切断して正方形を作るパズルはあっというまに正三角形と正方形が交代する見事な仕掛けで,専門の数学者たちもあっと驚き,デュドニーのセンスを賞賛したという.

 この図形分割と再構成の問題は,ボヤイ・ゲルヴィンによる等積多角形の分解合同定理(1833年)に基づいたもので,著書"Canterburry Puzzle"に書かれていることからカンタベリー・パズルとも呼ばれる.

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 カンタベリー・パズルはデュドニーの代表作である.それを基に歯車付き作品に昇華したのは,東海大学芸術工学部の山口康之先生である.山口先生は,歯車機構を使ってこの複雑な幾何学的切断プロセスの再現する試みをされておられるのだが,試作品のカラクリ自体を明らかにされたわけではないので,それを想像してみることにしよう.

 歯車機構を使ってこの複雑な幾何学的切断プロセスを再現しようとする場合,まず不動点を設定することが必要になる.正三角形がどのように4つの断片に切られて正方形になるかを図示すると,正三角形の辺の2等分点を固定し,それを中心として三角形の高さを半径とする円弧を描くことになる.

 正三角形の底辺の半分と高さの比は1:√3である.黄金比や1:√2(白銀比)に対して,1:√3には白金比という呼び名もあるらしい.連分数展開

  √3=[1:1,2,1,2,・・・]

を使えば,√3の分数近似を得ることができる.

 しかし,2つの歯車だけで4つの小片を用いた正三角形から正方形への解体再編は不可能である.解体再編を可能にするには4つの歯車が必要になると思われるが,それで十分かは甚だ疑問である.山口先生はカンタベリー・パズル以外ににも多数の変身図形の木工製作を手がけられておられるから,機会があったら,山口先生ご自身に解説していただきたいと考えている.

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