■高次元正多面体の元素定理(顛末記・続々)

 3次元と4次元は正多面体の元素数が減少する特殊な次元といえるが,そこには別のもっと深い幾何学的な事情があり,n(≧5)次元正多胞体の元素数は≧3であると考えられる.その理由を述べてみたい.

===================================

 このシリーズではこれまで直角三角錐(RT=Δ3,RP=Δ4,・・・)がn次元の正多面体の元素定理の本質をなしていることをつきとめた.3次元正多面体の元素定理でカギを握っているのが直角三角錐(RT:right tetra)であることに気づけば,任意のn次元でも直角三角錐が有用になると考えるのは自然な発想,自然な成り行きであろう.

 n次元の直角三角錐2^n個で正2^n胞体ができる.また,この図形n!個の体積は1辺の長さ2の正2n胞体(体積:2^n)と等しくなる.正2n胞体からはこの図形を2^n-1個を取り除くことができる.

[1]元素数の減少が起こる理由

 3次元では立方体から直角三角錐を4個取り除くと正四面体,4次元では正8胞体からRPを8個取り除くと16胞体になるため,元素数がひとつ減る.さらに,4次元の特殊性として192個のRPから正24胞体が構成されるため,もうひとつ元素数は減るのである.

[2]元素数の減少が起こらない理由

 5次元以上の空間では直角三角錘2^n-1個を取り除くと正多面体にならず,1種の準正多面体になる.また,2次元では正方形から直角三角形を2個取り除くと何も残らない.これが各次元における元素定理の正体なのである.

===================================

[Q]3次元では立方体から直角三角錐RTを4個取り除くと正四面体,4次元では正8胞体からRPを8個取り除くと16胞体になるが,5次元以上の空間では5次元以上の空間では正多面体にはならない.それでは芯の形はどのようになるのだろうか?

[A]5次元正16房体は32頂点(±1,±1,±1,±1,±1)を結んでできる.5次元正16房体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,(1,1,1,1,1),(1,1,1,−1,−1),(1,1,−1,1,−1),(1,1,−1,−1,1),(1,−1,1,1,−1),(1,−1,1,−1,1),(1,−1,−1,1,1),(−1,1,1,1,−1)(−1,1,1,−1,1)(−1,1,−1,1,1)(−1,−1,1,1,1),(1,−1,−1,−1,−1)(−1,1,−1,−1,−1),(−1,−1,1,−1,−1)(−1,−1,−1,1,−1),(−1,−1,−1,−1,1)の合計16頂点が得られる.

 すでにお気づきであろうが,

  (n,0)+(n,2)+(n,4)+・・・

すなわち,nが奇数の場合は

  (n,0)+(n,2)+(n,4)+・・・+(n,n−1)

nが偶数の場合は

  (n,0)+(n,2)+(n,4)+・・・+(n,n)

で,いずれの場合も合計2^(n-1)頂点が得られることもおわかりいただけたであろう.

 (1,1,1,1,1)を中心として,他の頂点と結んだベクトルは(0,0,0,−2,−2),(0,0,−2,0,−2)などとなる.ひとつの頂点からは(5,2)=10本のベクトルがでるが,互いに60°で交わる長さ2√2のベクトルとなる(正5胞体).頂点数は16,4次元面の形は正5胞体となる.

 n次元空間の正多胞体(n≧5)は

        境界胞体    頂点   双対性  対応

(n+1)胞  n胞体     n+1  自己双対 正4面体・5胞体

2n胞体  (2n−2)胞体  2^n   2^n胞体 立方体・8胞体

2^n胞体    n胞体     2n 2n胞体 正8面体・16胞体

の3種類だけであるから,5次元以上の空間では芯(頂点数2^n-1)は正多面体にならず,1種の準正多面体になることがわかる.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 ついでに,6次元の場合を調べてみると,6次元立方体は64頂点(±1,±1,±1,±1,±1,±1)を結んでできる.6次元立方体の中心からひとつおきの頂点を結んだベクトルをとると,±(1,1,1,1,1,1),±(1,1,1,1,−1,−1),±(1,1,1,−1,1,−1),±(1,1,1,−1,−1,1),±(1,1,−1,1,1,−1),±(1,1,−1,1,−1,1),±(1,1,−1,−1,1,1),±(1,−1,1,1,1,−1),±(1,−1,1,1,−1,1),±(1,−1,1,−1,1,1),±(1,−1,−1,1,1,1),±(1,1,−1,−1,−1,−1),±(1,−1,1,−1,−1,−1),±(1,−1,−1,1,−1,−1),±(1,−1,−1,−1,1,−1),±(1,−1,−1,−1,−1,1)の合計32頂点が得られる.これらの16本の軸は直交しない.

 たとえ8次元であっても,24次元であっても芯は正多面体にならず,1種の準正多面体になることがおわかりいただけるであろうか.

===================================

[雑感]

 正多面体の元素定理の観点からすると,3次元と4次元は特殊な次元といえるが,平行多面体の元素定理の観点からは

  2(2^n−1)=2^n+2n

の解であるn=3は最も特異な次元である.

 8次元空間と24次元空間も特別な次元であるが,なぜそうなのかという真の理由はいまでも完全にはわかっていない.ミルナーは8=3^2−1,24=5^2−1であることから,特別な次元は(素数)^2−1かもしれないと冗談交じりにいっているが,もしそれが正しいのなら2^2−1は最も特別な次元である.なぜなら2は最も特異な素数(偶数である唯一の素数)であるからである.

===================================