■スターリングの公式の図形的証明?(その17)

 (その16)において,最適な中接球(r^2=1/(n−j))を考えて,『n→∞になるにつれて

  ((n/2)!/2)^-2/nπn^2/16=n−j

  ((n/2)!/2)^-2/nπn/16=(n−j)/n=(1−j/n)

  ((n/2)!/2)^-2(πn/16)^n=(1−j/n)^n→exp(−j)

であるから,

  −j→−2log((n/2)!/2)+nlog(πn/16)

  (n/2)!→√(πn)(n/2)^n/2exp(−n/2)

より

  −j→−log(πn)−nlog(n/2)+n+2log2+nlog(πn/16)=nlog(πe/8)+log(4/πn)=0.0652875n+0.241565−logn

に近づいていくのである.』

とした.

 しかし,この計算は2つの意味で正しくない.

(1)スターリングの公式の相対誤差は減少するが,絶対誤差はxの増大とともに増大する

(2)計算の仕方が技巧的すぎる

(1)は修正不能だが,ここでは(2)について再考してみたい.

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【1】スターリングの公式

 数列{an}と{bn}がともに無限大に発散し,差{an−bn}は無限大に発散するが,比{an/bn}は1に近づくという例に,xを越えない素数の個数を与える近似的な公式(素数定理)

  π(x)〜x/logx

や階乗n!の近似値を与える公式として有名なスターリングの公式があります.

  n!〜√(2πn)n^ne^-n

 ”〜”記号は漸近的に等しい,すなわちxが十分大きいとき両者の比が1に近づくという意味であって,両者の差がなくなるという意味ではありません.いいかえれば,この近似式の絶対誤差はxの増大とともに増大するが,相対誤差は減少する,つまり,左辺と右辺の比はxを∞にすると極限が存在して0でも無限大でもなく,1に収束する,

  π(x)/(x/logx)〜1   (x→∞)

  n!/(√(2πn)n^ne^-n)〜1   (n→∞)

ということです.

 スターリングの公式を誘導してみましょう.

  logn!=log1+log2+・・・+logn=Σlogx

ここで,y=logxのグラフを幅が1の長方形に分割していくと,xが十分大きければ相対的に和の間隔が小さくなるので,和は積分に置き換えられます.

  Σlogx≒∫(1,x)logtdt

logxの原始関数は置換積分よりxlogx−x+Cと計算されますから,右辺はxlogx−x+1となります.したがって,

  n!≒en^ne^-n

が得られます.

  logn!=nlogn−n+o(n)

     ただし,limo(n)/n=0

としても大体了解されますが,もっと正確に近似すると

 ∫(0,n)logtdt<logn!<∫(1,n+1)logtdt

より

  nlogn−n<logn!<(n+1)log(n+1)−n

したがって,両辺の相加平均に近い(n+1/2)logn−nでlogn!を近似できることになり,

  ∫(1,x)logtdt

  =log1+log2+・・・+logx−1/2logx+δ

であること,また,ウォリスの公式

  √π〜(n!)2 22n/(2n)!√n

より,結局,

  n!〜√(2πn)nn e-n

にたどりつきます。

 スターリングの近似公式は階乗の一般化であるガンマ関数の近似値としても使われています.

  Γ(x+1)=∫e^-tt^xdt〜√(2πx)x^xe^-x

近似の程度を進めると

  Γ(x+1)〜√(2πx)xx e-x[1+1/(12x)+1/(288x^2)-139/(51840x^3)-.....}

が得られます.これらの公式ではxが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.

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【2】計算方法の訂正

 しかがって,絶対誤差

  n!−√(2πn)n^ne^-n

が±∞のどちらになるかによって答えは違ってくるのだが,このまま計算を続行したい.

  j=n−((n/2)!/2)^-2/nπn^2/16

 n→∞のとき,スターリングの公式より

  (n/2)!→√(πn)(n/2)^n/2exp(−n/2)

  ((n/2)!/2)^-2/n→(πn/4)^-1/n(n/2)^-1e=(2e/n)(4/πn)^1/n

  j→n−eπn/8・(4/πn)^1/n=n(1−eπ/8・(4/πn)^1/n)

 コラム「シュタイナー数とシュタイナー点」では,y=x^1/xはx=eのとき最大値y=1.4446647861・・・(シュタイナー数)をとることを紹介した.

(証)logy=(logx)/x

   y'/y=(1−logx)/x^2

   y’=(1−logx)x^(1/x-2)

より,y=x^(1/x)は,x=eのとき,最大値e^(1/e)=1.4446・・・をとる.

 厳密でないうえ,非常に微妙なところではあるが,

  πe=8.539・・・

より,j→−∞となり,(その16)と逆の結果になった.この辺の事情は2つの値

  e^π=23.14069・・・

  π^e=22.45915・・・

がほとんど同じくらいになることと通じるものがあるのであろう.

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【3】まとめ

  −j→0.0652875n+0.241565−logn

では,

  −j/n→0.0652875

  j→n(1−eπ/8・(4/πn)^1/n)

では

  j/n→1−eπ/8=0.067

であるから,いずれにせよ「内接球(r^2=1/n,j=0)は最適もののではないにせよ,かなりいい線をいっている」ことがわかった.

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