■正弦・余弦の和公式・積公式

 先日,一松信先生より「数研通信」を謹呈していただいたのですが,その中に掲載されていた

  木村嘉宏「余弦の和と積」京都府立網野高校

を紹介したいと思います.

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[1]正弦・余弦の和公式

 等差級数

  S=1+2+3+・・・+n

の値を求めるのに,逆順にして

  S=n+(n−1)+(n−2)+・・・+1

辺同士を加えると

  2S=(n+1)+(n+1)+(n+1)+・・・+(n+1)

より,

  S=n(n+1)/2

 これが等差級数の和公式で,これを使うと,たとえば1から100まで数の合計が5050であることが瞬時に計算できることはご存知であろう.

 この取り扱いと似た方法で,正弦の和公式

  sinα+sin2α+sin3α+・・・+sinnα

 =sinnα/2sin(n+1)α/2/sinα/2

を証明してみよう.

(証明)

  T=sinα+sin2α+sin3α+・・・+sinnα

  T=sinnα+sin(n−1)α+sin(n−2)α+・・・+sinα

 ここで,和から積への式

  sinα+sinβ=2sin(α+β)/2cos(α−β)/2

を用いると

  2T=2sin(n+1)α/2{cos(1−n)α/2+cos(3−n)α/2+・・・+cos(n−3)α/2+cos(n−1)α/2}

 両辺にsinα/2を掛けて,積から和への公式

  sinαcosβ=1/2{sin(α+β)+sin(α−β)}

を用いると

  2Tsinα/2

=sin(n+1)α/2{sinnα/2+sin(1−n/2)α+・・・+sin(−1+n/2)α+sinnα/2}

=2sin(n+1)α/2sinnα/2

 同様に,余弦の和公式

  cosα+cos2α+cos3α+・・・+cosnα

 =sinnα/2cos(n+1)α/2/sinα/2

も証明できる.これらの式において,α=π/nとおくと

  Σsinkπ/n=cotπ/2n

  Σcoskπ/n=1

 さらに,

  sinα+sin3α+sin5α+・・・+sin(2n−1)α=sin^2nα/sinα

  cosα+cos3α+cos5α+・・・+cos(2n−1)α=sin2nα/2sinα

α=π/(2n+1)とおくと,

  Σcos(2k−1)π/(2n+1)=1/2

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 とくに,後者に対しては三角法(座標幾何学)の代わりに複素数を使ったアプローチが考えられるところである.とりわけ複素数(複素指数関数)は有望であるように思われる.また,nの固定値(n=5とかn=6,n=9など)に対しても証明できるが,一般的なnの場合を扱うことにする.

 複素平面上の単位円にn個の頂点z0=1,z1,z2,・・・,zn-1をもつ正n角形が内接しているとする.

  zk=cos(2kπ/n)+isin(2kπ/n)

z0〜zn-1は方程式z^n−1=0の根である.また,

  z^n−1=(z−1)(z^n-1+・・・+z+11)

より,z1〜zn-1は方程式z^n-1+・・・+z+1=0の根である.

 なお,

  z^n-1+・・・+z+1=(z−z1)(z−z2)・・・(z−zn-1)

と因数分解できるが,ここでz=1を代入すると

  (1−z1)(1−z2)・・・(1−zn-1)=n

  |1−z1||1−z2|・・・|1−zn-1|=n

となって,コラム「n次元正多面体の辺と対角線(その18)」で紹介した

[定理]正n角形が半径1の円に内接している.ひとつの頂点からでるすべての辺と対角線の長さの積は頂点数に等しい.

が証明される.

 同様に,z^2n+1=1の虚数解を調べることによって,

  Σcos2kπ/(2n+1)=−1/2

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[2]正弦・余弦の積公式

 正弦・余弦の和公式はフーリエ級数との関連で研究された歴史がある.一方,和公式ほどよく知られていないが,正弦・余弦の積公式としていろいろな公式が登場してくる.ここでは証明は省いたが,複素数を使って証明するのが一番の近道であろう.

  Πsinkπ/n=sinπ/n・・・sin(n−1)π/n

          =n/2^(n-1)

  Πsin(θ+kπ/n)

 =sin(θ+π/n)・・・sin(θ+(n−1)π/n)

 =sinnθ/2^(n-1)sinθ

 ここで,θ→θ−π/2nと置き換えれば

  Πsin(θ+(2k−1)π/n)=cosnθ/2^(n-1)

θ=0とおけば

  Πsin((2k−1)π/n)=1/2^(n-1)

また,θ=π/2とおけば

  Πcoskπ/n=sin(nπ/2)/2^(n-1)

などを導き出すことができる.

 同様に,

  Πcoskπ/(2n+1)=1/2^n

 cosπ/3=1/2であるから,この等式はn=1の場合も成り立つ.

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