■スターリングの公式の図形的証明?(その14)

 スターリングの公式の図形的近似式

  n!/n^n≒2(π/8)^n〜√(2n/π)(π/8)^n

において,

  n!は直角三角錐(あるいは球の体積)

  n^nは立方体  (あるいは球の半径)

と関係している部分である.

 今回のコラムでは,この図形的近似式の上界・下界評価をしてみたい.

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【1】自明な不等式(八面体と切頂八面体の体積比較)

  n次元切頂八面体の体積=1/2・(2/n)^n

また,切頂した分(n個分)の体積は,1象限分の直角三角錐の体積が1/n!であるから,

  (1−2/n)^n・n/n!

で与えられる.

 したがって,不等式

  1/n!≦1/2・(2/n)^n+(1−2/n)^n・n/n!

が成り立つ.しかし,このままでは扱いにくいので,n→∞とすると

  1/n!≦1/2・(2/n)^n+e^-2・n/n!

  (1−n/e^2)/n!≦1/2・(2/n)^n

n!/n^n≧(1−e^2n)/2^n-1

となって,当たり前の評価になってしまう.

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【2】自明な不等式(正八面体とその外接球・内接球の体積比較)

[1]n次元正軸体の体積は2^n/n!,その外接球の体積は

  π^(n/2)/Γ(n/2+1)

であるから,体積比較は

  π^(n/2)/Γ(n/2+1)>2^n/n!

と書くことができる.

 偶数次元(n=2k)の場合を考えることにするが,

  π^(n/2)/Γ(n/2+1)=π^k/Γ(k+1)=π^k/k!

  2^n/n!=2^2k/(2k)!

  (2k)!/k!>(4/π)^k

  (k+1)(k+2)・・・(2k)>(4/π)^k

[2]一方,内接球の半径は1/√nであるから,

  π^(n/2)/Γ(n/2+1)・1/n^n/2<2^n/n!

  (2k)!/k!(2k)^k<(4/π)^k

  (2k)!/k!k^k<(8/π)^k

  (1+1/k)(1+2/k)・・・2<(8/π)^k

 どちらも自明な不等式であるが,スターリングの公式の上界・下界評価には役立たない.そこで,ウォリスの公式:

  √π〜(n!)^22^2n/(2n)!√n

  √nπ〜(n!)^22^2n/(2n)!

を適用すると

[1]k!>√(kπ)/π^k

[2]k!/k^k<√(kπ)(2/π)^k

となって,[2]は軸体と切頂正軸体の体積比較によって得られた不等式

  k!/k^k≦2(1/2)^k

より若干劣るものとなった.

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【3】接近する不等式(n次元切頂八面体と正八面体の外接球・内接球の体積比較)

 n次元正軸体には外接球と内接球以外にも各種中接球もあり,それらとn次元切頂八面体の体積を比較することは意味がありそうだ.

  頂点を通るもの(外接球):r=1

  辺の中点を通るもの:r=1/√2

  面の中心を通るもの:r=1/√3

  3次元面面の中心を通るもの:r=1/√4

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  n−1次元面の中心を通るもの(内接球):r=1/√n

 内接球がスターリングの公式の近似には役立ち,その結果が

  n!/n^n≒2(π/8)^n〜√(2n/π)(π/8)^n

であった.

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【4】接近する不等式?

 その他に役立ちそうな球といえば,n次元切頂八面体の切頂面を通るものだろう.

 正軸体の切頂では,S=n(n−1)/2として

 → x=(n−1)/S,y=(n−2)/S,z=(n−3)/s,・・・,w=0

となる.したがって,ここを通る球(外接球)の半径Rは

  R^2=x^2+・・・+w^2=(n−1)n(2n−1)/6S^2

    =2(2n−1)/3n(n−1)

 一方,内接球というわけではないが,

  x=(n−1)/S=2/n

として,(x,0,・・・,0)で接する球の半径rはr=2/nで与えられる.

 それぞれの体積は

  π^(n/2)/Γ(n/2+1)・R^n,π^(n/2)/Γ(n/2+1)・r^n

であるから,n=2kのとき,

[1]π^k/k!・{(4k−1)/3k(2k−1)}^k

[2]π^k/k!・{1/k}^2k

 これらとn次元切頂八面体の体積

  1/2・(2/n)^n・2^n=1/2・{1/k}^2k・2^2k

を比較する.

[1]このままでは扱いにくいので,k→∞とすると

  {(4k−1)/3k(2k−1)}→(2/3k)

 したがって,

  π^k/k!(2/3k)^k≧1/2・{1/k}^2k・2^2k

という不等式になることがわかる.整理すると

  k!/k^k≦2(π/6)^k

となって,正軸体と切頂正軸体の体積比較によって得られた不等式

  k!/k^k≦2(1/2)^k

より若干劣るものとなった.

[2]kが大きくなるにつれて

  n次元切頂八面体の体積>球の体積

となることは明らかである.なぜなら

  1/2・{1/k}^2k・2^2k>π^k/k!・{1/k}^2k

を整理すると

  k!>2(1/2)^k・(π/2)^k

  k!/k^k>2(1/2)^k・(π/2k)^k

という自明な不等式である.

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【5】まとめ

  2(1/2)^k・(π/2k)^k≦k!/k^k≦2(1/2)^k

の下界は自明な不等式であり,もっと正確な近似が必要であることがわかるだろう.整理してみると

  n!≧2(1/2)^n・(π/2)^n=2(π/4)^n

となって,

  2^(n-1)≦n!≦n^(n-1)

よりももっと粗い評価式になっていることを申し添えておきたい.すなわち,

  1/2・(2/k)^k≦k!/k^k≦2(1/2)^k

 球体による多面体近似の難しさについてはいろいろ解説されていて,たとえば,次元が上がると単位立方体に内接する球体の体積が無視できるほどになる「高次元のパラドックス」があげられる.

 幸い,ここで考えているn次元切頂八面体の面数(=頂点数)は2^n+2nと指数関数的なので,球体と較べてもいい線をいっているのではないかと思われる.

 なお,面数2(2^n−1)の空間充填多面体(置換多面体,頂点数(n+1)!)を使えばよりよい上界・下界評価が可能になるかもしれないが,計算はかなり面倒になるだろう.

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