■面正則多面体の展開図とシェパードの定理(その16)

 面正則多面体を辺に沿って切り開いた展開図のうち,少なくともひとつがタイル貼りできる性質(TP)をもつ多面体をすべて決定せよというのが「シェパード問題」です.

 この問題は手軽で面白く,小学生でもその気になれば取り組むことができます.昨年,この問題は数セミの「エレガントな解答を求む」にも出題されたことから,ご存じの方も多いと思います.

 考察の対象となる面正則多面体は

[1]正多面体:  5種類

[2]準正多面体:  13種類

[3]アルキメデス角柱:  無限系列

[4]アルキメデス反角柱:  無限系列

[5]JZ多面体:  92種類

ですが,シェパード先生は自ら14種類(正12面体を除く4種類の正多面体と10種類のJZ多面体J1,J12-17,J51,J84,J86)がTP多面体であることを示しました.

 その後,秋山仁先生らによって新たに8種類(六角反柱,J10,J49-50,J87-90)のTP多面体が発見されましたが,最終的にいくつあるのか完全には決定できないままになっていました.

 最近,ステファン・ランゲルマン氏によってJ8が最後のTP多面体であることが証明され,これでTP多面体のリストは,以下の23種類ですべてであると決定されました.

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【1】TP多面体のリストアップ

[1]正多面体:  正12面体を除く4種類

[2]準正多面体:  すべてNG

[3]アルキメデス角柱:  四角柱(立方体)

[4]アルキメデス反角柱:  六角反柱,三角反柱(正八面体)

[5]JZ多面体:  18種類(J1,J8,J10,J12-17,J49-51,J84,J86-90)

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【2】雑感

 シェパード先生や秋山先生の成果はいろいろ試した結果であって,すべての組み合わせについてしらみつぶしに検索したわけではないですし,試行錯誤でそこまでやることは到底出来ません.本質的にコンピュータによる解析なしに解決し得ない問題なのです.

 コンピュータ計算による網羅的な探求の例としては,以下の2つの有名な極値問題が解決されたことがあげられます.

(1)1988年,ヘールズはケプラーの球の詰め込み問題(1611年)が正しいことを示した.

(2)1976年,ハーケンとアッペルは4色問題(1852年)が正しいことを示した.

 膨大な数のすべての組み合わせについて漏れなく探索するためにはコンピュータプログラムが必要になるわけですが,ひとつの多面体であっても展開図の個数は非常に多くなってしまいます.以前,オルーク先生にうかがったところによると(いまのところ)シェパード問題に対するアルゴリズムはないということでした.

 したがって,ステファン・ランゲルマン氏は非常に短時間で新規のアルゴリズムを実装し,コンピュータを用いて探索したことになるわけです.とはいえ,探索には長時間を要し,例えばJ85がTPでないことを示すのに,彼の適用機器とシステム構成をもってしても稼働時間が3日もかかってしまったそうです.

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