■グノモンによる図形的証明?

 数論の学び初めに

  奇数の和=平方数   (Σ(2k−1)=n^2)

に出会う.グノモンはこの結果を示すのに用いられる.

 さらに,秋山仁先生に

  立方数の和=三角数の平方   (Σk^3=(n(n+1)/2)^2)

の証明用の数学模型を見せていただいたが,列和だけでなく,グノモン型の和をとり,2通りの方法で計算することにより得られる等式であることが明確になる.この計算は,家計簿つけのシーンに似ている.まず行ごとの合計を求めてそれを総計する.次に列ごとの合計を求めてそれを総計する.そして計算が正しければその2つの計算結果は一致する.

 ところが,・・・

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【1】グノモンについて

 「ユークリッド原論」第2巻に収蔵されているグノモンについては酷評がつきまとう.「ユークリッド原論」の代数あるいは数論には「素数は無限に存在する」「ユークリッドの互除法」「√2は有理数ではない」「ピタゴラスの定理」など,非常に貴重でしかも証明が美しい定理があるのに,なぜこんな議論を「原論」に収録したのだろうか,等々.

 とはいっても,ある研究者にとって「グノモン」は重要なようだ.たとえば,四角形の図から、

  (a+b)^2=a^2+b^2+2ab

といった具合で,グノモンを応用して,代数を研究しているように見える.

 この方法(幾何学的代数)はバビロニアの数学起源のものらしいが,ユークリッド原論では第1巻,第3巻が三角形を中心とする「ユークリッド幾何学的」なのに,第2巻のみでグノーモンを扱うのは唐突な感じがするのであろう.第二巻がほかの巻と何の関連もなく,唐突で不自然な感じであり,ユークリッドが理論について未完成,未消化のままこの巻を執筆したことは確実だと思われる.

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【2】係数gkの整除性

  gk=(k^2)!/1・2^2・・・k^k・(k+1)^k-1・・・(2k−1)

において,

  g1=1,g2=2,g3=42,g4=24024

  g5=701149020

  g6=1671643033734960

  g7=475073684264389879228560

  g8=22081374992701950398847674830857600

 kが非常に大きいときの近似値を与えるスターリングの漸近近似公式

  k!=√2π・k^(k+1/2)・exp(−k)=√(2πk)・(k/e)^k

を利用して,gkの漸近挙動を調べてみたところ,この式は指数関数よりも階乗関数よりも速やかに増加することがわかった.

 また,以降g100まで整数であることを確認した.もはやこの式の整除性を疑うことはできまい.しかし,gkが整数であることは決して自明ではなく,にわかには信じがたいと思うのは私だけだろうか?

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【3】グノモン分解による整除性の証明

 項比は

  gk+1/gk=((k+1)^2)!/(k^2)!・(k+1)^2・・・(2k)^2・(2k+1)

  ((k+1)^2)!/(k^2)!=(k^2+1)(k^2+2)・・・(k^2+2k+1)

 したがって,連続する2k+1個の自然数の積

  (k^2+1)(k^2+2)・・・(k^2+2k+1)

には(k+1)の倍数が少なくとも2個,・・・,(2k)の倍数が少なくとも2個,(2k+1)の倍数が少なくとも1個あるかという問題になる.

 連続するk個の自然数の積はk!で割り切れることを使って証明を試みたが,うまくいかなかった.無駄があるためである.しかし,グノモンを使うとうまく証明できるのである.

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 (k+1)!をグノモン分解するほうがわかりやすい.すなわち,

  (k+1)^2=1+3+・・・+(2k−1)+(2k+1)

として,k+1番目のグノモンが,

  (k^2+1)(k^2+2)・・・(k^2+2k+1)

というわけである.

 このグノモンにはkで割ると1余る数(nk+1),kで割ると2余る数(nk+2),・・・が順に並ぶが,(k+1)の倍数,(k+2)の倍数,・・・が順に並ぶわけではない.そこで,次のように考えることにする.

 n(k+1)≦k^2+1となる最大の数nは,n=k−1であるから,連続する2k+3個の自然数よりなる区間[k^2−1,k^2+2k+1]には,(k+1)の倍数が少なくとも2個あることがわかる.(k+1)の倍数はk+1個ごとに1個存在するからである.区間[k^2−1,k^2]には存在しないから,区間[k^2+1,k^2+2k+1]には,(k+1)の倍数が少なくとも2個あることになる.

 n(k+2)≦k^2+1となる最大の数nは,n=k−2であるから,連続する2k+5個の自然数よりなる区間[k^2−4,k^2+2k+1]には,(k+2)の倍数が少なくとも2個あることがわかる.もっと狭めて区間[k^2+1,k^2+2k+1]には(k+2)の倍数が少なくとも2個あることになる.

 以下同様であるが,(2k+1)の倍数は2k+1個ごとに1個存在するから,連続する2k+1個の自然数よりなる区間[k^2+1,k^2+2k+1]には少なくとも1個存在する.

 これで

  (k^2+1)(k^2+2)・・・(k^2+2k+1)

には(k+1)の倍数が少なくとも2個,・・・,(2k)の倍数が少なくとも2個,(2k+1)の倍数が少なくとも1個あることが証明できたことになる.

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【4】雑感

 ユークリッド原論第二巻は無用の長物としてしばしばこき下ろされるが,後世に応用される有用な定理を含んでいたわけだ.歴史というのは難しいものだ.

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