■スターリングの公式の図形的証明?(その3)

 スターリングの公式にはπが出現しますが,単体,正軸体あるいは立方体の球体近似によって,スターリングの公式を図形的に証明することはできないでしょうか?

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【1】ガンマ関数

  Γ(x)=∫(0,∞)t^(x-1)exp(-t)dt    x>0

この無限積分をxの関数とみてガンマ関数Γ(x)といいます.

  Γ(1)=∫(0,∞)exp(-t)dt=1

  Γ(1/2)=∫(0,∞)t^(-1/2)exp(-t)dt

ここで,t=u^2とおくと∫(0,∞)exp(-u^2/2)du=√π/2(ガウス積分)より

  Γ(1/2)=√π

が得られます.

 オイラーの第2種積分とも呼ばれるガンマ関数Γ(x)には,

  Γ(x+1)=xΓ(x)

の関係があり,次のような漸化式が成り立ちます.

  Γ(x+1)=xΓ(x)=x(x-1)Γ(x-1)=・・・・

したがって,xが正の整数nのときには

  Γ(n+1)=n!

が成り立ち,ガンマ関数は階乗の一般形となっていることがわかります.階乗の解析的補間をしている関数がガンマ関数なのです.

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【2】ガンマ関数と超球との関係

 ガウス積分をn次元に拡張し,

  I=∫(-∞,∞)exp(-x1^2+x2^2+・・・+xn^2)dx1dx2・・・dxn

を考えると∫(-∞,∞)exp(-x^2)dx=√πのn重積分より,直ちに

  I=π^(n/2)

を得ることができます.

 n次元ガウス積分を別の方法,直交座標でなく,極座標で求めてみましょう.球に相当するn次元の図形を超球と呼びます.n次元単位超球{x1^2+x2^2+・・・+xn^2≦1}の体積をVnとすると,V1=2(直径),V2=π(面積),V3=4π/3(体積)はご存知でしょう.また,単位超球の表面積Sn-1はnVn,半径rのn次元球の体積はvnr^n,表面積はnVnr^n-1となります.

 ガウス積分の被積分関数を原点を中心とする半径rの球面上で積分し,次にr=0からr=∞まで積分すると,半径rの球面上で被積分関数は一定値exp(-r^2)をとり,表面積はnVnr^n-1ですから,

  I=∫(0,∞)exp(-r^2)nVnr^n-1dr

=nVn∫(0,∞)r^(n-1)exp(-r^2)dr

z=r^2と変数変換するとdz=2rdrより

I=nVn/2∫(0,∞)z^(n/2-1)exp(-z)dz

=Vnn/2Γ(n/2) n/2Γ(n/2)=Γ(n/2+1)

=VnΓ(n/2+1)

 したがって,

  Vn=π^(n/2)/Γ(n/2+1)

を得ることができます.この結果は,形式的に

  Vn=π^(n/2)/(n/2)!

と書くことができます. Γ(m+1)=m!

これより,半径rのn次元超球の超体積は

  Vnr^n=(πr^2)^(n/2)/Γ(n/2+1)

となります.

 nが整数のとき,実際にVnの値を計算してみると,超球の体積はn=5のとき最大8π2/15=5.2637・・・となり,以後は減少します.

n  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10

Vn  2 3.14 4.19 4.93 5.263 5.167 4.72 4.06 3.30 2.55

(次元を整数に限らなければ5.256次元で最大となり,そのときの体積は5.277・・・である.)

 Vn-1がわかればVnは漸化式:

Vn/Vn-1=Γ(1/2)Γ{(n+1)/2}/Γ(n/2+1)=B(1/2,(n+1)/2)

によって求めることができますが,この計算は面倒ですから,Vn-2との漸化式

  Vn/Vn-2=2π/n

を用いると任意のnに対して

nが奇数であればVn=2(2π)^((n-1)/2)/n!!

nが偶数であればVn=(2π)^(n/2)/n!!

とも書けることも理解されます.

n→∞のとき

Vn/Vn-2=2π/n→0

Sn-1/Sn-3=nVn/(n-2)Vn-2=2π/(n-2)→0

ですから,不思議なことに,単位球面の体積や表面積はn→∞のとき0に収束するのです.

 また,このことから,n次元単位超立方体[-1,1]^nにおいて,単位超球が占める比率は,n=2であればπ/4(79%)であるが,n=5のときは16%に下落し,n=10となると0.25%になることも理解されます.高次元において,超立方体内に一様分布する標本を考えるとき,低次元の場合とは対照的に,大部分のデータは超球外に位置することになります.

 なお,比Vn-1/Vn-2=B(1/2,n/2)は自由度nのt分布の定数であり,実際,フィッシャーはn個の観測値の標本平均と母平均の差(距離)を標本標準偏差で割った統計量tの分布をn次元ユークリッド空間を使って導きだしています.

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【3】ウォリスの公式

  1/2B(1/2,(n+1)/2)=integral(0-π/2)(sinθ)^ndθ

この値をSnとおくと,部分積分により漸化式

  Sn=(n-1)/nSn-2

が得られますから,

n=2k(偶数)なら1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*π/2

n=2k+1(奇数)なら2・4・・・(2k)/1・3・・・(2k+1)

これより,

lim1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*√(k)=1/√(π)

変形するとウォリスの公式

(2n)!/(2^nn!)^2√(n)=1/√(π)

が得られる.

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