■n次元の立方体と直角三角錐(その38)

【1】置換多面体の計量(その3)

 ゾーン多面体はロシアの結晶学者フェドロフによって導入されたが,コクセターはその定義を勘違いしていたようである.(その37)を書いた後,私も置換多面体の定義を勘違いして,高次元の落とし穴にはまっているのかもと不安になった.

 3次元の場合,全体を1次元あげて4次元正単体の境界多面体

  V1(1,0,0,0)

  V2(0,1,0,0)

  V3(0,0,1,0)

  V4(0,0,0,1)

  x+y+z+w=1

をとるとしよう.

 x≧y≧z≧w≧0なる点P(x,y,z,w)が与えられたとき,ずべての稜線の長さが等しくなるのは,点Pからw=0平面,x=y平面,y=z平面,z=w平面までの距離が等しいときである.点Pをn−1次元境界多面体上の点すなわちw=0として,点P(x,y,z,0)からx=y平面,y=z平面,z=w平面までの距離を等しくとると

  (x−y)/√2=(y−z)/√2=(z−w)/√2

 → x=3z,y=2z,z=z,w=0

これらは,x+y+z+w=1上の点であるから代入すると,6z=1

 → x=1/2,y=1/3,z=1/6,w=0

一般には,S=n(n+1)/2として

 → x=n/S,y=(n−1)/S,z=(n−2)/s,・・・,w=0

 また,中心座標は

  c(S)=(1/(n+1),・・・,1/(n+1))

それぞれの胞心は

  c(A)=(1/n,1/n,・・・,1/n,0)

であるから,重心から各頂点に向かうベクトルは

  (n/S−1/(n+1),(n−1)/S−1/(n+1),・・・,0−1/(n+1))

重心から各胞心に向かうベクトルは

  (1/n−1/(n+1),1/n−1/(n+1),・・・,0−1/(n+1))

 ここで,スケールをS倍に拡大すると,

  x=n,y=(n−1),z=(n−2),・・・,w=0

また,中心座標は

  c(S)=(n/2,n/2,・・・,n/2)

それぞれの胞心は

  c(A)=((n+1)/2,(n+1)/2,・・・,(n+1)/2,0)

であるから,重心から各頂点に向かうベクトルは

  (n−n/2,(n−1)−n/2,・・・,0−n/2)

重心から各胞心に向かうベクトルは

  (1/2,1/2,・・・,0−n/2)

 結局,3次元置換多面体は頂点座標が整数(0,1,2,3)の点の置換4!個からなる1辺の長さ√2の多面体であることが理解される.置換多面体では,2頂点が辺で結ばれていることとベクトル(1,2,3,・・・,n+1)の対応する2つの置換が隣り合った要素の互換になっていることが同値であるので,そのこととうまく呼応している.

 ここで,原点(0,0,0,0)から各頂点に向かうベクトルを考えるのか,あるいは,この中心から各頂点に向かうベクトルを考えるのかで違ってくるが,正単体の基本単体数は(n+1)!で与えられるので,全体を1次元あげて4次元正単体の境界多面体をとる場合,中心

  (n/2,n/2,・・・,n/2)

で分割した置換多面体の元素数も(n+1)!となる.正単体の基本単体数は(n+1)!で与えられるので,置換多面体の元素数も(n+1)!となるのではなかろうか?

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【2】4次元置換多面体の形

 2次元置換多面体は正六角形,3次元置換多面体は切頂八面体である.それでは4次元置換多面体の形は?

 レンガのブロック積みを考える.3つのレンガが1点で出会うように平面を敷き詰めると,すべてのレンガは周りの6つのレンガに接することがわかる.お城の石垣でもタマネギの細胞でもこのような原則が成り立っていて,このことから平面充填図形の基本形は6角形であるといえる.6角形の1組の対辺を退化させると4角形になるが,それは6角形から2次的に派生したものと考えることができるだろう.

 次に,空間分割のブロックモデルを考える.1段目を敷き詰めたあと,2段目も1段目と同じように敷き詰めるが,1段目のレンガのすべての頂点を2段目のレンガで覆うようにずらして積み重ねると,1段目のレンガの上には4つのレンガが載ることになる.3段目も同様に行うと同じ段に6,上の段に4,下の段にも4で合計14のレンガに接することになる.このことからレンガは元々14面体であって,それが普通のレンガの形に圧縮されたものと考えることができる.

 2次元細胞は6角形であり,3次元細胞は14面体であることはわかったが,4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう? どのような形になるのかを知る人は(たとえいたとしても)非常に少ないであろう. 4次元格子では30胞体,5次元格子では62房体になる.このことは高次元の場合に一般化できて,ボロノイ細胞の面の数fは原始的な格子に対するものが最大で,2(2^n−1)個である(ミンコフスキーの定理).

n=2   f1=6

n=3   f2=14

n=4   f3=30

n=5   f4=62

 3次元では4組(8枚)の六角形面と3組(六枚)の四角形面からなる14面体が得られる.3次元空間を充填するとき,切頂八面体は各頂点の周りに4個ずつ集まる.

 4次元の場合,10個(5組)の切頂八面体と20個(10組)の正六角柱よりなる空間充填平行多面体が導かれる.これはケルビンの立体の4次元版で,各頂点の周りに5個ずつ集まる.切頂八面体(466)×10と正六角柱(644)×20からなる4次元空間充填図形の諸計量は,

  V=120,E=240,F=150,C=30

  1つの頂点の周りに集まる胞数は(466)×2,(644)×2

となる.

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