■πとeの話

【1】πの乱数度

 円周率πの小数の数字列1415926535・・・はランダムでしょうか.その前に,無理数√2の小数の数字列4141213562・・・は乱数列とみなせるでしょうか.

 ほとんどすべての無理数には,0,1,・・・,9が1/10の頻度で現れることが見いだされていて,√2の0〜9の数字の頻度や二数字の組の頻度と理論度数との食い違いを調べる頻度検定やポーカー検定などのランダム性を判定する普通の検定法では,一応乱数列といってもよいような状況ですが,πの小数の数字列と比べると不規則の度合いが低いことが知られています.

 例として,われわれは,連分数展開によって

(1+√5)/2=[1;1,1,1,1,1,・・・]

√2=[1;2,2,2,2,2,・・・]

のように,1や2が無限に繰り返されるという規則性を見ることができますし,

√3=[1;1,2,1,2,1,2,・・・]

では交互に1,2が現れる循環連分数となります.

√5=[2;4,4,4,・・・]

√6=[2;2,4,2,4,2,・・・]

√7=[2;1,1,1,4,1,1,1,4,・・・]

連分数による実数の近似は,解を下方と上方から近似していく方法であって,ユークリッドの互除法に直結しています.一般に,√dの連分数展開は循環連分数となり周期性が証明されます.これは既約分数の小数展開が循環小数になることと対比するとおもしろい事実です.

 また,超越数eの連分数展開は,

e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,1,1,8,1,1,10,1,1,12,1,1,14,1,1,16,・・・]

と書け,数字の出方が自然数順になっていることがわかります.しかし,πの連分数展開

π=[3;7,15,1,292,1,1,1,2,1,3,1,14,2,1,1,2,2,2,2,1,84,2,1,1,15,3,13,1,4,2,6,6,99,1,2,2,6,3,5,1,1,6,・・・]

にはなんの規則性も見あたらないようにみえます.πに現れる数字0〜9については,重複対数の法則と呼ばれるランダムウォークに基づく非常に厳しいランダムネス検定にも十分合格することが確かめられています.πには少なくとも何進法かの表現の下でなにか隠された未発見の規則性があるに違いないと信じている人もいますが,現在のところ,πは最も複雑な数なのです.

 1997年,近似エントロピーという統計的手法を使った乱数度評価では,乱数度の高い順に並べると

  π>√2>e>√3

の順で,超越数が代数的数より乱数度が高いとは限らないという結果もでているそうです.

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【2】最も有名な超越数

 リンデマンは,エルミートの方法を一般化して,πの超越性を証明するのですが,リンデマンの定理(1882年)より,

  e,π,e^(√2),e^α,log2,logβ

   (α,βは代数的数で,α≠1,β≠1)

の超越性が導かれます.

 1900年,ヒルベルトはパリの国際数学者会議において,2^(√2)が超越数であるかどうかを当時の数学の問題のひとつとしました(ヒルベルトの第7問題).この問題は,「0または1でない代数的数αと有理数でない代数的数βに対し,α^βが超越数であることを示せ」というものですが,1934年,ゲルフォントとシュナイダーによって独立に,肯定的に解決されました.

 その結果,

  2^(√2),e^π,α^β,log102,logba

がいずれも超越数であることが判明しました.

 なお,

  e^π=(-1)^(ーi)

は,ゲルフォント・シュナイダーの定理によって超越数なのですが,

  π^e,π^π,e^e

は有理数かどうかもわかっていませんし,π+eは無理数かどうかも知られていません.

[補]πとeは最も有名な超越数ですが,π+e,πeのうち,少なくとも一方は超越数であることはわかっています.どちらも代数的数であるならば,

  x^2−(π+e)+πe=0

の根であることになり矛盾.

 なお,

  √(πe/2)=1+1/1・3+1/1・3・5+1/1・3・5・7+1/1・3・5・9+・・・

また,標準連分数展開(分子が1)でなく,分母が1になるような連分数展開をすると

  √(πe/2)=[1:1,2,3,4,・・・]

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