■オクターブと調律

【1】ピタゴラスとドレミ

 ピタゴラスは弦の長さを半分にして弾いたとき,1オクターブ高い音がでることを突き止めました.そして,1オクターブの間を振動数が整数比(に近い比)になるように分割していって,ドレミファソラシドという音階の基礎を築いたといわれています.

 弦の長さを1/2にすれば2倍の周波数,1/3だけ短くすると3/2倍の周波数(5度),1/4だけ短くすると4/3倍の周波数(4度),1/5だけ短くすると5/4倍の周波数(3度)が得られます.

 たとえば,いくつの5度音程によってオクターブの整数倍が得られるかというと

  (3/2)^x=2^y → 3^x=2^(y-x)

この整数解はありませんが,3^5=243 〜 2^8=256より,x=5,y=3の近似解が存在します.すなわち,5度音程5つで3オクターブになるというわけです.また,3^5〜2^8の次に一番良い近似が3^12〜2^19で,12の5度音程で7オクターブになります.

 同様に

  (4/3)^5〜2^2

  (5/4)^3=2

4度音程5つで2オクターブ,3度音程5つで1オクターブになります.

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[補]コンピュータのメモリは2進法で表されますから

  2^10=1024 〜 10^3

すなわち,キロ=1024で近似されます.

[補]1666年当時ニュートンはまだ24才の青年でした.この年,彼は<光の分散>という大発見,すなわち,太陽光線がガラスのプリズムを通ると屈折率の差によって赤から紫に至るたくさんの成分に分けられることを発見したのです.

 とくに目立った色だけあげて虹の7色:赤(red),橙(orange),黄(yellow),緑(green),青(blue),藍(indigo),紫(purple):といいますが,これらの色には相互にはっきりしたしきりがあるのではなく,連続的に変化する無数の異なった色からなっています.このようにして生じた美しい光の帯にニュートンはスペクトルという名称を与えました.

 実は,虹には7色あるというニュートンの主張は光学的判断に基づくもの(実験によって客観的に決定されたもの)ではなく,音階理論との間の連想から導かれたものなのです.ニュートン自らは音楽を実践するということはなかったようですが,音楽理論には熱心な興味をもっていたようで,スペクトルを7つの光帯にわけたのは,ドレミファソラシの7音階に対応するようにということであって,5つの主要な色にあとから藍色と橙色を加えてつじつまを合わせたのです.こうすれば,7つの音に7色の色,これは本当にうまく調和しているように見えます.その意味で,ニュートンは17世紀のピタゴラス・プラトン主義者といってもよく,世界は数学的なハーモニーに従っていると確信していたケプラー同様,ニュートンもこの世の調和の研究に生涯を捧げたのです.

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【2】バッハの12平均律

 現在使われている音階はピタゴラスの音階を改良した12平均律音階です.ピアノやオルガンのような鍵盤楽器では1オクターブの間を12の音に分けていますが,転調のために平均律,すなわち,1オクターブの音程を対数目盛を用いて12等分しています.

 バッハによってその基礎が作られたのですが,12平均律音階では半音上がるごとに振動数が2^1/12倍になります.

  r=2^1/12=1.059463094

としてf(x)=1,r,r^2,・・・,r^11,2=2^xですが,rは無理数ですから,ピタゴラス音階のように整数比で表すことはできません.

 ビンセンツォ・ガリレイ(ガリレオ・ガリレイの父)は

  18/17=1.0582・・・

で近似しました.また,メルセンヌは

  (2/(3−√3))^1/4=1.05973・・・

で近似しました.この式は平方根だけを含む式なので幾何学的に作図できる方法になっています.

 しかし,現実に楽器の設計に応用するのは難しく,カリレイの近似値より正確で,メルセンヌのものより使いやすいものが必要になりました.1743年,職人のシュトレーレは数学的訓練を積んでいませんでしたが,平均律関数の単純で実用的な近似式

 (24+10x)/(24−7x)

を与えました.

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[補]シュトレーレは数学的な訓練を受けていなかったので,彼がどのようにしてこの近似式を発見したのかは謎のままである.おそらく職人的な直観によるものと思われるが,あまり正確ではないと誤って評価されてしまった.この誤った評価は1957年にバーバーがその誤りを発見するまで続いた.

  f(1/2)=L(1/2)=√2=1.141421

であるが,シュトレーレの近似式では

  58/41=1.41463

 バーバーはシュトレーレの近似式が正確な理由を,この式が非常に正確なのは平均律関数の分数関数近似(近似理論)と√2のディオファントス近似(数論)という2つのよい近似を効率的に組み合わせているからと結論した.

 バーバーの数学的発見のおかげでシュトレーレの名誉回復がなされた.それにしてもシュトレーレはいったいどうやって近似式を思いついたのだろうか?

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【3】ピアスの13平均律

 2:1のオクターブの代わりに,周波数比3:1を(12ではなく)13等分割する新しい音階も提唱されています.

 この音階では5と7の13乗が3の整数乗に非常に近いところから由来していて,整数比5:3,7:5,9:7から3^(k/13)をすばらしく近似した音階を構成することができます.

  5^13 〜 3^19, 7^13 〜 3^23

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