■球の充填および接触数の問題(その2)

【1】最大接吻数の下界

 格子状配置による最大接吻数の評価は,最終的にはグラフ的算法に帰着されるのですが,

  n  1  2  3  4  5  6  7  8  9

 接吻数 2  6  12  24  40  72  126  240  272

 格子  A1 A2 A3 D4 D5 E6 E7 E8

1≦n≦8では,ガウス記号を用いて

  下界=n([2^(n-2)/3]+n+1)

の形にまとめられます.

 この式はn>8に対しては成り立ちません.たとえば1〜8次元では最大接吻数は格子上で起きる(たとえば,5,6,7次元ではそれぞれ40,72,126)のですが,9次元では格子上での最大接吻数が272であるのに対して,不規則配置では306個の球が接触できるものが知られているのですから,9次元以上になるとルート格子だけでは済まなくなるのです.

 また,n=9のとき

  n([2^(n-2)/3]+n+1)=468となるのですが,コクセター・リーチの上界401よりも大きくなってしまうからです.

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【2】最大接吻数の上界

 リーチは最大接吻数の上界を

  n  4  5  6  7  8  9  10  11  12

 上界  26  48  85  146 244 401 648 1035 1637

と計算しています.τ8=240は証明されていますから,この上界は正確な値に近い線をいっています.

 最大接吻数の上界は,大きなnに対して漸近的に

  (√π)/e・n^3/2・2^(n-1)/2

で与えられることが知られています.

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【3】コクセターの方法

 kissing numberの問題は

  τ1=2,τ2=6,τ3=12

そして,4次元以上の高次元では,8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決です.

  τ8=240,τ24=196560

 n次元球のkissing numberの上界は,コクセターの方法によって粗雑ながら押さえられます.それは1球面上に大きさの等しい球帽(球面上の円,球面半径φ)を埋め込むときの最密充填の問題に帰着されるのですが,それは単体的密度限界

  dn=(2n/(n+1))^(-n/2)Dn

    =(n+1)^(1/2)(n!)^2/2^(3n/2)・vnFn(1/2arcsec(n)θ)

と類似の方法になっています.

 n次元正単体(二面角2θ)の頂点を超球の中心において,(n−1)次元球面上に射影します.球面上には(n−1)次元球面正三角形ができ,その面積は

  Σ=2^(-n)n!snFn(θ)

で与えられます.これは正単体の1辺の球面距離2φの関数になります.

 また,σを球面正三角形の頂角の和とすると,球面上にはn個の点が配置され,(n−2)次元球帽が(n−1)次元球面を覆うことになります.そして,1つの頂角は(n−1)次元正単体を(n−2)次元球面上に射影したものに等しくなりますから

  σ=n2^(-n+1)(n−1)!Fn-1(θ)

 すなわち,上界は

  (p,3,・・・,3),θ=π/p

なる三角形面正多面体(単体的正多面体:n−1次元面が単体)の頂点に(n−2)次元球を配置する問題となるのですが,ここで,球面上にN(φ)個の点を配置した場合,不等式

  N(φ)≦σsn/Σ

が成り立ちますから,最終的に

  N(φ)≦2Fn-1(θ)/Fn(θ)

  sec2θ=sec2φ+n−2

を得ることができます.

 kissing number(τn)に関しては,φ=π/6の場合を考えればよいので,  τn≦2Fn-1(1/2arcsecn)/Fn(1/2arcsecn)

となり,

  n=2 → 2F1(π/6)/F2(π/6)=6

  n=3 → 2F2(1/2arcsecn3)/F3(1/2arcsecn3)=6/(3-π/arcsec3)=13.39・・・

  n=4 → 2F3(1/2arcsecn4)/F4(1/2arcsecn4)=5(1+1/(2-2π/arcsec4))=26.44・・・

 5次元以上では,数値積分によらなければなりませんが,

  fn(x)=Fn(1/2arcsecx)

と書くことにすると,

  f2(x)=arcsecx/x

  fn(x)=1/π∫(n-1,x)fn-2(x-2)/x√(x^2-1)dx

     =fn(n)+1/π∫(n,x)fn-2(x-2)/x√(x^2-1)dx

  fn(x)=fn-1(x)-1/3fn-3(x)+2/15fn-5(x)-17/315fn-7(x)+62/2835fn-9(x)-・・・(n:odd)

  fn(x)=1/3fn-2(x)-2/15fn-4(x)+17/315fn-6(x)-62/2835fn-8(x)+・・・(n:even)

 リーチは台形則を用いて数値積分し,

  2fn-1(n)/fn(n)

を求めました.その結果は

  2f3(4)/f4(4)=22.44・・・

  2f4(5)/f5(5)=48.70・・・

  2f5(6)/f6(6)=85.81・・・

  2f6(7)/f7(7)=146.57・・・

  2f7(8)/f8(8)=244.62・・・

以下,(9)401,(10)648,(11)1035,(12)1637,・・・と続きます.

 コクセターの方法は,現在知られている上界よりほんの少し大きい方に偏っていることがわかります.たとえば,コクセターは4次元におけるキッシング数の限界は24〜26,8次元ではE8格子から240〜244を提示しましたが,スローンとオドリツコは4次元における上限を25に,ハーディンがそれを24にまで下げました.8次元ではスローンとオドリツコは上限を240にまで減らしました.

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