■面正則多面体の展開図とシェパードの定理(その10)

 このシリーズでは,面正則多面体を辺に沿って切り開いた展開図のうち,少なくともひとつがタイル貼りできる性質(TP)をもつ多面体を探索してきました.

 1種類の合同な正多角形で平面を敷き詰められるのは,正三角形,正方形,正六角形を使う3つの場合に限られます(プラトンの平面充填形).2種類の正多角形を使うとどうなるでしょうか? 頂点同士が1点に集まらない条件下では,全部で8種類の一様タイルあります.

 シェパードの甚だ不完全な定理を完結させるためには

  [1]擬似一様タイルを完全網羅すること

  [2]ジョンソン立体・アルキメデス角柱・アルキメデス反角柱の対称性はプラトン立体・アルキメデス立体より低く,運動の自由度を考えると,擬似一様タイルでは一様タイルよりも正三角形が豊富でなければならない(△-rich)

ことは直ちにわかります.

 当初,シェパードの定理を拡張しようとしたとき,擬似一様タイルの存在に気づかないでいて,誤った結論を導きだしてしまったことを白状しておきます.今回のコラムでは,その試行錯誤の歴史を振り返ってみることにしました.

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【1】第1期

 正三角形と正方形が2種類の頂点周りの状態を示しながら集まるタイル貼りを考えます.これらはデルタ多面体に次いで単純なわけですが,正三角形と正方形でできるタイル貼りには本質的に異なる並べ方が2種類あり,平行対称性だけをもつものをT型(挿入型),回転対称性(あるいは鏡映対称性)ももつものをR型(置換型)としました.

 また,カゴメ格子という名は国際的に通用するので,K型と称することにしたのですが,正六角形を含むK型タイルは挿入によっても置換によっても得ることができるところからT型とR型の中間に位置するものとして,独立に扱っておりました.

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【2】第2期

 しかし,第4のパラメータを設ければT型,K型の区別も不要になるところから,(その7)では,擬似一様タイルを

  [1]分割型(R型に相当)

  [2]挿入型(T型,K型に相当)

に2分し,挿入型に関しては2回回転対称で定幅のものに絞って探索することにしました.

 その結果,挿入型からはシェパードが見落としたJ50が発見されました.分割型からは新しいものはなにもでないことが証明されました.また,このときは定幅のものに限って探索したため,六角反柱は候補から外れてしまいました.

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【3】第3期

 その後,六角反柱が性質TPをもつことがわかったことから,正三角形と正六角形でできるタイル貼りでは,正三角形と正六角形に正方形が加わったタイル貼りとは本質的に事情が異なっていることが判明しました.

 それにより,差し渡し幅が一定の展開図という条件は不要になり,中心対称(2回回転対称)の条件下で探索すればよいことわかりました.結局,第1期のT型,R型,K型の分類は正しかったというわけです.

 同じく正三角形と正六角形からできる多面体には切頂四面体がありますが,それはカゴメ格子より△-poorですから候補から脱落.また,正方形と正六角形からできる多面体には切頂八面体や六角柱がありますが,そもそも正方形と正六角形からできるタイルは存在しないわけですからこれらも脱落です.

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【4】第4期

 こうして,T型からはJ50,K型からは六角反柱が発見されましたが,まさに大山鳴動してネズミ二匹でした.しかし,どこから手をつけてよいやらわからなかったものをある程度系統的に探索した結果ですから満足することにしました.

 ただし,これらはいろいろ試した結果であって,すべての組み合わせについてしらみつぶしに検索したわけではないですし,試行錯誤でそこまでやることは到底出来ません.コンピュータによる解析なしに解決し得ない問題なのです.

 まだアルゴリズム作りの途中なのですが,コンピュータを用いた探索時代に移行しつつあります.

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